ゴンザブローのきまぐれ
「いやぁ、なんかこの大会で勝つと、【不倒不屈】が喧嘩の相手してくれるって話を聞いてな。ついでに賞金で酒でも飲んでやろうかとやってきたわけじゃ。観客席に本人もいたし、あながち嘘ではないんじゃろうなぁ」
「師匠さぁ、一回負けたんでしょ?」
「負けたらもう挑んじゃいかんなんて話はない」
コリンに呆れたように言われると、ゴンザブローは腕を組んでふんっとそっぽを向いた。まるで子供のような仕草である。
「じゃ、ハルカとでも勝負してろよ。他に迷惑かけないで。爺が出てもいい大会じゃないだろ」
「え?」
アルベルトに勝手に名指しで指定されて、ハルカの方が驚きだ。
しかもゴンザブローは嫌そうにハルカのことを見て言った。
「いやぁ、この人はなぁ、ちと生き物としてどうなんじゃ? まだ魔物を相手にしてる時の方がやりやすいからのう。技術の問題ではないから、あまり面白みもないんじゃ」
「えぇ……」
勝手に割り振られて勝手に断られたハルカはとばっちりである。
モンタナとユーリが左右からポンポンと腕を叩いて慰めてくれる。
ちなみにカーミラはちょっと警戒してハルカの後方で様子を見ていた。
気味の悪い戦いぶりを見せたゴンザブローが怖いらしい。
夜であればおそらく、体を自由に分裂させられるカーミラの方が強いのだが、そういう問題ではないのだろう。
「勝てないから言い訳してるだけじゃね」
「クソガキコラ、関節全部外してやろうか」
アルベルトを威嚇するゴンザブローをハルカは手を伸ばして阻止する。
相変わらず喧嘩っ早い老人である。
「はい、喧嘩はやめてくださいね。目的はまぁ、分かりましたけど……。大会に勝っても相手してくれるか分かりませんよ?」
「そこなんじゃがな、一人面白いのがおるじゃろ」
嫌な予感がした。
ニヤつきつつ目を輝かせているゴンザブローはさらに続けた。
「ノーレン=トゥホーク。ありゃあ中々やる。姓が〈東北〉、じゃからな。【不倒不屈】の親類じゃろう?」
「……私たちの友人なのでお手柔らかにお願いします」
ハルカがそう言うと、ゴンザブローは不満そうに眉をひそめた。
「なんじゃい、あ奴もこの大会には似合わん実力者なのに、儂にだけ文句言っておったのか? 身内びいきも甚だしい」
「いえ、あれでも二級冒険者なんです。規定通りですよ」
「それなら儂だって無級冒険者じゃ! 規定通りじゃわい」
「はいはい、もう師匠が出てることには文句言わないから。ご飯でも食べて、のんびりしてってください」
かわいくはないがぷんぷんと怒っているゴンザブローを、弟子のコリンがなだめながら背中を押していく。
偏屈な爺さんだが、酒さえ与えておけば基本的には大人しいのだ。
出場理由も分かったことだし、ハルカたちにできることは、その事情をクダンに伝えておくくらいのことである。
「しかしまぁ、お主らの仲間は粒ぞろいじゃのう。こっちのほそっこい奴らは魔法使いか?」
酒を飲みつつ、一緒に昼食を食べ始めたゴンザブローは、エリとレオンとテオドラを指さして確認する。的確に見抜く辺り、やはり圧倒的な戦闘巧者なのだろう。
「妙な気配をしたのもおるし……」
じろりと見たのはカーミラで、それからにっかりと笑ってユーリを見る。
歯を見せてにやーっと笑うゴンザブローの顔は、とてもやさしそうには見えないし、今にもガパっと口を開けて頭から子供を食べ始めそうな意地の悪さが見え隠れしている。
「子供もおる。まだ小さいのに、それなりに鍛えてそうじゃな。どうじゃ、儂が一つ体術を教えてやろうか? ん?」
「……いいの?」
ユーリが普通に反応したものだから、ゴンザブローはぽかんと目を丸くした。
ゴンザブローが話しかけた子供なんていうのは、大抵逃げ出したり親に泣きついたりするものなのだ。
なにせコリンだって初めて会った時は怖がって逃げ出そうとしたし、アルベルトも足を震わせながらコリンを守ろうとしていたのだ。
それがユーリは、逃げ出すどころか、ちょっと嬉しそうに目を輝かせている。
ゴンザブローにはその反応が新鮮だった。
「おお、おお、よぅしよぅし、爺がいいことを教えてやろう、ちょっとこっち来いこっち」
立ち上がったゴンザブローが、手招きしてユーリを連れていく。
一応心配してハルカがついていくと、その後に他の皆もぞろぞろと続く。
ちょっと離れたところでゴンザブローが両手を前に出して構えて「よしこい、儂を投げてみろ」と無茶苦茶なことを言った。しかし、誰もそれを止めようとはしない。
確かにゴンザブローは背丈こそ小さいが、その代わり筋肉質でどっしりとした体つきをしている。体重はユーリの倍ではきかないだろう。
「はい!」
しかしユーリはためらいなく走りだす。
そうして、立っているだけのゴンザブローの襟をつかんだ瞬間、足を払われ横方向に見事に一回転した。
一回転でピシッと地面に立ったユーリに、ゴンザブローはまた笑う。
「やるのう! 自分で着地したか。しかも、身体強化しておるな? こんな小さい子に何を教えておるんじゃか! ふはは、ふは!」
ゴンザブローはご機嫌だ。
ハルカとしては『こんな小さい子に』という言葉を、そのままユーリを一回転させたゴンザブローに返してやりたいところである。
「ようし、よいか右手を出すんじゃ。そうそう、手の甲同士を合わせる。儂が押したら、お主は引く、儂が引いたらお主は押す。常に手の甲が離れぬよう、よぅく観察してついてくるんじゃぞ」
「あ、なんか真面目に教え始めた……」
コリンも教わった、見覚えのあるやり方だった。
あれは、イリオモテ流合術における、力の流れを把握するための訓練である。
コリンの時は大金と酒を積まれて教えたことを、どうやら真面目にユーリに伝授しようとしているらしい。
「まぁ、真面目に教えてくれるのなら、別に……」
戯れとはいえ、ありがたい機会だ。
ユーリも楽しそうにしていることだし、ハルカはゴンザブローが飽きるまで、この訓練を見守ることにするのであった。
千七百話!
一応百話ごとにお願いしてるので今回も!
もうみんなしてくれてるかもしれないけど、ブクマとか★★★★★とかしてもらえるとモチベグーンで助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。





