冒険者ってこんなもん
「なぁおい、そのガキが金払いを誤魔化したんだ……、だから追いかけてたってのに、この仕打ちはないんじゃねぇか……?」
「こんなことになってんのはよぉ……」
顔を上げた男の顔面を、トットがその大きな大きな手のひらでがっしりと捕まえる。
「や、やめ……」
「てめぇが姐さんを脅したせいだろうが、あぁ?」
「いたた、痛い痛い、頭が割れる!!」
トットが指に力を込めれば、男のこめかみ付近にぐっと圧力がかかり、頭蓋がミシミシと音を立てる。男は体をじたばたとさせて逃れようとするが、身体強化を会得している二級冒険者のトットを相手に、普通の街で暮らす男が逃げられるわけもなかった。
「トット、やめましょうね」
「はい姐さん」
ハルカの一言でトットがさっと手をどけると、男は涙を流しながらトットを睨みつける。しかしぎろりと睨み返されると、一瞬で目を逸らし今度こそ完全に口を閉ざした。
「トットがすみません。……先に、あなたから事情を聞かせていただけますか?」
男はまた暴力を振るわれるのではないかと思っているのか、恐る恐るトットの方を警戒しながら、ハルカに説明を始めた。
「いやね、俺は親切にもそのガキたちに、余った芋を安値で卸してやってたんですよ。それも、後払いで良いって言ってね。それなのに、今日の支払いの日になったら、売り上げがあるはずなのに、きちんと支払いをしやがらないんですよ」
「嘘だ! ちゃんと払った!」
「黙れ! 足りねぇって言ってんだよ! ……こんな調子で、金の勘定もできないガキが、支払いを誤魔化そうとしてきたから、ちょいと懲らしめてやろうとしていただけなんすよ、ねぇ? 俺はまっとうに商売をしてて、このガキたちはその辺でふらふらして、いつどこでのたれ死んでもおかしくないような奴らですよ? こんな奴の言うこと信用するんです?」
言った言わないの話は水掛け論だ。
男からは独特の嫌な感じはするのだが、それで嘘つきだと決めつけるわけにもいかない。
こんな時、モンタナがいれば助かるのだけれど、と思いながらハルカは地面にへたりこんで、卑屈な表情を浮かべている男に問いかける。
「取引の証文は交わしていますか?」
「こいつら、文字なんてわかりませんよ。口約束です」
「でも……、兄ちゃんたちがちゃんと約束したし……、ちゃんと払った!」
「うるせぇ、クソガキは黙ってろ!」
「……あなたも、子供を怒鳴りつけるのはやめてください」
ハルカに言われると、男は舌打ちを堪えつつそっぽを向く。
態度は極めて悪い。
「芋は一袋いくらで売ったのー?」
「これくらいの袋で、銅貨二枚。お安いでしょ?」
コリンの問いに男は腕を広げて袋の大きさを示す。
「普通かなー……」
子供なら抱えて持ち運ぶような量だ。
それはコリンから見ても、妥当な値段であるようだった。
「いやいや、お安いんですよ」
「いや、普通」
男が首を横に振って笑ったが、コリンは引かなかった。
「俺はね、ここでずっとこんな商いをしてるんですよ? 冒険者のお嬢さんにはわからないかもしれませんが……」
「冒険者だからって、相場も分からないだろうって馬鹿にしてる? この辺歩いてれば、売ってるもんの原価が一つどれくらいするかなんてすぐ分かんの。あんま舐めたこと言ってると、私も怒るけど」
コリンにすごまれた男は完全に怯んでいたが、それでも表情をひきつらせながらなおも続ける。
「……でも、特別高い値段じゃないでしょう?」
「んー、まぁね」
「そうですか……。この人の言ってることは合ってますか?」
ハルカが今の話を子供に確認してみるが、返事は戻ってこない。
「ほぅら、誤魔化してるから返事ができないんですよ!」
「違う! 違うけど……」
「何が違うもんか。いいか、お前らみたいなクソガキはな……」
「あの……、静かにしてください」
「小賢しいこと言ってないで、大人の言うことを黙って聞いてりゃいいんだよ!」
ハルカの制止も聞かずに男は勝ち誇ってしゃべり続ける。
「だから、静かに……」
「それをごちゃごちゃと、ひっ」
「黙らせるでござるか?」
再度ハルカが注意しようとしたところで、男の喉元にチクリと刀がつきつけられていた。平然とした顔でそれをしているのは、何とカオルである。
「ハルカ殿の言葉をこうも繰り返し遮るなど無礼千万でござる。素っ首切り落とせば静かになるでござるよ」
冒険者とはこういうものだ。
普段穏やかなカオルですらこれである。
特に【神龍国朧】生まれのカオルは、自分が上の者と認めた相手に対する無礼に関して、非常に厳しい性質を持っている。
【竜の庭】の世話になると決めているカオルからすれば、ハルカは主君のようなものである。そうでなくとも、ハルカはカオルの命の恩人であるのだ。
カオルの倫理観からすると、ハルカに無礼を働く者の首をチョンと斬り落とすくらい大したことではない。
ハルカと共に活動している仲間たちは、ハルカに影響されて、あれでも意外と穏やかな方なのである。
「あ、いや……、それはちょっと……」
うるさいとは思っていたが殺すほどではない。
ハルカが落としどころをどうしたものかと考えていたところで、見たことのある顔の少年が裏路地に駆け込んでくる。
「おい、大丈夫か! ……あ、耳長のねぇちゃん。…………そいつ殺すの? 殺すなら、俺、どっかに片づけるけど……」
現れたのは芋屋台をしている少年の一人だった。
カオルが刀を突きつけているのを見るや否や、とても物騒で現実的な提案をしてくる。
男は思わず息を飲んで命乞いを始める。
「こ、殺さないでくれ、おい、あんたらが俺をここに連れてった目撃者だっているんだぞ!?」
「いや、殺しませんけど……」
しかしいいタイミングで現れてくれたものだ、とハルカは思う。
新たにやってきた少年がこの子供の仲間だというのならば、この問題はもしかするとすぐに解決することができるかもしれなかった。





