フォルカーのバランス感覚
そのまま案内されたのは、貴賓席の奥に用意された一室であった。
そこで待っていたのは一人。
ぴょんとはねたカイゼルひげを生やした男。
口が大きく、眉と目の離れたひょうきんな顔をしたその男は、ハルカも見慣れた〈武闘祭〉の司会をしている人物である。
「おぉや、クダン殿だけがいらっしゃると伺っておりましたが、まさか【竜の庭】のハルカ殿までいらっしゃるとは! 何たる僥倖! 私、司会をしております、ジェイル=ラキールと申します! 一級冒険者かつ、ドットハルト公国の男爵をしております!」
立ち上がったジェイルは、両手を前に差し出しながらハルカに近寄ってくる。
冒険者であったことにも、貴族であったことにも驚いたし、そのどちらの身分をも持ちながら、〈武闘祭〉の司会をしていることにはさらに驚きだ。
相当な変わり者である。
「あ、いつも楽しませていただいております。ハルカ=ヤマギシです」
「これはこれはご丁寧に!」
合わせて両手を差し出すと、ジェイルは一度緩く握ってからさらりと手を放す。
「挨拶はその辺りで。席について話をしましょう」
意外と広い部屋に、いくつものテーブルが用意されている。
だが部屋に居るのは四人だけだ。
フォルカーが、クダンを呼ぶために他の人たちがここを使わないように手配したのだ。
「ジェイルさんとお二人は知り合いなのですか?」
「ええ、結構昔からの付き合いです、どうぞ」
「ありがとうございます」
フォルカーが椅子を引いてくれたことで、ハルカは一瞬戸惑ってから素直に礼を言って腰を掛けた。貴族と会食するような機会はあまりなかったので、このように女性的な扱いを受けるのはまだまだ慣れない。
全員が席に着いたところで、フォルカーがまた口を開く。
「最近の武闘祭はジェイルのおかげで年々好評でして。とはいえ、行き過ぎたおしゃべりをすることがあるので、腹が立ったらひっぱたいて構いません」
「いえ、あまりお気になさらず。本当にまずそうなことがあったら、ちょっと相談させていただきますが」
「私は盛り上げようと一生懸命にやっているんですけどね」
やれやれとジェイルが首を振る。
実際、この男の司会のおかげで観客たちはいつも盛り上がっているし、まずい状況をリカバリーするだけのトーク力もある。
他の人物が司会をしているのはもはや想像がつかない。
「それは分かります。実際、ジェイルさんのおかげで盛り上がっていることは分かりますから」
「おお、大衆の娯楽というものをご理解いただけているようで何よりです! こういう方々がもっと増えるといいのですが!」
何をするにも命懸けの世界だ。
誰に恨まれるかもわからないような司会を、あれだけ堂々とできる者は他にはあまりいないだろう。そう考えると、このジェイルという男は、なかなか貴重な人材である。
「ところで! クダン殿、ハルカ殿! 今朝のあの御老人を見ましたか!? 何かご存じではありませんか! 私としたことが、あんなに目立つ人物を紹介しそこなうとは……! 本戦までに何としてでも情報を手にいれたく!!」
「鬱陶しい、乗り出すな」
椅子から腰を浮かせて前のめりになったジェイルに、クダンが当たり前の注意をする。昨日余計なことを言われて投石をしていた割に、意外と気安い仲であるらしい。
いや、気安い仲であるからこそあれだけのことを言えたのだろう。
対面にいたクダンが、ちらりとハルカに目を向ける。
先ほどゴンザブローに関する情報を聞いているが、それを漏らしていいかどうか判断しかねてのことだろう。
「あー……、細かくは本人に聞いてみたほうが良いと思います。いいお酒を贈り物に持っていけば、きっと色々教えてくれると思いますよ」
「ほう、酒好きですか。しかし本人から情報を得られるのならば、そのほうが良いに決まっています。本戦が始まるまでに居所を突き止めて、何としてでも情報を得てみせましょう! 貴重な情報ありがとうございます!」
「いえいえ」
下手に適当なことを言われるより、本人と直接話してもらったほうが良いだろう。
これくらい熱心ならば、きっと本人が言っている通り直接コンタクトを取りに行くはずだ。
「あ、それからもう一つ。クダン殿、今日の予選の最後にトゥホーク姓の女性が参加しているのですが、あの方はクダン殿の御親戚ですか?」
「うちの娘だ。余計なこと言うんじゃねぇぞ」
「なんと! お子様!!」
「余計なこと、言うんじゃねぇぞ」
「はいはい、それは、はい」
クダンが同じ言葉を繰り返してぎろりと睨みつけると、流石のジェイルも真面目な顔で何度も頷く。
ノーレンが自分から離れた場所で手柄を立てようとしていたことは分かっているから、できることならば邪魔をしたくないのだ。
見た目とは違って、この男、かなり娘想いである。
「ところで、クダン殿の娘さんは、お強いのですか?」
話を受け継いで、雰囲気を変えたのはフォルカーだ。
「まぁ、それなりにな」
相手がフォルカーとなれば、クダンの態度も多少柔らかくなるようだ。
「それは羨ましい。うちの息子、覚えてます?」
「ああ、あのなよっちいの……」
フォルカーはとてもギーツの父親とは思えぬほど、状況に合わせて話を切り替えるのが上手い。貴人であり武人でありながらこうした気遣いもできるのは、フォルカーの最も称賛すべき長所であるのかもしれない。
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『不死たる異端者と災いの竜姫』
ニコニコ
https://manga.nicovideo.jp/comic/78968
カドコミ
https://comic-walker.com/detail/KC_010233_S/episodes/KC_0102330000200011_E?episodeType=first





