待ち時間のお喋り
「まぁ、一応ちゃんとそれらしい動きはしてたけど」
「目で追える範囲での動きではありました……けど……」
着々と常識がずれていっているコリンとハルカが、そんな言葉を交わす。
おそらくゴンザブローが本気で人を壊しに行っていたら、今頃舞台の上は死屍累々であるし、動きだってまともに目で追えるものではなかったはずだ。
それが一応、観客から見ても、何をしているのか分かる程度の動きで留まっていたのだから、かなり手加減をしていたともいえる。
それはそうとして、圧倒的な力の差というか、その奥底に内包された凶暴性のようなものに、多くの観客は圧倒されてしまったのだろうけれど。
決勝でこれくらいのものを見せる分には、半分くらい盛り上がってくれたかもしれないが、予選でこれは本当に良くない。
せめてレジーナとジーグムンドの時のように、実力が拮抗する相手がいれば、といったところだろう。
とにかく、試合が終わった後は、司会の実況解説、そして改めてゴンザブローに調査を入れるなど、あれこれのフォローが入った上で、何とか盛り上がりを取り戻しての二回戦。
いつもよりちょっとばかし雰囲気は変だったが、今度は無事に終了し、三回戦、四回戦となる頃には、すっかり元のペースを取り戻し始めていた。
ちなみにゴンザブローの姿は観客席に見当たらない。
おそらく、さっさと酒を飲みに外へ出ていったのだろう。
少年の姿が見えないまま昼休憩に差し掛かり、ハルカは一度仲間と別れて貴賓席の方へ向かう。
フォルカーと、昨晩の話をしておくためだ。
入れてもらえるかわからないけれど、なんとなく大丈夫だろうと思って歩いていくと、途中で何とクダンの姿を見つけることができた。
そこだけぽっかりと空けているから、見逃す方が難しい。
昔だったら遠慮して話しかけなかったかもしれないけれど、今となってはハルカも有名人だ。クダンほどではないけれど、自分の周囲を人が避けて通っていることくらい気が付いている。
「クダンさん、なにか待っているんですか?」
「まぁな。お前こそどこ行くんだ。出口逆だぞ」
「あ、ちょっとフォルカーさんに用事がありまして」
クダンはじろっと貴賓席の方を見てから、足元を指さして言った。
「じゃあここで待ってろ。迎えに来るらしい」
「ああ、お昼一緒に食べるんですかね」
「そうなんじゃねぇのか」
「お邪魔になりませんかね……」
「ならねぇだろ。まぁ、お前が面倒くさいと思うのなら、話だけ済ませてさっさとどっか行きゃいいだけだ。すれ違うよりましだろ」
「そうですね、じゃあちょっとお言葉に甘えて」
ハルカも壁に寄ってクダンと横並びになって会場を眺める。
舞台は壊れてしまった石板などを取り換えるのに忙しそうだ。
ゴンザブローのような輩が、わざと石板を踏み抜いて蹴り飛ばしたりするのが悪い。
「ノーレンさん見かけてませんが、試合、最後なんですかね」
「さぁ、俺も見かけてねぇな。あいつよく変なことに巻き込まれるから、もしかしたらこねぇかもな」
「あ、そうなんですか。なんだか血の繋がりを感じますね」
「どういうことだよ?」
ぎろりとクダンに睨まれ、ハルカは失言に気付いて目を逸らしながら答える。
「あ、いえ、その、クダンさんも、よく色々なことに巻き込まれているな、と。ほら、師匠のこととかですね」
「……ああ」
ただ鋭い目でハルカの方を見ただけで、別に怒っていたわけではないらしい。
クダンはすぐに納得したように頷く。
「でもそれ、お前もだろ。聞いてるだけでも俺より巻き込まれてるぞ」
「…………まぁ、そうかもしれません」
「どうせまたフォルカーの奴に用事ってのも、面倒ごとだろ」
「あー、そうかもしれません……」
「程々にしとけよ」
「はい……」
「別に怒ってねぇよ」
「はい、それははい、わかってます」
ハルカが段々落ち込んでいくのを見て、勘違いされているのかと思ったらしいクダンが弁解をして、分かっていると答えられて変な顔になる。
『じゃあ好きにやってるんだからいちいち落ち込むんじゃねぇよ』というのがクダンの感想であった。
「あー……、そういえばゴンザブローさんが試合に出てましたね」
「出てたな」
「あ、覚えてるんですね」
クダンに勝負を挑む人物は多いだろうに、意外だった。
普通ならば挑まない恐ろしい相手だが、一定ラインを越えた強者にとっては挑戦すべき高い壁である。
だからこそ、それを越えようとする強者はきっとたくさんいるはずだ。
冒険者とか武芸者とかいうのは、そういうものなのだろうと今のハルカは正しく理解している。
「まぁな。手合わせしたことがある。こんな大会出て何がしてぇんだか」
「手合わせした人って、結構覚えてるものですか?」
「名乗って一対一を挑んできたやつはな」
「あの人がどんな人かとかって知ってます?」
「いやあんま知らねぇ。マジで手合わせしただけだし」
だったらきっと、自分から語るべきではないのだろうとハルカは思う。
きっとゴンザブローはそれを嫌がるはずだ。
「おまえこそ、なんであいつのこと知ってんだ」
「あ、コリンの師匠なんですよ。体術の。あと前に一度話したことがありまして」
「へぇ、お前もあいつに勝負挑まれたんじゃねぇの?」
「よく分かりますね」
「あいつ、特級冒険者見かけると見境なしに仕掛けるらしいからな」
クダンは思い出すようにして青空を眺め、そして少しニヤッとして尋ねてくる。
「で、勝ったんだろうな?」
「ええと、はい、一応」
「だろうな」
ハルカが俯きながら答えたところで、クダンはまるで当然、とでも言うかのように「はっ」と笑う。
そんなお喋りをしていると、間もなく人混みをかき分けてフォルカーが現れた。
「おや、ハルカさんもご一緒でしたか」
「あ、ええと、ちょっとフォルカーさんに相談がありまして……」
「はいはい、では昼食などご一緒にどうです? そこでお話を伺いましょう」
「お邪魔でなければ」
「お邪魔だなんてそんな。クダンさんだって歓迎してくれますよ、ねぇ」
フォルカーが悪戯っぽく笑ってクダンに問いかける。
今のフォルカーは、ギーツの父親でも、フーバー伯爵でもなく、クダンの友人であるフォルカー=フーバーといった感じの悪い笑いだった。
「俺に話を振るな、さっさと案内しろ」
不愉快そうに返事をされ、フォルカーは「おお怖い」と言いながら、二人の特級冒険者を先導し始めるのであった。





