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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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壊し屋

 技らしい技を使うまでもなく、行く手を遮る者全てを放り投げ、関節を外しながら歩みを進めたゴンザブローは、陣形を組んだ者たちの眼前までたどり着く。

 もはや、そこまでたどり着いたゴンザブローの手の届く範囲に近付く者は誰もいなかった。近づけば容赦なく、酷い目に遭わされることが分かり切っている。


「儂が決勝に残ってもよさそうな強そうな奴らを選別してやろう……。ふはっ、ふははっ、試験官ごっこじゃ! お主は失格! お主も失格! お主らも全員失格じゃ!」


 そんな訳の分からないことを言ったかと思うと、ゴンザブローはぐるりと周囲を睨みまわして、尻込みしている選手たちを次々と場外へと放り投げていく。

 選手たちもそのままやられてなるものかと、雄たけびを上げて一斉にゴンザブローへと襲い掛かる。

 そんな光景を見て、コリンが額に手を当てた。


「あーあ、絶対にろくでもないこと言ってる……」

「でも、あの陣形のところには突っ込みませんね」

「……もしかして、あの集団に依頼されて暴れてたりしない?」


 レオンが想像を述べると、全員が黙り込んで顔を見合わせる。


「そんなことする人なの?」


 エリが尋ねると、コリンが目をそらして頷く。


「……するかも」


 それはそれで作戦なのかもしれないし、観客席からできることなどない。

 ハルカたちには、人がぽんぽんと宙を舞う光景を眺めることしかできないのだ。

 ただ、よく見ていればわかるのだが、ゴンザブローはゴンザブローで気を遣っているようで、誰も大きな怪我をしている者はいない。

 関節を外すと言っても、ゴンザブローほどの強者になると、簡単に治せる程度の外し方しかしないようで、場外に向かった選手たちの中には、自分で関節を入れ直して、その場で悔しそうに戦いを観戦している者もいる。


 次々と選手たちがゴンザブローに蹂躙されていく中、陣形を組んだ者たちと、慎重に木槍を構えて先端を揺らす青年。それから腰を低くして両手を顔の横で柔らかく開いたまま待機する中年男性が残る。


 ゴンザブローは気合いの声を上げながら、足をその場で踏み込み、割れた石材をどちらにも蹴り飛ばす。

 槍使いは先端で器用にそれを逸らし、素手の中年男性は体の真正面で受け止めて微動だにしなかった。


「よぅし、そんじゃあ仕上げじゃ」


 陣形を組んでいる者たちから「話が違う」などと声が上がるが、ゴンザブローは気にしたりしなかった。歯を見せて笑うと、隙だらけの歩き方で近付き、突然からころと音を立てていた下駄を一足、足をぶん回して陣形の中の一人へ飛ばす。

 その一人が盾でそれを受け止めると、からりと下駄は地面に落ちた。

 続けざまに飛ばされていた下駄が、また別の男の顔めがけて飛んでいく。

 男は先ほどの仲間と同じく、盾でそれを叩き落とそうとしたが、突然浮き上がって軌道が変わった下駄に顎をスコンと撃ち抜かれて意識を持っていかれる。

 先ほどとは全く威力の違う一撃であった。

 ゴンザブローは二個目の下駄を決めるために、わざと、一撃目の力を抜いたのだ。


「こりゃあ、期待外れかもしれんのう」


 陣形を組んだ者たちがざわついた時には、ゴンザブローはすでに彼らのすぐ近くまで迫っていた。

 フロントにいた数人は、いわゆるタワーシールドと呼ばれるような巨大な盾を、接近したゴンザブローの足の甲を潰すように振り下ろした。

 床材の石にひびが入り割れるような威力であったが、そんな攻撃をゴンザブローが黙って受けるわけもない。

 ぎりぎりのところで足を止めたゴンザブローは、盾と盾の隙間に無理やり指をねじ込んでいく。盾を持っている二人は、指を潰してやろうと思いきり力を込めたが、ゴンザブローの太く短い指は一瞬にして、ぬるりと隙間に這いこんでそれを阻止していた。


「イリオモテ流、甲冑肋剥かっちゅうあばらはがし」


 ゴンザブローの指は、その一本で大岩をぴたりと止め、鉄板を貫くほどに鍛え上げられている。

 この技は、甲冑に両手で抜き手をぶち込み、相手のあばら骨ごと全部胸を開いてやろうという、技というよりも暴力と呼ぶべき物だ。

 とても〈武闘祭〉なんて平和な大会で使えるものではないから、こうして盾持ちを二人地面にたたきつけるためだけに使っているが、本来必殺かつ残酷で、周囲の者の戦うための士気を削ぐ、凄惨な攻撃だ。

 ゴンザブローの戦闘スタイルは、あらゆる手段をもって人間を壊すことだ。

 伊達にあの戦ばかりの【神龍国朧】で【壊し屋】として数十年も恐れられてきていない。

 もちろんコリンにはそんな残酷な技は伝授していない。

 ただ、幼いコリンが理を解するのがあまりに早かったので、面白がって主に軽い当身と、投げ技関節技を中心に教えただけである。


 そのまま両方の手にタワーシールドを握り込んだゴンザブローはにんまりと不敵に笑うと手を振り上げて言った。


「さぁ、決勝に残る最後の一人は誰じゃ!」


 陣形はあっという間に崩れ去る。

 奥の方で、本命として待機していた剣士が、気勢を上げて切りかかり、ゴンザブローの手が突き刺さったタワーシールドによって剣を弾き飛ばされる。

 そうしてゴンザブローは、左右のタワーシールドでその剣士のこめかみを挟みつぶすような攻撃を仕掛け、ぎりぎりのところでぴたりと止めた。


「ふはっ、気合いの入った良い一撃じゃった。お主で四人目。これで予選は終わりじゃな」


 歓声は、あがらなかった。

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― 新着の感想 ―
>>ゴンザブローの手に突き刺さったラウンドシールドによって ラウンドシールドに手が突き刺さっているのではなくて…? それと、このラウンドシールドはフロントの奴らが持ってたタワーシールドとは別物かな?
試験官ごっこ♣ 実質1級上位が紛れてるの不運としか言いようがないよぉ…
クソジジイめw
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