第14話 番外編 ――帝国が選んだ名
夜会の余韻がまだ残る大広間。
貴族たちはざわめきながらも、皇帝の次の言葉を待っていた。
カイゼルはゆっくりと中央へ歩み出る。
その隣に、リュシエンヌ。
今度は半歩後ろではない。
完全に並ぶ。
「諸侯よ」
低く、よく通る声が広間を満たす。
「王国の混乱は終わった」
静まり返る空間。
「帝国は新たな秩序を築く」
一拍。
「その中枢に立つ者を、ここに示す」
視線が一斉に向く。
カイゼルは、迷いなく彼女の手を取る。
堂々と。
「リュシエンヌ・ヴァレリア」
名が響く。
「我が帝国の財政統括官にして」
わずかに、声が柔らぐ。
「私の正式な婚約者とする」
息を呑む音。
だが反対の声は上がらない。
理由は単純。
彼女の実力を、誰もが知っている。
リュシエンヌの胸が、静かに波打つ。
計算はない。
策略もない。
ただ。
選ばれた。
そして自分も選んだ。
「異議のある者はいるか」
カイゼルの視線が広間を巡る。
誰も動かない。
むしろ、深く頭を下げる者すらいる。
彼女は帝国を立て直した女。
その評価は揺るがない。
カイゼルは彼女の方を向く。
銀の瞳が、真っ直ぐに。
「共犯ではなくなる」
低く。
「伴侶だ」
その言葉に、胸が熱くなる。
リュシエンヌはゆっくりと一礼する。
「陛下」
呼び方が、少しだけ柔らかい。
「わたくしは合理で動く女でございます」
小さな笑み。
「それでよい」
彼は答える。
「私もだ」
そして。
彼は彼女の額に、ゆっくりと口づける。
公然と。
祝福の証として。
拍手が広がる。
帝国は、新たな皇妃候補を迎えた。
リュシエンヌは理解する。
これは策略ではない。
これは、未来。
「……誤算でございました」
小さく呟く。
カイゼルが低く返す。
「何度言う」
「あなたを、本気で愛してしまったこと」
沈黙。
そして、微かな笑み。
「それは誤算ではない」
彼の指が、彼女の手を強く握る。
「私の勝利だ」
広間に歓声が響く。
盤は終わった。
残ったのは、選び合った二人。
帝国は、それを祝福している。




