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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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待ち時間のお喋り

「まぁ、一応ちゃんとそれらしい動きはしてたけど」

「目で追える範囲での動きではありました……けど……」


 着々と常識がずれていっているコリンとハルカが、そんな言葉を交わす。

 おそらくゴンザブローが本気で人を壊しに行っていたら、今頃舞台の上は死屍累々であるし、動きだってまともに目で追えるものではなかったはずだ。

 それが一応、観客から見ても、何をしているのか分かる程度の動きで留まっていたのだから、かなり手加減をしていたともいえる。

 それはそうとして、圧倒的な力の差というか、その奥底に内包された凶暴性のようなものに、多くの観客は圧倒されてしまったのだろうけれど。

 決勝でこれくらいのものを見せる分には、半分くらい盛り上がってくれたかもしれないが、予選でこれは本当に良くない。

 せめてレジーナとジーグムンドの時のように、実力が拮抗する相手がいれば、といったところだろう。


 とにかく、試合が終わった後は、司会の実況解説、そして改めてゴンザブローに調査を入れるなど、あれこれのフォローが入った上で、何とか盛り上がりを取り戻しての二回戦。

 いつもよりちょっとばかし雰囲気は変だったが、今度は無事に終了し、三回戦、四回戦となる頃には、すっかり元のペースを取り戻し始めていた。

 ちなみにゴンザブローの姿は観客席に見当たらない。

 おそらく、さっさと酒を飲みに外へ出ていったのだろう。


 少年の姿が見えないまま昼休憩に差し掛かり、ハルカは一度仲間と別れて貴賓席の方へ向かう。

 フォルカーと、昨晩の話をしておくためだ。

 入れてもらえるかわからないけれど、なんとなく大丈夫だろうと思って歩いていくと、途中で何とクダンの姿を見つけることができた。

 そこだけぽっかりと空けているから、見逃す方が難しい。


 昔だったら遠慮して話しかけなかったかもしれないけれど、今となってはハルカも有名人だ。クダンほどではないけれど、自分の周囲を人が避けて通っていることくらい気が付いている。


「クダンさん、なにか待っているんですか?」

「まぁな。お前こそどこ行くんだ。出口逆だぞ」

「あ、ちょっとフォルカーさんに用事がありまして」


 クダンはじろっと貴賓席の方を見てから、足元を指さして言った。


「じゃあここで待ってろ。迎えに来るらしい」

「ああ、お昼一緒に食べるんですかね」

「そうなんじゃねぇのか」

「お邪魔になりませんかね……」

「ならねぇだろ。まぁ、お前が面倒くさいと思うのなら、話だけ済ませてさっさとどっか行きゃいいだけだ。すれ違うよりましだろ」

「そうですね、じゃあちょっとお言葉に甘えて」


 ハルカも壁に寄ってクダンと横並びになって会場を眺める。

 舞台は壊れてしまった石板などを取り換えるのに忙しそうだ。

 ゴンザブローのような輩が、わざと石板を踏み抜いて蹴り飛ばしたりするのが悪い。


「ノーレンさん見かけてませんが、試合、最後なんですかね」

「さぁ、俺も見かけてねぇな。あいつよく変なことに巻き込まれるから、もしかしたらこねぇかもな」

「あ、そうなんですか。なんだか血の繋がりを感じますね」

「どういうことだよ?」


 ぎろりとクダンに睨まれ、ハルカは失言に気付いて目を逸らしながら答える。


「あ、いえ、その、クダンさんも、よく色々なことに巻き込まれているな、と。ほら、師匠のこととかですね」

「……ああ」


 ただ鋭い目でハルカの方を見ただけで、別に怒っていたわけではないらしい。

 クダンはすぐに納得したように頷く。


「でもそれ、お前もだろ。聞いてるだけでも俺より巻き込まれてるぞ」

「…………まぁ、そうかもしれません」

「どうせまたフォルカーの奴に用事ってのも、面倒ごとだろ」

「あー、そうかもしれません……」

「程々にしとけよ」

「はい……」

「別に怒ってねぇよ」

「はい、それははい、わかってます」


 ハルカが段々落ち込んでいくのを見て、勘違いされているのかと思ったらしいクダンが弁解をして、分かっていると答えられて変な顔になる。

 『じゃあ好きにやってるんだからいちいち落ち込むんじゃねぇよ』というのがクダンの感想であった。


「あー……、そういえばゴンザブローさんが試合に出てましたね」

「出てたな」

「あ、覚えてるんですね」


 クダンに勝負を挑む人物は多いだろうに、意外だった。

 普通ならば挑まない恐ろしい相手だが、一定ラインを越えた強者にとっては挑戦すべき高い壁である。

 だからこそ、それを越えようとする強者はきっとたくさんいるはずだ。

 冒険者とか武芸者とかいうのは、そういうものなのだろうと今のハルカは正しく理解している。


「まぁな。手合わせしたことがある。こんな大会出て何がしてぇんだか」

「手合わせした人って、結構覚えてるものですか?」

「名乗って一対一を挑んできたやつはな」

「あの人がどんな人かとかって知ってます?」

「いやあんま知らねぇ。マジで手合わせしただけだし」


 だったらきっと、自分から語るべきではないのだろうとハルカは思う。

 きっとゴンザブローはそれを嫌がるはずだ。


「おまえこそ、なんであいつのこと知ってんだ」

「あ、コリンの師匠なんですよ。体術の。あと前に一度話したことがありまして」

「へぇ、お前もあいつに勝負挑まれたんじゃねぇの?」

「よく分かりますね」

「あいつ、特級冒険者見かけると見境なしに仕掛けるらしいからな」


 クダンは思い出すようにして青空を眺め、そして少しニヤッとして尋ねてくる。


「で、勝ったんだろうな?」

「ええと、はい、一応」

「だろうな」


 ハルカが俯きながら答えたところで、クダンはまるで当然、とでも言うかのように「はっ」と笑う。

 そんなお喋りをしていると、間もなく人混みをかき分けてフォルカーが現れた。


「おや、ハルカさんもご一緒でしたか」

「あ、ええと、ちょっとフォルカーさんに相談がありまして……」

「はいはい、では昼食などご一緒にどうです? そこでお話を伺いましょう」

「お邪魔でなければ」

「お邪魔だなんてそんな。クダンさんだって歓迎してくれますよ、ねぇ」


 フォルカーが悪戯っぽく笑ってクダンに問いかける。

 今のフォルカーは、ギーツの父親でも、フーバー伯爵でもなく、クダンの友人であるフォルカー=フーバーといった感じの悪い笑いだった。


「俺に話を振るな、さっさと案内しろ」


 不愉快そうに返事をされ、フォルカーは「おお怖い」と言いながら、二人の特級冒険者を先導し始めるのであった。

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― 新着の感想 ―
愛妻家に向かって他の女性(おじさん)との食事を歓迎するような発言を向けるな。
これ2人が話してるのを見てる周りからするとクダンの威圧は気付けてもハルカの表情や感情は読めないんだろうな 特級2人が話してると思ったら急に片方がとんでもない威圧感を振り撒き始めてビビってたら無表情で平…
クダンさんが常識人に見える不思議
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