対極的な勝利
対戦が続く中、けが人は出るが、命に関わるような大けがをする者はいなかった。
おかげでハルカが飛び込んで助けるような場面も訪れず、ほっと胸を撫で下ろすばかりだ。
ただでさえ目立っているのだから、ここでさらに悪目立ちはしたくない。
最後の一戦ではノーレンが出てきたが、その背の小ささのおかげか、それともゴンザブローほど派手な試合運びをしなかったせいか、圧倒的に強いにもかかわらず結構人気は高いようであった。
両手を上げて観客にアピールし、どうもどうもと頭を下げる姿はかわいらしい。
しかし実際に対戦相手に向き合って、ぎゅっと大鎚を構えると、それだけでピリリと空気が引き締まるのが分かった。
いつも通りに選手の紹介がされ、銅鑼の音が鳴り、対戦相手の槍使いが突っ込んでくる。ノーレンはその場から一歩も動くことなく、突き出された槍の柄にそっと大鎚の柄を絡ませた。
間違いなく今大会最重量の武器を扱っているにもかかわらず、ノーレンの動きはそれを感じさせないふわりとした動きに見えた。
相手の動きを読み切ったような、穏やかな動き。
それでも、一連の動作は速かった。
槍に大鎚の柄が触れた瞬間、ノーレンは手首をぐいっと捻り、鎚の部分に槍の柄をひっかける。相手もしっかりと槍を握っていたはずだが、瞬間的に腕が捻られるような感覚を覚えて、たまらずに槍から手を放していた。
もし抵抗していれば、体ごとひっくり返っていたか、手首がねじれて骨を痛めていたことだろう。ノーレンの柔らかな動きが、男の不意を打ち、抵抗をさせなかったのかもしれない。
ノーレンの大槌の先端についた僅かな突起。
それを眉間に突き付けられた相手は、ぽかんと口を開けたまま槍が地面に落ちるのを確認してから、両手を上げて首を振った。
試合終了の声と、銅鑼の音。
上がる歓声。
少々物足りなさはあるかもしれないが、それを上回る技術と、さわやかさであったのだろう。
ゴンザブローの塩試合からずっと戦いを見てきた観客からすれば、一日を締めくくる良い後味の試合ということである。
「師匠もさぁ、強いんだからああいう戦い方したらいいじゃん」
「勝てると思ってきた奴の気持ちをへし折るのが面白いから嫌じゃ」
「性格わるぅ」
「戦いというのはじゃな、性格が悪い方が強い!」
ぐっと拳を握り、塀に足をかけてガッツポーズをするゴンザブローは、まったく悪びれる様子がなかった。確かに性格が悪い方が、相手の嫌がることを進んでできるので、戦いでは強いのかもしれないと、ハルカも思う。
なりたいかどうかは別の話だが。
そんなことを思いながら、ハルカがはっと気づいてユーリの方を向く。
今の話を真に受けては大変だと思ったのだ。
そこには、ユーリの両耳を塞いで、じとっとした目でゴンザブローを見つめるモンタナの姿があった。
「あ、ありがとうございます」
「聞こえてたよ?」
ハルカが礼を言うと、ユーリは小首をかしげて答える。
大きな声を出していたので、仕方のないことだ。
しかしユーリはさらに続ける。
「ママみたいに強くなるから、大丈夫」
強くなるためだからと言って悪い性格になるつもりはない。
心配をしなくたって、ユーリもなんだかんだで分別のつく子である。
ハルカたちはつい過保護になりがちだが、ユーリも色々と考えて、毎日目標を持って生きている。
それはそれとして、ゴンザブローの技術は優秀なので、しっかりと教えてもらうつもりがあるのは、ユーリのちゃっかりしているところだが。
「そうですか……」
ハルカは表情を緩くして、ユーリの頭を繰り返し撫でてやる。
毎日一生懸命頑張って、自分なりに正しい道を進もうとしている。
いい子に育っているなぁと、内心では感動もひとしおであった。
「さぁて、試合も終わったし酒でも買いに行くかのう」
そう言うと、ユーリに悪いことを吹き込みそうな老人は、人の隙間をぴょんぴょんと飛び跳ねて、そのまま外壁の外へと消えていってしまった。
背が小さくずんぐりとした体つきをしているせいで、まるで大きなゴムまりが跳ねまわっているようであった。
「まるで忍でござるなぁ」
「呑気だなー。カオルさん、大丈夫だと思うけど明日は気を付けてくださいねー」
感心して呟くカオル。
明日の対戦相手を称賛するカオルを見て、コリンは思わず心配になってしまった。
「話もしたから無茶はしないと思うけど、師匠って、向こうじゃ【壊し屋】って呼ばれてたらしいし……」
「【壊し屋】……? ほう! そうだったのか! 忍みたい、ではなく、正に伝説の忍であったとは……!」
「どうしてそこで盛り上がるの……」
コリンは冒険者であるが、どちらかと言うと考え方が一般人寄りだ。
強い相手と戦うとなると、ちょっと嫌だなぁと思うタイプである。
一方でカオルは、どちらかと言えばしっかりと冒険者側、というか、侍側の人間のようであった。
相手が【神龍国朧】では有名な【壊し屋】だとわかって、キラキラと目を輝かせている。
「これは気合いを入れて、胸を借りねばでござるな! つまらぬ戦いをするわけにはいかないでござる!」
「お、その調子だ! あの爺を痛い目に遭わせてやれ!」
「拙者、やるでござるよ!」
それを無責任に盛り上げるアルベルト。
やる気があるのはいいことだ。
コリンの言う通り、知り合い相手ならば、ゴンザブローだって無体なことはしないはずだ。
酷い怪我だけはしないでほしいなと思いつつ、ハルカはユーリと手をつないで闘技場から出ることにするのであった。





