一日休み、明日から決勝戦
〈シュベート〉の街へ戻ったナギは、通りの人から見えないように背中を向けて食事をしていたが、どうしたって細長いイタチモグラは目立つ。
黙々と体積が減っていく間に、兵士たちから報告を受けたらしいナスコがやってきてハルカに尋ねた。
「ありゃあ、北の山脈で仕留めた魔物ですか?」
「ええ、あれはナギじゃなくて、レジーナが倒したのですけどね。あの山脈、結構な魔物の縄張りになっていそうなので、もし通りがかる人がいたら気を付けてください」
「忠告感謝します。一応いるのは分かってはいるんですけどね……」
そう言いながらナスコがナギの正面に回り込もうとすると、ナギは前足でそっと獲物を隠そうとする。
あまりよく知らない人に見られるのは嫌みたいだ。
「あー……、通り道があるわけでもなし、わざわざ討伐に行くには時間とお金がかかるもんで、どうしたって後回しになっちゃうんですよ。あの辺りを完全に魔物から解放するには、定期的に山狩りをする必要もありますからね」
「なるほど、大変ですね……」
相手が【独立商業都市国家プレイヌ】所属の冒険者であるハルカだったのでナスコは言わなかったが、他にも討伐をしない理由はある。
もし【ドットハルト公国】が兵士を募って、あるいは冒険者に頼んであの山の魔物退治に乗り出したりなんかしたら、侵略を計画しているのではないかと疑われてもおかしくない。
どうせ人が住んでいないのだから、互いがうっかり攻め込んでみようかな、って気を起こさないためにも、多少魔物がいてくれたほうが良いのだ。
ナスコはそんな話をして、しばし様子を見ていたが、やがて「それじゃあ」と言ってハルカの前から立ち去る。
一応国内の大きな魔物を退治してきてくれたのだから、もしハルカたちが望むようだったら、【ドットハルト公国】は報奨金の一つでも出すつもりでいた。
ナスコは一応、その見極めをするためにやってきたのだ。
頼んでもいない大物魔物を、あの山脈に狩りに行くような冒険者は他にいないので、これまでには例のない判断である。
だからもしお金を支払うとしてもこっそり、ということになるだろうが、ハルカたちは幸い今回の狩りを、ナギとの遊びとしか考えていない。
ついでにガルーダにまで遭遇してしまったものだから、報奨金を貰おうなんてことは話し合ってもいなかった。
もしコリンが一緒に話をしていれば、ピンときたかもしれなかったので、早々に逃げ出したナスコは正解である。ちなみにそのコリンは、戻ってきて早々、仲間たちと一緒にトーナメント表の確認をしに行った。
戻ってきたコリンは、トットとカオル、そしてエリを連れていた。
「お帰り、早かったわね」
エリがハルカに声をかける。
既に日が暮れ始めたくらいの時間であるが、街の北にある山脈は、徒歩で向かえば数日はかかる場所だ。
早いと言えば早いのだろう。
「ナギも成長するにしたがって飛ぶ速度が上がってますからね」
「不思議よね、あんなに速く飛ぶのに、背中に乗っていても落ちたり、強い風を感じたりしないんだもの」
「そうなんですよねぇ……」
普通速度が出れば出るほど、その背中に乗っているものも、しがみつかなければ振り落とされてしまうというものである。
しかし実際は、ナギの背中に乗っての旅は快適そのものだ。
実は飛び始めて間もない頃は、背中に乗ると風を受けてしがみつかなければ落っこちそうになっていたのだ。
しかし、人を背中にのっけるようになってしばらく経った頃には、当たり前のように背中にいる人は風の影響をうけなくなっていた。
おそらく魔法的な何かなのだ。
ナギが自分を中心に風が避けていくような、そんな魔法を自動的に展開している、ということになる。
いちいち空気の抵抗を受けていては速度を出すことも難しいことから、おそらくそれは、飛竜という生物の持つ本能的な能力なのだろうと思われる。
だが、改めて言われてみると確かに不思議な話であった。
「飛竜という生物固有の、本能的な魔法なのかもしれません」
「ハルカの魔法みたいなものね」
「そうですか?」
一応ハルカは魔法を使う時には、想像力を駆使して、こんな魔法を使おうと意識をしている。もちろん使い慣れている魔法となれば、そのプロセスを大いに吹っ飛ばして使うことはできるのだけれど、一応魔法の原理にのっとって使っているつもりだ。
「そうよ。だって、ハルカの魔法って、構造的じゃないもの。ね、レオ」
「うん、まぁ、そう。そういう話をすると、ハルカさんの魔法は、僕たちが使ってるものより、ナギが本能的に使ってるものに近いかも」
エリもレオンも、一応ハルカ的には魔法使いの先輩である。
二人に揃ってこう言われてしまうと、反論の余地もなかった。
「ハールカー、これ、明日からのトーナメント表写してきたやつ」
ハルカが仕方がないかと、自身の魔法についての所感を受け入れているところに、コリンが割って入ってくる。
ちょうど良かったと、ハルカも一度魔法の話から離れて、そちらを見せてもらうことにした。
それによれば、どうやら一回戦では、身内は全員ばらけたようであった。
ただ勝ち抜いた場合、二回戦ではカオルとゴンザブロウが、三回戦ではトットとノーレンが当たりそうだ。仕組んだのか、それとも偶然なのか、ノーレンとゴンザブロウは決勝にたどり着くまでぶつからないようにトーナメントが組まれている。
「師匠に会って、一応話だけでもしておこうかなぁ……」
一応ゴンザブロウはコリンの師匠だ。
カオル相手に無体な戦い方をされては、コリンとしてもたまったものではない。
何のために〈武闘祭〉に出ているのか聞いて、勝ち残るのが目的ならば、せめて戦い方くらい考えてほしいと伝えておきたいところであった。





