脳天にドーン
魔物は血の臭いに敏感だ。
ハルカが小さな魔物の血抜きをしながら歩いていたおかげか、時折魔物化した動物が姿を現すことがあった。
その全てがハルカの近くに現れ、そして障壁で囲まれて首をチョンと落とされる。
三体目の魔物を倒したところで、ついにレジーナはぴったりとハルカの横を歩くようになった。
次の魔物こそ自分で仕留めようという魂胆である。
ハルカが人の三倍ほどある狼を引きずって歩いているため、主な警戒先は後方だ。
先ほどから襲ってくる魔物の全てが、ハルカを背中から奇襲してきている。
もしかしたら魔物たちから見ても、ハルカはちょっと襲いやすいような動きをしているのかもしれない。
仲間たちと別れて既に三時間ほど。
そろそろ折り返して帰ってもいいかなぁという時間である。
ナギとハルカは空を飛べるが、アルベルトとモンタナ組は獲物を運ぶ手段が徒歩で引きずるのみ。
ハルカもここは公平に、獲物は引きずって帰るつもりでいたから、そろそろ戻ることを考えないと日が暮れてしまう。
「そろそろ戻りましょうかね」
ハルカが振り返ってそう言うと、レジーナは不満そうな表情を見せたが、素直に一緒に回れ右をして、元来た道を戻り始めた。
一応それなりの大きさの魔物を狩ることはできたけれど、この大きさではナギに勝つのは難しいだろう。
ナギが満足するならばハルカはそれで良いのだが、どうやらレジーナはそうでないようで、帰り道も目をぎらつかせている。
負けず嫌いなことであるが、おそらくそれはアルベルトも同様だろう。
帰り道も中腹辺りまでやってきたところで、突然地面が揺れ始め、ハルカは思わず手を木の幹についた。
地震だろうかと思ったハルカであるが、隣に立っているレジーナが〈アラスネ〉を大上段に構えて立っていることを確認し、どうやらそうでないことに気が付く。
モコモコモコと地面が盛り上げながら、前方の地中から何かがハルカたちに接近していた。それは進行方向にある木をなぎ倒し、なかなかの速度でまっすぐに進んでくる。
「なんでしょう……?」
一応真下から攻撃をされないように、自分の足元に障壁を張ったハルカは、レジーナの対応を見守る。
手を出したら怒り出しそうなので、今回は専守防衛でレジーナに全部お任せだ。
地面の盛り上がりが目の前に来た瞬間、レジーナは〈アラスネ〉を巨大化させて、勢いよく地面にたたきつける。
それと同時に盛り上がって現れた何かは、見事に脳天をかち割られ、そのまま地面に再度埋まり込むことになった。レジーナの渾身の一撃を受けてはじけ飛ばなかったのだから、これは中々の大物である。
レジーナがその頭の皮をぐっとつかみ、ぼっと引き抜くと、意外と長い体がずるずるっと穴の中から引きずり出される。
大体今ハルカが運んでいる狼の魔物の、五倍くらいの長さがあった。
爪も牙も十分に同じサイズの生き物を屠ることができそうな、鋭いものを身に着けている。目はやや退化しており、代わりに髭がビヨンと長く、モグラのようにも見えるのだが、それにしては妙に胴体が長い。
「モグラ……、いやイタチ、ですかね?」
「わかんね。でもでかい」
ハルカが首をかしげて尋ねると、レジーナはふんっと鼻を鳴らして満足げに胸を張った。
ハルカが倒した魔物たちは既に血抜きを終えて障壁で運んでいるが、レジーナは自分で仕留めた魔物をハルカに預けるつもりはなさそうである。
そのままずるずると引きずって、待ち合わせ場所に向かって歩き出す。
「重くないですか?」
「重くない」
あちこち引っかかっているし、土やら落ち葉やらを引きずってしまっていて、明らかに重そうなのだが、レジーナは無理やり体を引っ張って先へ進んでいく。
普通の生き物ならば、裂けてずたずたになってしまいそうなものだが、でかく成長した魔物だけあって外皮も丈夫なようだ。
引っかかった時にレジーナが力ずくで引っ張っても損傷は見られない。
「大物ねぇ……」
「ホントですねぇ……」
巨大な獲物を引きずって歩く顔に傷のあるシスターっぽい人物の後を、真っ白な肌をしたお嬢様然とした美女と、褐色の肌をした目つきの鋭い美女が、気の抜けた感想を漏らしながらついていく。
このような深い山には到底似合わない光景である。
もし見かけた者がいたら、自らの目やら頭やらを疑って、その日は回れ右して家に帰ることだろう。
そうして辿り着いた待ち合わせ場所には、まだナギたちも、アルベルトたちも帰ってきていなかった。
まぁ、ナギは空から見下ろしているから、ハルカを直ぐに発見できるはずであるし、アルベルトの方も、モンタナが一緒にいる分には迷子になることはないはずだ。
とりあえずのんびり食事でもしながら帰ってくるのを待とうと、ハルカはたき火を作り始めた。
その間にレジーナが小さめな魔物の皮や肉を処理し、適当な棒に突き刺して遠火であぶり始める。一応こんなこともあろうかと、ハルカは腰に調味料の入った小袋をぶら下げてきているので、味付けにも問題はない。
ハルカが指でつまんだ調味料をパラパラと肉に振りかけると、三人は適当に持ってきた丸太に並んで腰を下ろし、他の者たちが帰ってくるのを待つのであった。
拙作『転生爺のいんちき帝王学』の表紙が出ました。
あっちもいい感じに面白くできているので、良かったらご覧くださいませ!
これ! 主人公の爺と、主人公っぽい王女様です!
https://x.com/K_lanove_books/status/2065389147162870222





