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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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酒飲みの達人、こっそりエントリー

 〈武闘祭〉予選二日目。

 朝食だけ食べてから観客席へ向かおうと、コリンが食事の準備をしてくれている。

 その間ハルカは、ナギのところに集まる今日の出場選手たちの様子を眺めていた。


 そんな中なにやら気まずそうにやってきた少年がいる。

 ハルカはその顔を見て、ああ、昨日もやってきてモンタナと喋っていた少年だと思いだした。

 試合に出るから応援してくれと言っていたらしいが、そういえば昨日は見かけなかった。もしかして見つけられないうちに負けてしまったのかなと思う。

 だから元気がないのだとすれば、声をかけるのにも気を遣ったほうが良いのかもしれないが、放っておくのもかわいそうかとハルカは小さな声で呼びかける。


「どうしました?」

「あ、なんか、俺、昨日司会の人の話聞いてさ。皆が凄い人だって知らなくてさ、モンタナになんかいろいろ言っちゃって……」

「あぁ……、気にしなくても大丈夫ですよ? ええと、モンタナを呼びましょうか?」

「や、いやいい! ……いいです! 昨日試合だと思ってたんだけど、今日だったみたいでさ! 勝ったらまた会いに来るから!」

「あ、そうですか、じゃあ応援しますね」


 ハルカにそう言われた少年は、何度か瞬きをしたが、やがてにっかりと笑った。


「おう、勝ってくる!」


 そう言って走り去っていった少年を見送って、ハルカは元気がいいなぁと思いながら前向きな気持ちを貰う。

 いくつになっても、なんだって前向きに挑戦していきたいものである、なんておじさんらしいことを考えているうちに、コリンから「ご飯できたー」と声をかけられる。

 ハルカは返事をして歩き出す。


 今日の心配事は二つ。

 一つはまだノーレンの姿を見ていないこと。

 もう一つは、昨晩話し合ったことを昼休みあたりに、フォルカーに相談しに行くつもりでいることだ。

 それはそうと、先ほどの少年もいることだし、〈武闘祭〉の見学は楽しむつもりである。

 ハルカたちは揃って朝食を食べ終えると、皆で連れ立って観客席へと向かうのであった。


 早めに準備をしているおかげで、今日も中々いい席を確保することができた。

 引き続きカオルやトットは武闘祭でも目立っていたおかげか、観客からたまに声をかけられる。

 折角だからと通り道の近くの席に陣取らせたら、いつの間にかカオルなんかは女の子に囲まれてしまっていた。どうしてそういう時に限ってポンコツ具合が発揮されないのか、不思議である。

 ハルカたちと一緒にいる時に気が抜けているのか、それとも知らない人に囲まれて緊張しているのか。どちらにせよぼろを出していないのだから構わないのだけれど。


 予選が始まる前の出し物と、司会のトークにより観客席の期待が高まったところで始まる第一試合。

 順調に強そうな者たちが勝ち残り、第二試合。

 なにやら舞台に上がった時点で、あちらこちらから人が集まって、集団で陣形を組み上げている者がいる。誰もが褐色の肌をしており、司会の紹介によればどうやら、南の小国群の、ある国からエントリーしてきた者たちらしい。


 アルベルトが頭をかきながら呟く。


「あんなんで勝って嬉しいか?」

「まー、武闘祭で決勝残ったって、結構箔がつくしー……、小国群の国くらいの規模だと、あれは嬉しかったりするんじゃない?」


 皆がその集団に気を取られている中、朝の少年がどこかにいないかなと探していたハルカは、ある一つの知った顔を見つけてしまい、慌ててコリンの肩をつつく。


「あの、コリン、あれ……」

「え? うわ……、何で出てるの、あの人」

「あ? どれだよ。うわ、酒飲み爺!」


 舞台の端の方でにやにやしながら辺りを見回しているのは、背の低い老人。

 ゴンザブロー=イリオモテである。

 コリンが冒険者になる前に、体術を授けた男であり、【神龍国朧】では【壊し屋】という二つ名で呼ばれた達人だ。

 イリオモテ流合術という無手の自己流武術を修めており、大陸では特級冒険者とも張り合うような強者だ。酒がめっぽう好きで、酒を買うためにしょうもない依頼を受けることもしばしばで……、と考えると、もしかするとこの【武闘祭】にも、酒を買うための金を得るために参加している可能性がある。

 まず間違いなく、出場してはいけないタイプの実力者だ。


「……誰か止めなかったのかな」

「いや、誰も知らなかったんじゃね?」

「大丈夫なんでしょうか?」

「何、ハルカたち知ってる人?」


 話をしているうちにエリに尋ねられたので、コリンの方から解説。

 みんな呆れ顔ではあったが、まぁ、出てしまっているものはどうしようもない。

 ノーレンが出場できるのだから、無名のゴンザブローが出場できるのも仕方のないことであった。


 戦いの銅鑼が鳴った瞬間、腰から取り出した瓢箪を傾けて、その中身、おそらく酒を飲み始めたゴンザブローに向けて選手が襲い掛かり、気付いた時には宙に舞っていた。

 ゴンザブローは対角線上に陣形を組んでいる者たちの方へ向けて、襲い掛かってくる者を次々と投げ飛ばし、笑いながら悠々と歩いていく。

 まさに鎧袖一触。

 格が違うとはこのことであった。


 一方で陣形を組んでいる集団も、次々と襲ってくる即席タッグを組んだ選手たちを、堅牢な守りで跳ね返していく。

 今回の戦いの注目は、間違いなくこの陣形と、ゴンザブローがぶつかるところになるだろうと、観客はヤジを飛ばしたり応援したりと、なかなか盛り上がっている。


「あーあー……」


 一方でコリンはため息交じりに声を漏らした。

 コリンはゴンザブローの強さをよく知っている。

 まもなくあの陣形がボロボロに崩壊させられるのが、目に見えるようであった。

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― 新着の感想 ―
特級相当が2人もいるじゃねーか!!
酔拳の赤鼻の爺さん、ここに転生してたんか!
マジで規定変わる5日前
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