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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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1702/1709

対極的な勝利

 対戦が続く中、けが人は出るが、命に関わるような大けがをする者はいなかった。

 おかげでハルカが飛び込んで助けるような場面も訪れず、ほっと胸を撫で下ろすばかりだ。

 ただでさえ目立っているのだから、ここでさらに悪目立ちはしたくない。


 最後の一戦ではノーレンが出てきたが、その背の小ささのおかげか、それともゴンザブローほど派手な試合運びをしなかったせいか、圧倒的に強いにもかかわらず結構人気は高いようであった。

 両手を上げて観客にアピールし、どうもどうもと頭を下げる姿はかわいらしい。


 しかし実際に対戦相手に向き合って、ぎゅっと大鎚を構えると、それだけでピリリと空気が引き締まるのが分かった。

 いつも通りに選手の紹介がされ、銅鑼の音が鳴り、対戦相手の槍使いが突っ込んでくる。ノーレンはその場から一歩も動くことなく、突き出された槍の柄にそっと大鎚の柄を絡ませた。

 間違いなく今大会最重量の武器を扱っているにもかかわらず、ノーレンの動きはそれを感じさせないふわりとした動きに見えた。

 相手の動きを読み切ったような、穏やかな動き。

 それでも、一連の動作は速かった。

 

 槍に大鎚の柄が触れた瞬間、ノーレンは手首をぐいっと捻り、鎚の部分に槍の柄をひっかける。相手もしっかりと槍を握っていたはずだが、瞬間的に腕が捻られるような感覚を覚えて、たまらずに槍から手を放していた。

 もし抵抗していれば、体ごとひっくり返っていたか、手首がねじれて骨を痛めていたことだろう。ノーレンの柔らかな動きが、男の不意を打ち、抵抗をさせなかったのかもしれない。


 ノーレンの大槌の先端についた僅かな突起。

 それを眉間に突き付けられた相手は、ぽかんと口を開けたまま槍が地面に落ちるのを確認してから、両手を上げて首を振った。

 試合終了の声と、銅鑼の音。

 上がる歓声。

 少々物足りなさはあるかもしれないが、それを上回る技術と、さわやかさであったのだろう。

 ゴンザブローの塩試合からずっと戦いを見てきた観客からすれば、一日を締めくくる良い後味の試合ということである。


「師匠もさぁ、強いんだからああいう戦い方したらいいじゃん」

「勝てると思ってきた奴の気持ちをへし折るのが面白いから嫌じゃ」

「性格わるぅ」

「戦いというのはじゃな、性格が悪い方が強い!」


 ぐっと拳を握り、塀に足をかけてガッツポーズをするゴンザブローは、まったく悪びれる様子がなかった。確かに性格が悪い方が、相手の嫌がることを進んでできるので、戦いでは強いのかもしれないと、ハルカも思う。

 なりたいかどうかは別の話だが。

 そんなことを思いながら、ハルカがはっと気づいてユーリの方を向く。

 今の話を真に受けては大変だと思ったのだ。

 そこには、ユーリの両耳を塞いで、じとっとした目でゴンザブローを見つめるモンタナの姿があった。


「あ、ありがとうございます」

「聞こえてたよ?」


 ハルカが礼を言うと、ユーリは小首をかしげて答える。

 大きな声を出していたので、仕方のないことだ。

 しかしユーリはさらに続ける。


「ママみたいに強くなるから、大丈夫」


 強くなるためだからと言って悪い性格になるつもりはない。

 心配をしなくたって、ユーリもなんだかんだで分別のつく子である。

 ハルカたちはつい過保護になりがちだが、ユーリも色々と考えて、毎日目標を持って生きている。

 それはそれとして、ゴンザブローの技術は優秀なので、しっかりと教えてもらうつもりがあるのは、ユーリのちゃっかりしているところだが。


「そうですか……」


 ハルカは表情を緩くして、ユーリの頭を繰り返し撫でてやる。

 毎日一生懸命頑張って、自分なりに正しい道を進もうとしている。

 いい子に育っているなぁと、内心では感動もひとしおであった。


「さぁて、試合も終わったし酒でも買いに行くかのう」


 そう言うと、ユーリに悪いことを吹き込みそうな老人は、人の隙間をぴょんぴょんと飛び跳ねて、そのまま外壁の外へと消えていってしまった。

 背が小さくずんぐりとした体つきをしているせいで、まるで大きなゴムまりが跳ねまわっているようであった。


「まるで忍でござるなぁ」

「呑気だなー。カオルさん、大丈夫だと思うけど明日は気を付けてくださいねー」


 感心して呟くカオル。

 明日の対戦相手を称賛するカオルを見て、コリンは思わず心配になってしまった。


「話もしたから無茶はしないと思うけど、師匠って、向こうじゃ【壊し屋】って呼ばれてたらしいし……」

「【壊し屋】……? ほう! そうだったのか! 忍みたい、ではなく、正に伝説の忍であったとは……!」

「どうしてそこで盛り上がるの……」


 コリンは冒険者であるが、どちらかと言うと考え方が一般人寄りだ。

 強い相手と戦うとなると、ちょっと嫌だなぁと思うタイプである。

 一方でカオルは、どちらかと言えばしっかりと冒険者側、というか、侍側の人間のようであった。

 相手が【神龍国朧】では有名な【壊し屋】だとわかって、キラキラと目を輝かせている。


「これは気合いを入れて、胸を借りねばでござるな! つまらぬ戦いをするわけにはいかないでござる!」

「お、その調子だ! あの爺を痛い目に遭わせてやれ!」

「拙者、やるでござるよ!」


 それを無責任に盛り上げるアルベルト。

 やる気があるのはいいことだ。

 コリンの言う通り、知り合い相手ならば、ゴンザブローだって無体なことはしないはずだ。

 酷い怪我だけはしないでほしいなと思いつつ、ハルカはユーリと手をつないで闘技場から出ることにするのであった。

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― 新着の感想 ―
酔っ払いの爺と侮り、勝てると思ってくる奴の気持ちをへし折るのが面白いのなら、 伝説の達人と敬い、胸を借りるつもりでくるカオルはその真逆だなあ どうすんだゴンザブロー
モチベだいじ。 あとユーリたくましい子
真正面から礼節を持って当たられたらゴンザブロウはやりづらそうね。
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