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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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1687/1714

主役の登場

 順当に試合が進んで、本日最終試合かつ、予選最終試合。


「ノーレンさんいないです」


 目を細くしてじーっと見ていたモンタナが呟く。

 モンタナの言う通り、舞台の上にノーレンの姿を見つけられた者はいなかった。

 ノーレンのことであるから、どこかで万が一、なんてことはないのだろうが、仕事を受けてそのまま忙しくなってしまっているのかもしれない。

 ハルカはちらりとクダンがいる方を見てみる。

 クダンもまた、ノーレンがいないことに当然気が付いているのだろうが、あいかわらずしかめっ面で怖い顔をしているだけだった。

 内心は読み取れない。


 司会のジェイルによる選手紹介が始まるが、おそらく真っ先に紹介しようとしていたであろうノーレンの姿を見つけられず「えー、あれ? いませんねぇ」と呟いてから、他の選手の紹介を始めた。

 このまま出場辞退になるのだろうかと思ったその時、人々の頭上を通り過ぎる影。

 退屈になったのか、ナギが闘技場の上をスーッとゆっくり通り過ぎていったのだ。

 ここ数日で少しずつナギに慣れてきた観客たちは、小さく歓声を漏らしたり、息を飲んだりしていたが、怖がっている者はそれほどいないようであった。

 そんなナギから、何か小さなものが落ちてくる。

 それは丁度舞台の外側の誰もいないところめがけて落ちてきており、ぐんぐんと大きくなっていくにつれ、輪郭がはっきりしていく。

 それは、人の形をしていた。


「どいてどいてどいてねー!」


 着地地点から人をどかすべく、大きな声を張り上げながら落ちてきたのは、ノーレンであった。着地、そしてゴロゴロと転がって落下の力を逃がし、服をぱんぱんと払いながら立ち上がる。

 シンと静まり返っていた観客席がどよめく。

 そうして背中に背負っていた巨大な鎚を「ごめんね、これ預かってもらえるかな?」と言って係員に渡し、ぴょんと舞台の上に飛びあがる。


「間に合った、かな!」


 ぐるんと司会の方を向いたノーレンが大きな声を出す。


「出場者がこれで揃いました! なんと劇的な登場! ここしかないというところで、なぜか! 竜の背から! 降って現れたのは! ノーレン=トゥホーク選手だぁあ!」


 乱入者が選手の一人だと分かった瞬間、観客席から歓声が上がった。

 選手たちからすれば現れない方が良かった参加者であるが、竜に乗っていた上に、そこから降ってきたのに無事。そうして当たり前のように武器を持たずに舞台に立った少女。

 司会による咄嗟のアドリブも相まって、盛り上がらないわけがなかった。

 その中の数人は何やら珍しくて奇妙な家名に気付いたかもしれないが、多くの一般的な市民は、ちょっと名字を聞いたくらいでぴんときたりはしない。

 ジェイルがぎりぎりどさくさに紛れて出した家名は、うまい具合に伝わるべき人だけに伝わるヒントとなっていた。


「さぁ、間もなく試合開始です。皆さま、名場面を見逃さぬよう目に焼き付けてください!」


 遅刻してこんな入場で許されるのか。

 そんな審議をする間もなく、ジェイルが勝手に話を進めていく。

 戸惑っていた係員やドラの音を鳴らす者たちも、ここで待ったをかける勇気はないだろう。


 シンと静まり返った会場に、ドラの音が響き渡った。

 予選最終試合が始まる。



「危なかったなぁ」


 ノーレンはドラの音が鳴ったところで、ようやく額の汗をぬぐった。

 ちょっとばかり南の方へ依頼をこなしに行った帰り、護衛を失った集団と出会ってしまったのだ。

 仕方なく護衛をしてやっていたのだが、集団だけあって歩みは遅く、かといって見捨てるわけにもいかず困っていた。

 ようやくあと一日も歩けば辿り着くだろうというところで、巡回しているドットハルト公国の兵士たちと遭遇。

 事情を説明して兵士にその集団を任せたノーレンは、間に合わないだろうと思いつつ全力ダッシュで〈シュベート〉へ向かう。

 ちょうどそこへ、暇つぶしにお散歩していたナギが通りかかった。

 『知ってる人がいた』と喜んだナギは構ってもらおうとノーレンの近くに着陸。

 ノーレンは事情を説明して、こうして会場まで乗せてもらったというわけである。


 ノーレンは誰も自分にかかってこないことを不思議に思いながら、きょろきょろと周囲を見回して、大きな木槌を武器としている選手を発見。

 素早く駆け寄って「悪いね」と言いながら武器を強奪し、その選手をポイっと場外に放り出した。


 そうして木槌を構え、「よし、かかってこい」と言ったのだが、誰もがわざと目をそらして近寄ろうともしない。


 竜から、しかもあの高さから降ってきて無事であるノーレンに対して、バトルロイヤル形式の予選で勝負を仕掛けるというのは、どう考えても愚かなことである。

 誰も近づいてこないのは当然のことであった。


「勝負! 勝負しようよ!」


 ノーレンが駆け寄っていくと、選手たちが逃げる。

 それで押されて場外に落ちてしまった者もいるくらいだ。

 結局ノーレンは、自分が動くと人の邪魔になるようであることに気付き、途中でぴたりと足を止めて俯いた。

 あまりにいたたまれなかったが、勝ち残るためにはここに立っているしかない。

 結局予選突破者が決まるまでノーレンは放置されたままだったが、一応、しっかり決勝に残ることだけはできたのであった。

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― 新着の感想 ―
なんだかかなC
特に無理もなく高所から落ちて来る奴が弱い訳なくって〜(逃走)
人々を助け、それ故に遅れてくる女! ノーレン=トゥホークッ! (感想欄のせいでこれしか出てこなかったw)
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