酒飲みの達人、こっそりエントリー
〈武闘祭〉予選二日目。
朝食だけ食べてから観客席へ向かおうと、コリンが食事の準備をしてくれている。
その間ハルカは、ナギのところに集まる今日の出場選手たちの様子を眺めていた。
そんな中なにやら気まずそうにやってきた少年がいる。
ハルカはその顔を見て、ああ、昨日もやってきてモンタナと喋っていた少年だと思いだした。
試合に出るから応援してくれと言っていたらしいが、そういえば昨日は見かけなかった。もしかして見つけられないうちに負けてしまったのかなと思う。
だから元気がないのだとすれば、声をかけるのにも気を遣ったほうが良いのかもしれないが、放っておくのもかわいそうかとハルカは小さな声で呼びかける。
「どうしました?」
「あ、なんか、俺、昨日司会の人の話聞いてさ。皆が凄い人だって知らなくてさ、モンタナになんかいろいろ言っちゃって……」
「あぁ……、気にしなくても大丈夫ですよ? ええと、モンタナを呼びましょうか?」
「や、いやいい! ……いいです! 昨日試合だと思ってたんだけど、今日だったみたいでさ! 勝ったらまた会いに来るから!」
「あ、そうですか、じゃあ応援しますね」
ハルカにそう言われた少年は、何度か瞬きをしたが、やがてにっかりと笑った。
「おう、勝ってくる!」
そう言って走り去っていった少年を見送って、ハルカは元気がいいなぁと思いながら前向きな気持ちを貰う。
いくつになっても、なんだって前向きに挑戦していきたいものである、なんておじさんらしいことを考えているうちに、コリンから「ご飯できたー」と声をかけられる。
ハルカは返事をして歩き出す。
今日の心配事は二つ。
一つはまだノーレンの姿を見ていないこと。
もう一つは、昨晩話し合ったことを昼休みあたりに、フォルカーに相談しに行くつもりでいることだ。
それはそうと、先ほどの少年もいることだし、〈武闘祭〉の見学は楽しむつもりである。
ハルカたちは揃って朝食を食べ終えると、皆で連れ立って観客席へと向かうのであった。
早めに準備をしているおかげで、今日も中々いい席を確保することができた。
引き続きカオルやトットは武闘祭でも目立っていたおかげか、観客からたまに声をかけられる。
折角だからと通り道の近くの席に陣取らせたら、いつの間にかカオルなんかは女の子に囲まれてしまっていた。どうしてそういう時に限ってポンコツ具合が発揮されないのか、不思議である。
ハルカたちと一緒にいる時に気が抜けているのか、それとも知らない人に囲まれて緊張しているのか。どちらにせよぼろを出していないのだから構わないのだけれど。
予選が始まる前の出し物と、司会のトークにより観客席の期待が高まったところで始まる第一試合。
順調に強そうな者たちが勝ち残り、第二試合。
なにやら舞台に上がった時点で、あちらこちらから人が集まって、集団で陣形を組み上げている者がいる。誰もが褐色の肌をしており、司会の紹介によればどうやら、南の小国群の、ある国からエントリーしてきた者たちらしい。
アルベルトが頭をかきながら呟く。
「あんなんで勝って嬉しいか?」
「まー、武闘祭で決勝残ったって、結構箔がつくしー……、小国群の国くらいの規模だと、あれは嬉しかったりするんじゃない?」
皆がその集団に気を取られている中、朝の少年がどこかにいないかなと探していたハルカは、ある一つの知った顔を見つけてしまい、慌ててコリンの肩をつつく。
「あの、コリン、あれ……」
「え? うわ……、何で出てるの、あの人」
「あ? どれだよ。うわ、酒飲み爺!」
舞台の端の方でにやにやしながら辺りを見回しているのは、背の低い老人。
ゴンザブロー=イリオモテである。
コリンが冒険者になる前に、体術を授けた男であり、【神龍国朧】では【壊し屋】という二つ名で呼ばれた達人だ。
イリオモテ流合術という無手の自己流武術を修めており、大陸では特級冒険者とも張り合うような強者だ。酒がめっぽう好きで、酒を買うためにしょうもない依頼を受けることもしばしばで……、と考えると、もしかするとこの【武闘祭】にも、酒を買うための金を得るために参加している可能性がある。
まず間違いなく、出場してはいけないタイプの実力者だ。
「……誰か止めなかったのかな」
「いや、誰も知らなかったんじゃね?」
「大丈夫なんでしょうか?」
「何、ハルカたち知ってる人?」
話をしているうちにエリに尋ねられたので、コリンの方から解説。
みんな呆れ顔ではあったが、まぁ、出てしまっているものはどうしようもない。
ノーレンが出場できるのだから、無名のゴンザブローが出場できるのも仕方のないことであった。
戦いの銅鑼が鳴った瞬間、腰から取り出した瓢箪を傾けて、その中身、おそらく酒を飲み始めたゴンザブローに向けて選手が襲い掛かり、気付いた時には宙に舞っていた。
ゴンザブローは対角線上に陣形を組んでいる者たちの方へ向けて、襲い掛かってくる者を次々と投げ飛ばし、笑いながら悠々と歩いていく。
まさに鎧袖一触。
格が違うとはこのことであった。
一方で陣形を組んでいる集団も、次々と襲ってくる即席タッグを組んだ選手たちを、堅牢な守りで跳ね返していく。
今回の戦いの注目は、間違いなくこの陣形と、ゴンザブローがぶつかるところになるだろうと、観客はヤジを飛ばしたり応援したりと、なかなか盛り上がっている。
「あーあー……」
一方でコリンはため息交じりに声を漏らした。
コリンはゴンザブローの強さをよく知っている。
まもなくあの陣形がボロボロに崩壊させられるのが、目に見えるようであった。





