〈竜の港〉の展望
テオドラから話を始めたのは、レオンに頼まれてのことだ。
「孤児たちを引き取って教育するのが教会の孤児院の仕事だろ? それで信者を増やしてるわけだから、下手にそこに割って入ると面倒なことになるんじゃねぇかなって」
オラクル教がここまで広がりを見せているのは、基本的に〈ヴィスタ〉で保護されていた初代ディセント王から、数代先の王が北方大陸全土を制圧したことによるものである。
ただ、世代が交代するほどその信心は薄れていくものだ。
オラクル教はそれを食い止めるために、各町に教会と孤児院を設けて、信者の育成をしている。
ハルカが孤児を村に連れていくことは、それの妨げになるのではないか、という話である。
「実はそれは私も考えていました。加えて、冒険者宿に加入するような子たちも連れていくべきではないのでしょうね。ただ、そういった救済から漏れていくような子たちもいます。だから、子供たちの選定は教会であったり、各宿に任せてもいいと思っているんです」
教会や宿にも、世話をできる上限というものはある。
何せ財源は無限ではないし、世話をする人たちだって限られている。
仕事をさせようにもまだまだ子供であるし、畑を耕そうにも、壁を拡張しないと新たな耕作地を設けることは難しい。
街のキャパシティというものもあるのだ。
先日壁の拡張工事を行っていたが、それでも街の外にも畑は設けられているし、その畑の管理はなかなか難しい。動物が勝手に食べてしまうし、高価な農作物があれば盗まれる可能性だってあるからだ。
それならば、あぶれた子供たちを見て見ぬふりをするのではなく、既存の組織の邪魔をしない範囲で、〈竜の港〉に子供たちを移住させようとハルカは考えていた。
「それでも……、レオやテオが心配するくらいならば、先に教会の許可はとるべきだと思っています。〈武闘祭〉が終わったら、一度〈ヴィスタ〉へ立ち寄って、コーディさんに相談してみましょう」
「はい! ハルカ殿!」
ハルカの言葉に珍しくカオルが手を挙げて意見を述べようとする。
もっとラフに話して構わないのだが、妙に真面目な女性である。
「はい、なんでしょう、カオルさん」
「〈竜の港〉は【竜の庭】の村であるのに、別の勢力の息がかかった子供が入ってきても大丈夫なんでござろうか?」
「い、息がかかったというと……、つまり、子供たちが間者のように使われないか、ってことですよね?」
「そうでござる」
カオルは我が意を得たりとばかりににっこりと笑って頷いた。
そういえば間抜けな振る舞いが多いとはいえ、カオルは元々【神龍国朧】の身分のある侍の生まれである。
土地だとか縄張りだとか言うのに結構こだわりがあるのだろう。
「子供の年齢にもよるけど……、【金色の翼】はともかく、確かに【悪党の宝】とか教会とかは【竜の庭】を探れ、なんて命令を下しててもおかしくないよね」
カオルの指摘によってその可能性に気が付いたコリンも同意する。
情報は金になる。
まして特級冒険者が所属している【竜の庭】の情報は、些細な物でも金と交換したがる者がいるだろう。【悪党の宝】の面々が、その機会を見逃すとは考えにくい。
「〈竜の港〉で隠すべき情報は、今のところありません。〈混沌領〉側にだけ向かわないようにすれば、特に問題はないかと思いますが……」
「それから、大規模に動くのなら、〈竜の港〉を隠すのは難しくなると思うわよ。つまり商人たち……【独立商業都市国家プレイヌ】にも目をつけられるってこと」
ハルカが情報の整理をしていると、更にエリからツッコミが入った。
うーんと唸りながら腕を組んだハルカは、体を少し傾けながら悩みこむ。
課題は山ほどある。困ったものだ。
「ま、でも悪いことじゃないと思うわ。私は賛成。ついでに私は〈竜の港〉を拠点にして活動してもいいわよ。どうせ学校作るつもりだし、本格的に話が動くなら、先生の練習がてら、私が子供たちの世話もついでにしてあげてもいいし」
ハルカの様子を見て、エリはパッと意見を翻す。
別に困らせようと思っていったわけではないし、ハルカの考え方には賛同できる。
【金色の翼】に拾われて育ったエリは、寄る辺がない子供の辛さを知っている。
それに、ハルカの思う理想の形の中には、きっと自分の夢も含まれているのだろうと確信してもいた。
「ありがとう、ございます」
「別に。学校作るなら〈竜の港〉だろうなーって思ってたし。それなら早めに動いたほうが良いじゃない。ま、友達が困ってたら助けてあげるものだしね」
「流石エリ殿! 素晴らしいでござる! 拙者もお手伝いするでござるよ!」
ハルカが感動しているシーンで、どうやらエリの行動が、勝手にもっと心に響いたらしいカオルが立ち上がって大きな声を出した。
やる気は伝わってくるし、空気が柔らかな方向へ壊れたと思えば、悪い仕事ではなかった。
「色々やってみてから考えたらいいです」
「そうだねー、悪いことするわけじゃないし。〈竜の港〉に住んでる人たちも、賑やかになって喜ぶんじゃない?」
モンタナとコリンが同意すれば、後はがやがやと相談が始まった。
トットは端の方で「流石姐さん……!」と感動していたし、アルベルトは剣の整備をして、レジーナは目を閉じて寝っ転がっていたが、誰も反対する者はいない。
何とかなるだろう。
それは、放っといても好転するという楽観的な考えではなく、困ったことがあれば協力して乗り越えていこうという、【竜の庭】の面々による、前向きな仲間意識でもあった。





