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あそびの社のよもやま話  作者: 華蘭藤
第一章 霜月の旅人
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10.雨中の光

「この辺りだと思ったが」


 いくらか進めば、また影が群れをなしている。ようやく弱まってきた雨に、(ふう)は傘を閉じながら、そこへ向かっていく。


「掛けまくも畏き伊邪那岐の大神、筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に、禊祓へ給ひし時に成りませる祓戸の大神たち、諸々の禍事、罪、穢れ、あらんをば、祓へ給ひ、清め給へともうす事を聞し召せとかしこみかしこみももうす」


 朗々と響く声に、いくつかの影は光となる。キラリと煌めく光に照らされて、白い姿は森の青に映える。


「名も無く、身も無く、行く先ももたぬものたちよ、あが声を聞き届けたまえ。あが名は諷、この(やしろ)()りにして、其の御霊(みたま)を還す役を務めるもの」


 諷は傘を置き、影に相対する。リン、と鈴の音が空高く鳴った。

 刀を抜く。正眼に構える。


「来い」


 凛とした声が森に響いた。


❀❀❀


 『往くべき道を教えましょう、それは常世か現世(うつしよ)か。

  荒ぶる(こころ)を鎮めましょう、光のご加護を授けましょう。

  哀しく苦しいその場所は、あなたの力に変わりましょう。

  冬の解けたそのあとは、春の日差しが待ちましょう。

  心は繋がり歌となり、そうして大地に芽吹きましょう。

  風に吹かれて気は巡り、雲は旅路につくでしょう。

  広がる空に想いを馳せて、今日という日を生きましょう。

  輝く光に希望を乗せて、明日という日を迎えましょう。

  あなたの生きたその場所は、語り継がれて歌となり、

  あなたの過ごしたその日々は、大きな河へとなりましょう。』


❀❀❀


「あなたの生きたその日々が、たとえ忘れ去られても、あなたの過ごしたその場所が、たとえ消されてしまっても、諷はあなたのその命が、心が、その日々が、無駄なものであったとは思いたくないのです」


 あたりはすっかり晴れやかな空気に満ちていた。納刀し、空へと昇っていく光を眺める。

 いくらかそうしてから、諷はゆっくりと視線を落としていった。


「……ん?」


 その視界に、見覚えのないものがある。


「鉢植え、か? 何かの植物のようだが……、どうしてこんなところに?」


 諷は、地面に落ちているその鉢植えに近づく。先ほどの影たちがいた、中心付近にあったようだ。影はこれに群がっていたのか。とすると、まさか。


「これが、まれびと?」


 馬鹿げた考えだとは思う。まれびとが、こんな植物なんてことはないだろうとも思う。けれど、なんだか諷には、これを見逃してはならないような気がしていた。こういうときの直感は、当たる。

 諷はその鉢植えを持ち上げる。見た目ほどは重くはないらしい。倒れていたにも関わらず、土ひとつこぼれてはいないようだ。


「もさもさしている……」


 赤茶けた鉢植えの上部を覆い隠すように、葉が伸びている。先ほどのあの落雷と共にやってきたというなら、空から降ってきたはずだが、鉢植えに割れたところはない。これがまれびとの力、なのだろうか?

 訝しむ諷の視界の隅で、キラリと光るものがあった。


「……めがね?」


 これまた地に転がる、眼鏡。こんなところに眼鏡があるはずはない。とすれば、これもまれびとのものなのだろう。


「この植物も、めがねも、まれびとの携行品、ということだろうか? うん、そう考えれば、まだしっくりくる」


 いや、鉢植えに入った植物を持ち歩くまれびとというのもなかなか可笑しなものではあるが。

 ともかくと、諷は鉢植えと眼鏡を屋敷に持ち帰ることにした。傘を含めれば、これで両手が埋まるからだ。


「あの雷と共に落ちてきたというならば、持ち物が森の中に散乱してしまっているのやも知れんな」


 まれびとがまだ森の中を彷徨っているだろうし、早く戻らねば。と、森を歩きながら、そんなことを呟く諷の腕の中で、植物と眼鏡が触れた。

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