第13話 番外編 ――選ばれた者の位置
帝都大夜会。
政変終結を祝う華やかな宴。
貴族、商人、外交官。
帝国中枢が集まる場。
音楽が流れ、グラスが鳴る。
ざわめきの中心。
玉座の隣に立つのは――
リュシエンヌ。
今や誰もが知る統括官。
そして、皇帝の最も近い位置。
「……本当に、隣に立たせるのですね」
彼女が小さく言う。
カイゼルは淡々と返す。
「当然だ」
「噂になります」
「すでになっている」
その瞬間。
彼の手が、彼女の腰に回る。
堂々と。
隠さず。
ざわ、と空気が揺れる。
リュシエンヌは一瞬だけ視線を上げる。
「公の場でございます」
「だからだ」
低い声。
「隠す理由がない」
貴族たちの視線が集まる。
だが誰も口を挟まない。
皇帝が選んだ。
それが事実。
音楽が変わる。
カイゼルは彼女の手を取る。
「踊れ」
命令ではない。
自然な誘い。
「……共犯でございましたのに」
「今は違う」
彼の瞳が、柔らぐ。
「公然の相手だ」
会場の中央へ。
ドレスが揺れる。
彼の腕が彼女の腰を引き寄せる。
距離は近い。
夜会の灯りの中。
彼はわざと、ほんの少しだけ顔を寄せる。
耳元に、低く。
「見ているな」
「皆様、でございますか」
「王国の使者も」
リュシエンヌの視線が一瞬だけ流れる。
遠くに立つ王国の外交官。
噂は必ず届く。
「よろしいのですか」
小さく問う。
カイゼルの指が、彼女の背に触れる。
堂々と。
「問題ない」
一歩、さらに引き寄せる。
吐息が頬にかかる。
「私は、貴女を選んだ」
夜会の真ん中で。
公然と。
それは宣言。
リュシエンヌの胸が静かに熱を帯びる。
計算ではない。
見せつけるためでもない。
ただ。
誇らしい。
「……誤算でございます」
彼女は小さく笑う。
「何度目だ」
「あなたを好きになったこと」
カイゼルの瞳がわずかに揺れる。
そして。
踊りの最中。
彼は彼女の手を持ち上げ、
甲に口づける。
ゆっくりと。
見せつけるように。
会場が静まる。
帝国の皇帝が、
公然と一人の女を慈しむ。
その意味は明確。
彼女は駒ではない。
伴侶だ。
リュシエンヌは目を閉じる。
計算も策略もいらない。
ただ、この位置。
彼の隣。
それが、選んだ未来。
音楽が終わる。
拍手が起きる。
だが二人は動かない。
カイゼルが低く囁く。
「盤は終わった」
「ええ」
「これからは」
銀の瞳が近い。
「ただの時間だ」
夜会の灯りの下。
二人は、堂々と並び立つ。
公然と。
帝国はそれを祝福している。




