おとぎ話のような
「あー……、ちょっと待ってください、話を整理します」
先に話を止めたのは、混乱しているガルーダ側ではなくハルカだった。
ハルカは基本的に突発的な状況への対応力があまり高くない。
随分と慣れてきた方ではあるが、相手を待たせてはいけないと思うあまりに、こういった時の説明順序がぐちゃぐちゃになるのはよくあることだ。
だからいったん仕切り直しをしようと、視線をそらして言うべきことをまとめる。
「まず……、私たちがここに来たのは偶然です。あそこにいる飛竜、ナギというのですが、あの子とちょっと遠出しに来ただけなんです。今日中にここから南へ行ったところにある〈シュベート〉という街に帰る予定です。だから、決してあなた方のことを見つけて討伐しに来たわけではない、それはご理解ください」
「それは、まぁ、分かります」
レストが頷いたところで、ハルカは本当にわかってもらえているだろうかと表情を窺ったが、なにぶん人ではなく鳥のような頭部をしているものだから、はっきりとは分からなかった。
仕方なく、分かってもらえたものとして話を続ける。
「聞いた話によれば、あなた方は住処を追われて、暮らす場所に困っていた。このあたりの山には魔物が多く、かといって平地に降りると人と争うことになる。仕方なく、比較的対応がしやすい魔物が縄張りにしている場所に隠れ住んでいる。この認識で間違いありませんか?」
「そうだけど……」
急に理路整然と話を進められて、レストの方は困り顔だ。
分かりやすいけれどちょっと不気味、といった印象を受けている。
「もし、あなた方が安全に暮らせる場所が用意できると言ったら、移住を希望しますか?」
「それは……」
捕まっている現状、提案を拒否する権利があるとも思っていないレストであるが、それにしたってハルカがどんな人物なのかが分からない以上、あまりホイホイと受け入れられないこともある。
戸惑った様子を見たハルカは、今度はもっと丁寧に話を進めることにした。
「私があなた方に移住を提案するのには理由があります。まず、私にはあなた方のような、人が破壊者と呼ぶような種族の友人がたくさんいます。私自身は人と同じように暮らしているので、それを公にするわけにはいきませんが、人と破壊者が争わないで済むのならば、そのほうが良いと考えています」
「まぁ、別に僕たちも、普通に暮らす分にはわざわざ争おうと思わないけど……」
破壊者でそれが言えるのは中々に穏健派である。
だからこそ、縄張りを追い出されてしまったのだろうけれど。
「その上で……、私は安全に暮らせる土地を持っています。もう少し具体的な話をしましょう。嘘みたいな話に聞こえるかもしれませんが、嘘は一つも言っていませんし、これからも言いません」
ハルカは「ちょっと待ってくださいね」と言って、葉っぱや小石を取り除いて地面を均すと、その上に棒で地図を描き始める。
「これ、この辺りの地図です。今私たちがいるあたりがここ。おそらく朱き氏族が占領をしている山脈がこの辺り。あってますか?」
「多分、あってる」
話が通じたところで、ハルカは頷いて続ける。
「私たち人族は、この辺り一帯を〈混沌領〉と呼んでいます。森にアラクネ、平地に巨人、海には人魚などが住んでいます。ご存じですか?」
「まぁ、一応聞いたことがある」
「良かったです。私は混沌領の、この辺りに住む言葉の通じる種族全般と交流があり、一部の王様をしています。皆の規則を決めて、お互いに争い合わなくていいようにして暮らしてもらっています。ここまで大丈夫ですか?」
レストはふるふると首を横に振った。
ハルカはよく分からないことを言っている自覚もあったし、レストはこの人族、よく分からないことを言い出したと思っていた。
「色々あったんです。コボルトと知り合って、ケンタウロスやリザードマンと協力して戦い、東の端にある街を吸血鬼の支配から奪還しました。その後人魚と知り合い、巨人族の長たちと戦って勝利し、アルラウネや中央の山脈にいるガルーダたち、それに、北の方の遺跡に住んでいたラミアや、西の森にいるアラクネと話し合い、手を取り合うことになりました。あ、元は私たちが暮らしていた拠点近くの、リザードマンの集落と知り合い、そこで王様になったのが始まりなのですが……。とにかく、嘘はついていません」
レストは無言であったが、じっと黙って聞いていることから、きちんと理解してくれていることを期待してハルカは話しを続ける。
「東の端にある〈ノーマーシー〉の街では、コボルトが中心となって畑を耕し、いくつかの種族が共に暮らしています。あなた方が望むのなら、そこへ案内することができます。中央部の山脈のガルーダに紹介しても構いませんし、他に希望をする場所があれば、そこに移住しても構いません。ただ、魔物がいないわけではないので、その辺りは慎重に決めてください。……とにかく、ここにいるよりは良いのではないか、という提案です」
どんなに整理して話したところで、話が胡散臭く聞こえるのは仕方のないことだろうとハルカは思っている。
どこでどれくらいの情報を出すことが、より良い結果につながるのか、まだまだ手探り状態だ。王であるということは隠したほうが良いような気もするし、はじめから言ってしまった方が、安心させることができるかもしれないとも思う。
こればっかりは、相手を見ながら決めなければいけないことであるし、残念ながらそれはハルカが得意とする分野ではなかった。
「良い話ではないか! 何を躊躇うことがある!」
真っ先に反応をしたのはレストではなく、そういえば途中から黙って話を聞いていたガイバーンであった。
妙な言動をしているけれど、どうやら意外と頭が悪いわけではないようである。





