トットの戦いぶり
ゴンザブローがぎりぎりまでユーリに力の使い方を教えていたので、ハルカたちは先に闘技場へ入って席の確保をしておいた。
選手の入場が始まってもやって来ないので、様子を見に行こうかとハルカが振り返ると、ちょうど闘技場の外壁の上からゴンザブローが姿を現したところだった。
外壁の僅かな凸凹に指をひっかけて登ってきたのだ。
背中にはユーリを背負っている。
普通のルートでやってきては間に合わないとショートカットをしてきたのである。
無茶苦茶なやり方で注目を集めた上、ゴンザブローがあの塩試合の張本人だと気づいた観客たちはどよめいたが、それはもう、仕方のないことである。
そしてハルカたちの下へ真っすぐ近付いてきたのも、当然仕方のないことであった。
諸々の事情を合わせるとだんだん、周りの人たちから【竜の庭】は〈武闘祭〉荒らしだ、と言われても仕方のない状況になってきた。
仕方なく、半分覚悟を決めたハルカである。
「さぁて、確か最終試合がノーレンという娘じゃったな」
やってきてユーリを下ろしたゴンザブローは、立ったまま前方の落下防止のための壁に寄りかかるようにして舞台を眺める。
一応相手になるかもしれない人たちの動きを観察しようという姿勢はあるらしい。
めちゃくちゃ強いのに油断しないというのは、本当に厄介な話である。
「真ん中くらいに、私たちの仲間のトットという男性が出ますよ」
「ほう、ついでにどんなもんか見てやるか」
どうやらゴンザブローは、ここに居座って戦いを見学することに決めたようである。もしかするとこのまま夜もハルカたちの野営地に居座るんじゃないかという気がするが、そうなったらなったで、アルベルトやモンタナ辺りは、訓練相手として喜びそうな気がする。
「ゴンザブローさんは、クダンさんと戦いたいんですよね」
「そうじゃ」
「あそこにいますけど、直接戦いの申し込みはしないんですか?」
「一度負けた時に、『負けたんだからもう喧嘩売ってくんじゃねぇぞ、面倒くせぇ』と言われておる。じゃからこの機会にな!」
クダンのことだから、目の前で駄々をこねれば、もしかしたら普通に相手をしてくれるんじゃないか、なんてハルカは思ったりもする。それくらい、ハルカはクダンが見た目の割にお人好しであると認識していた。
ただそれをゴンザブローに伝えると間違いなくクダンに迷惑がかかるので、「なるほど……?」と曖昧な言葉で話を流しておいた。
さて、試合が順調に進み、トットの出番が回ってくる。
トットの装備は右手にロングソード、左手に腕につけるような盾だ。
全体的に大柄なトットがロングソードを持っていると、片手でも軽そうに見えるから不思議だ。
対戦相手は予選でゴンザブローが最後に追い詰めていた剣士。
サーベルを使っているところを見ると、南方大陸からやってきたのだろう。
選手紹介がなされ、一瞬の静寂の後、銅鑼の音が響く。
それと同時にトットは走りだしていた。
サーベルの剣士はゴンザブローを相手していた時と同様、受け身が基本なのか、サーベルを脇に構えたまま迫ってくるトットを睨みつけている。
トットの攻撃は極めて単純だった。
まず、リーチの長い右手のロングソードを斜めに斬り下ろす。
剣の持ち手の一番下を握り、長い腕で振り回すものだからそのリーチは中々のものだ。
剣士はサーベルでトットのロングソードを迎え撃つ。
金属がぶつかり合う音がして、はじき返されたのは、意外なことにトットのロングソードだった。
トットの体が大きく上に伸びる。
そこへすかさず袈裟切りを叩き込んできた剣士。
トットは体を沈めながらその一撃を、左腕に付けた盾で受け止める。
再び金属音がして、剣士が距離を保つために後退。
サーベルだろうとロングソードだろうと、適切に振り回すためにはある程度の距離が必要だ。つばぜり合いの距離になれば、トットの巨体に勝つことは難しいと、剣士は判断したわけである。
トットも近距離は自分の方が有利であることを分かっているから、一度体を沈めるために曲げた膝をバネのようにして即座に追跡。
雑な動きで追跡してきたトットに対して、剣士はチャンスとばかりに足を止め突きを繰り出した。
対してトットはロングソードの先端を舞台に擦りながら、右下から左上へ思いきりぶん回し、サーベルにぶつける。
剣筋とかそんなものは度外視した、乱暴なやり方だった。
ただ、相手の攻撃を逸らすために、鉄の塊を思いきり振り回してぶつけてやるという動きである。
しかしそれは見事に剣士のサーベルをはじいた。
今度は剣士の方が、上に伸びあがったような姿勢になる。
トットはそのまま止まることなく前進した。
体当たりして剣士を押し倒してマウントポジションを取ると、まず左腕に付けた盾で剣士の手を殴りつぶし、それからロングソードの柄頭で、剣士の鼻の頭をゴッと殴りつける。
それだけで、剣士はサーベルを手放して動かなくなった。
誰に習ったわけでもない。
冒険者らしい喧嘩殺法。
不格好でも、品がなくとも、これが冒険者だと言わんばかりの戦いぶりであった。
勝負ありの宣言で銅鑼の音が鳴り、トットがこぶしを突き上げれば、場内には低い男たちの歓声が上がるのであった。





