悩み事つらつら
二人が約束をして去っていったところで、少年がハルカを見上げる。
「助かった、ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
「……でもさ……、いや、なんでもない、じゃあな。また、芋買いに来てくれよ。ほら、行くぞ」
「う、うん。……ありがと」
少年は何か言いたげにしていたが、結局それを言葉にせず、仲間の子を連れて去っていった。
「うーん、一応めでたし、なのかなぁ?」
「そう、なんですかね?」
子供たちは芋を買える。
ずるをした大人は罰せられた。
結果だけ見ると、そんなに悪いものではないが、ハルカはどうもすっきりとはしない。
「納得いかないでござるか?」
「いえ、なんなんでしょうね」
「んー……、ハルカが有名だから相手が引いただけだから、みたいな話?」
コリンがクイズの答えを探るように質問をする。
それは確かにハルカの意志に沿ったものではないのだが、それについては利用できるものは利用するべきだと、割り切るように心がけている。
「それもちょっとあるんですが……。……ああ、いや、そうですね」
ハルカは路地から抜けるべく数歩歩きながら考えて、自分の心の中からもやもやの原因を見つけ出した。
歩きながらハルカは語る。
「なんですかね……、ほら、芋を売っていた方の人がいたじゃないですか。あの人も、あの様子だと普通の商売人じゃないですよね、きっと」
「そうっすね。どうせ裏社会の下っ端だと思うっすよ」
その辺りの事情には割と詳しいトットが頷く。
ああいったのは、個人のしのぎも与えられず、上の者から気まぐれに与えられる飯を食らい、体を張って時折金を稼ぐような生活をしているのだ。
冒険者としての生活に耐えられず、一獲千金を目指して逃げ出していったような半端者が多いので、トットからすれば軽蔑の対象でもあった。
「あの、屋台にいたような子たちも、何かうまくいかなければ、騙す側に回っていたんだろうな、と思うんですよ。つまり……、ああいう、身寄りのない子たちの未来の姿なのだろうな、と思うと、なんとなくやるせなくなりまして」
「そうは言っても、あのガキたちはちゃんと商売もしてるし、あんな奴よりよっぽど立派だと思うんすけどね」
騙した男に対する評価が低いトットが言うと、カオルもうんうんと頷く。
「それは否定しませんよ。あの子たちは立派です。でも、そうなれずに、失敗していく人も多いのだろうな、と」
「ハルカって色々考えるよねぇ。私なんかはさ、結構自分の前にいる人のことしか考えないからなぁ」
ハルカは自分が受けてきた教育や、それまでの経験によって、この世界では考えてもあまり意味のないような広い視野を持っている。
それはただただ、ためらいや失敗の原因になることの方が多いのだが、余裕があれば『なるほど』と思うようなこともある。コリンはハルカのそんな話を聞くのが、割と好きだった。
「つい、余計なことばっかり考えたり、心配したりしちゃうんですよね。あとそれから……」
「あ、まだあるんだ」
ハルカの話がまだ終わっていないことに気付いて声を上げると、ハルカは苦笑して、「もう一つだけ」と続ける。
「あの子たちが、これからも商売を続けようと思っている場合、組織立っていそうな人たちと対立してしまったのはまずかったかもしれないと。余計なことをしてしまった可能性があるなと、思っています」
「あー……、まぁ、そっか」
「……そうかもしれないっすね」
「どういうことでござる?」
コリンとトットは納得したが、実はいいところの血筋で育ったカオルは分からなかったようだ。
「つまりですね、今回は芋を売ってくれるかもしれません、ただ、私たちがこの街にいる間は、何も起こらないでしょう。でも街から立ち去ったらどうでしょう。妙な噂を広められて、彼らと取引してくれる者がいなくなるかもしれません」
「なるほど……」
「私は冒険者として、やる時はしっかりとやりきらなければならないと学びました。しかし今回の件では、中途半端に関わってしまったなと、そう思っているんです。私はあの少年たちに少しだけ縁がありました。ただ、もし彼らが遠回しに遠回しに私のあずかり知らぬところで害された時、後でそれを知った私はどうするべきなのでしょう。ちょっとした知り合いが害されたから、暴れる。気持ちはすっきりするかもしれませんが、これは、どう考えてもやりすぎです。きっと知らないところに、たくさんの敵を作ります。今回の件で、騙した男や後で入ってきた人を、あれ以上攻撃するのも道理に反していると思いますし、かといって、あのまま帰したのでは中途半端で……」
ハルカが考えていることをとうとうと語り続けると、トットは途中で空を仰ぎ、カオルは途中で首を傾げたまま固まってしまった。
それからもしばらくハルカは喋り続けたが、やがて誰も相槌を打たなくなったことに気が付いて、はっとして仲間たちの顔を見て、ようやく喋りすぎてしまったことに気が付いた。
「あ、すみません!」
「だ、大丈夫っす」
「ござる……」
大丈夫じゃなさそうな返事が二つ。
そして一人だけハルカの話に真面目についていっていたコリンは、「うーん」と言ってから、顔を上げてハルカに尋ねる。
「つまりさ、関わった以上、あの子たちの将来に責任取るべきって話でしょ?」
「それは、そうなのかもしれません」
力がある者として、集団として、これからどのように仲間以外の知り合いなどと付き合っていくべきなのか、という広い範囲の話がハルカの悩みの本質である。
ただ、コリンの言ったことが解決できるのならば、今回の件は一応、割とすっきりと片付くことも確かであった。
「んじゃちょっと案があるから、後でまたみんなと相談。話はいったん終わり、いい?」
「あ、はい、すみません、それでいいです」
話し合いをするにも、内容に向き不向きというものがある。
トットやカオルにこの類のことを相談するのは、あまりに酷というものであった。
私が書いている『不死たる異端者と災いの竜姫』という小説のコミカライズが、藤本キシノ先生漫画で始まりました。
ご興味ありましたら是非……!
https://x.com/fjmtksn_work/status/2060573058654761355





