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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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選択肢を与える

「いやー、本当に助かったよね。もう間に合わないかと思ってたけど、ナギのおかげで間に合ったよ。ありがとう」


 闘技場を出たハルカたちが、集まって夕食についての話をしていると、ノーレンがやってきてぺこりと頭を下げた。

 それからナギの方へ向かい、何度も「ありがとうありがとう」と言いながら撫でまわし始めた。たくさんお礼を言って撫でてもらって、ナギも嬉しそうである。


「それにしても、本当にぎりぎりの登場でしたね」

「いやぁ、なんかね、南の方に魔物退治に出かけたら全然見当たらないし、仕方なく帰ろうと思ったらさ、護衛が逃げ出しちゃったらしい集団と遭遇しちゃって……。放っておくわけにいかなかったんだよね」

「へぇ、魔物ですか。道中に出ていたんです?」

「うん、そう。大型のトカゲが魔物化したらしくてさ。結構慎重で、草陰とかに隠れて待ち伏せするタイプの魔物らしいんだよね」

「へぇ、トカゲ……」


 その姿を想像したハルカは、数日前にナギが捕まえて食べていた魔物のことを思い出す。そういえば、ナギがその魔物を捕まえた時、丁度人に襲い掛かっているところだったと話を聞いた。

 なんだか色々と話がつながってしまったハルカであるが、あえて伝えることは控えておいた。

 どうやらノーレンは、そういう星の下に生まれたのかもしれないな、などと思う次第である。


 闘技場から出てくる人が減ってきたところで、ハルカは夕食の買い出しに向かう。

 今日の買い出しにはレジーナもついて来ていて、道すがら適当に何かを買っては勝手に食べ始めてしまっていた。

 そんなに好き勝手食べると夕食が入らなくなるのではないかと心配になりそうなものだが、ハルカはあまり気にしていなかった。

 仲間たちは皆大体よく食べる。

 串に刺した肉を数本食べたところで、夕食前のちょっとしたおやつくらいの感覚なのだろう。

 身体強化をしながらの訓練は激しく体内のエネルギーを消耗する。

 ちょっと食べ過ぎなくらいでちょうどいいのであった。


 ハルカはそのまま仲間を連れて、芋をふかしている少年たちがいる屋台へ向かう。

 その後芋を仕入れられていなかったりしたら、売り切れて場所を引き払ってしまう可能性もある。

 今日のうちに一度確認しておきたかった。

 そうして辿り着いた場所では、今日も少年たちが協力し合って芋をふかして売っているようであった。

 どうやら無事に芋を仕入れることができたようである。

 並んで順番が回ってくると、昨日の迎えに来た少年の方がやや困り顔で「また来たんだ」と言った。少年としてもそんな顔をするつもりはなかったのか、すぐに表情を明るくして「今日もいっぱい買ってくれんの?」と言い直す。


「ええ、じゃあとりあえず……」


 ハルカは自分の後ろに並んでいる人がいないことを確認してから個数を注文する。


「いくつかだけ残して全部下さい」

「金持ちの買い方だなぁ」


 根こそぎ買うと、次の買いに来る人が機会を逃してしまう。

 前回は喜びのあまりその辺り気を使えなかったなと思ったハルカが、今度は冷静に迷惑にならない範囲で注文した次第である。

 少年はぶつくさと言いながらも、芋をどんどん紙で包んでハルカに渡していく。


「それから、少し時間をいただけたらと」

「…………あー、まぁ、いいけどさ、あんたなら。おーい、ちょっとここ見ててくれ、俺話するから」


 他の子供たちに声をかけた少年は、場所を外れて「じゃ、こっち」と路地裏に入った。ハルカは仲間たちに、適当に歩いて買い物をしているよう伝えて、少年の後をついていく。


「それで、なに?」


 少年の態度はぶっきら棒だが、それは単純に人に対して丁寧に対応する方法をしっかりと知らないからだ。別にハルカに対して感謝の気持ちを持っていないとか、嫌っているとか、そういうわけではない。


「芋は……、買えたんですね」

「まぁなぁ。あんたさ、すごい人なんだろ、多分。あの威張り腐ってる奴らがさ、何も文句言わないで、安くいいやつ売ってくれたんだ。だから多分この間のより、今日のやつのが美味いはず」

「それは楽しみです」

「……でもさ、俺なんも返せないぜ。見ての通りだし、金があったら飯になっちまうし。やっぱ何かしてほしいこととかあんの?」


 食事を貰って以来、あれはただの親切なのだろうと思っていた少年であったが、長い時間を空けて再び現れたハルカが、今度は危ないところから仲間を救ってくれた。

 これだけ色々とされると、やっぱり何かあるんじゃないか、そう思ってしまうのも仕方のないことであった。


「いえ、そういうわけではないんですが……」

「じゃ、話って何?」


 無駄なことをする暇などなくまっすぐに目的のために生きてきた少年である。

 会話の駆け引きなんてものは分からないから、悩みがちなハルカに対してもはっきりとものを言ってくる。

 だからハルカも意を決して、細かい説明は抜きにして、シンプルに少年に目的を伝えることにした。


「この街での暮らしが大変なら、私が作っている村にみんなと一緒に越してこないかと思ったんです。そこなら土地は自由に使えますし、魚も取れます。魔物にも襲われないように壁を建てていますし、いずれ知りたいことがあれば、学ぶ機会だって用意します」

「何でそんなことしてくれんの?」

「……自己満足ですかね。君たちみたいに懸命に毎日生きてる人が、うまく生きていけたらいいなっていう」


 少年は変な顔をして頭をぼりぼりとかき、狭い空を睨んでからため息を吐いた。


「それさ、あんたが言ってなかったら、全然信じる気になんねぇよ? 馬鹿にすんなって思う。でも多分、本気なんだろうなぁ」

「それは本気です、もちろん」

「街から出るなんて、俺想像したこともねぇよ。この街でどうやって生きてくかってことしか考えてなかった。そんで今、ちょっとずつ頑張って、何とかしようとしてる」


 毎日の食事も難しかった少年は、今となっては屋台を持って自分で金を稼いでいるのだ。そりゃあ本人の言う通り頑張って何とかしているのだろう。


「だから俺はこの街で暮らすよ。……あんたさ偉いんだろ? そのお陰で、この街のめんどくさい奴らも、しばらく手を出してこなさそうだし」

「ずっとそうとは限りませんよ。私がこの街に来たのはたまたまですから」

「分かってる。でも今回の儲けで、俺、ちっちゃい商会作るんだよ。一応色々教えてくれる物好きもいる。あんたの名前が効く間に、自分たちのことは自分たちで守れるようにする。だから、いいよ、俺は俺で頑張る」

「……そうですか」


 なんとなく、こんな答えもあるんじゃないかと思っていた。

 何もない状態から、ここまで成長していたのだから、もしかしたら助けが必要ないんじゃないか、と。

 だからハルカは、意外と少年の言葉にすとんと納得がいっていた。


「その代わり、危なくなったらあんたの名前、ちょっと出してもいいか? 代わりにさ、あんたみたいに、自分じゃ飯手に入れられねぇようなちびたちに、できるだけ飯食わせてやるから」


 ちゃっかりしている。

 名前を勝手に使うなんてことは、よっぽど慎重に決めなければならないことだ。

 だがハルカは、苦笑してすぐに答えた。


「私は特級冒険者のハルカ=ヤマギシです。悪いことに使わないなら、別に私の名前は使っていいですよ。でも逆に、名前を出したから狙われるってことだってあるかもしれませんので、使いどころは慎重に。私の居場所を聞かれたら、【独立商業都市国家プレイヌ】、〈オランズ〉付近の、〈黄昏の森〉に住んでいるとその人に伝えてください」

「…………わかった、覚えた」


 少年はぼそぼそと口の中でハルカの言ったことを復唱して、にっかりと笑ってみせる。一発でしっかり覚えたのだとすれば、よっぽどできのよい頭を持っている。


「ま、またこの街に来たら、顔出してくれよ。その時に何してるか分かんねぇけどさ」

「わかりました、みんな元気に暮らせるように頑張ってください。いざどうしようもなくなったら、私の元を訪ねてください。先ほどの移住の提案は、別に今回限りではありませんので」

「ははっ」


 少年は突然笑うと、変な顔をして言った。


「あんた人が良すぎるよ。絶対なんかで損するぞ」

「……まぁ、その時はその時で」


 それは十分に自覚がある。

 しかしまぁ、仲間の命に関わることでなくて、自分が多少損をする分には別にハルカはそれで構わなかった。


「気を付けたほうが良いと思うけどな」

「それは自分でもそう思っているんですけどね……」


 ハルカはそれから二言三言交わして、あまり時間を貰っても悪いと、少年を解放することにした。

 先に裏路地を出ていこうとした少年は、振り返ってハルカに告げる。


「俺、この街で生きてけりゃいいと思ってたけど、そのうち外にも出てみることにした。あんたがこの街に来なくてもさ、ちゃんと商会作って、そのうち会いに行くよ」


 少年はそう言い残して屋台に戻った。

 ハルカは少年に聞こえていないことを承知で呟く。


「いえ、まぁ、また様子は見に来るつもりですけどね」


 そう呟きながらも、向こうから会いに来てくれるという言葉を嬉しく思っているハルカであった。

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― 新着の感想 ―
はるかの転生者らしいと言うか日本人っぽい平和ボケと言うか、 おひとよしと言うか善性の素直な優しさにほっこりして癒されます。
この回のお話とても良かったです。 拠点の港町に連れていってめでたしめでたしじゃなく、 読者の予想裏切っての展開すごく良いですね、ほっこりしました。
大物になりそうな予感。よく考えて与えられた環境でがんばって生きてる。すごいなあ
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