お昼の休憩時間
ギーツのところにも行ってやるべきか、どうするべきか。
ハルカたちとギーツの関係は複雑である。
友人と言えば友人であるけれど、こんな時に駆け付けるような間柄であるかといえば微妙なところだ。
例えばギーツはアルベルトが〈武闘祭〉で怪我をしたときは、心配してやって来てくれたけれど、今のギーツは舞台から転げ落ちただけで、自分の足で立ち上がれるくらいにはぴんぴんしている。
今もぽかんとした表情で舞台の方を眺めているのは、きっとまだ自分が負けたことを受け入れられていないのだろう。
「あ、エレオノーラさんがいなくなってる。ギーツさんに会いに行ったのかなぁ」
試合の結果が見えたところで、コリンが声を上げた。
ハルカも貴賓席に目を向けてみると、確かにエレオノーラの姿がなかった。
「ま、訓練つけてたみたいだしな。あんなみっともない負け方したから怒ってんじゃねぇの」
「……楽しそうに見えたですけど」
「なんでだよ、見間違いだろ」
モンタナの言葉にアルベルトは首をかしげたが、これに関してはモンタナが正しい。エレオノーラがだいぶ特殊な人物であることは、ハルカもコリンも、そしてモンタナもなんとなくわかっている。
彼女の感情を素直に推測しているのは、アルベルトくらいなものだ。
とりあえずそういう事ならば、ギーツの下へ向かう必要はないと判断したハルカたちは、席から立たずに次の試合が始まるのを待った。
今回、予選は二日に分けて行われるわけだが、残りの知り合いは二人。
そのうちトットは今日の試合に出ることが分かっているので、あといつ出てくるのかが不明なのはノーレンだけだ。
街に着いて登録が済んだ後は、何か依頼を受けに行くと言ったきり会っていない。
アルベルトやコリンのような方向音痴ではないから、何か問題がない限り間に合うように戻ってきているはずだ。
もしかしたらと思い次の試合にも注目していたが、結局ノーレンは姿を現さなかった。
会場は一度昼休憩を挟む。
いつも通り適当に屋台で食べ物を買ってきて、皆で揃って食べている途中、ハルカはふと気が付いたことがあってエリに声をかける。
「あの、トットにも食べ物持っていってあげたほうが良かったりしませんかね」
「あー、どうかしら。朝から張り切って準備してただけで、別に出入りができないわけじゃないし、勝手に食べてるんじゃない? 放っておけば?」
「そう、ですかね?」
パーティを組んで活動している割に、割とドライな反応だとハルカは思う。
ただ、実際のパーティの関係なんてこんなものだ。
ハルカたちが最初から仲が良すぎただけで、むしろこの三人は結構仲良くやっている方である。
互いの命は全力で守るし、相手の足を引っ張るようなこともしない。
よく喋るので互いの行動や、何を考えるかもなんとなく想像がつく。
エリはもしかしたらトットが緊張して食事をとってないかもしれない、と思っていたが、それでもあえて届ける必要はないだろうと先ほどの発言をしていた。
なぜなら、ここで改めてハルカに頑張って、なんて言われた日には、トットが余計にガッチガチに緊張してしまうことが目に見えていたからだ。
できれば試合が始まるまでは会わないほうが良い。
じゃあエリが届けてやればいいじゃないか、という話なのだが、それはちょっと面倒くさい。『緊張して食えねぇ』とか言われたら腹が立つし、やはり結論、『放っておけば』となるわけである。
「トット殿も大人でござるから……、お腹減ったら何か食べるでござるよ」
カオルが口にものを詰め込んだまま、もごもごとエリに同意する。
一応口元を押さえているが、頬は膨らんでいてリスのようだ。
間抜けな表情であったが、幸いなことに、カオルにキャーキャー言っていた女の子たちは、ナギに恐れをなして近くにいない。
もしこの姿を見れば幻滅していたに違いない。
あるいは、妙な庇護欲に目覚めた可能性もあるけれど。
ハルカたちは食事を終えてちょっと休むと、再びナギにお留守番を頼んで闘技場の観客席へ戻る。
ナギはぎりぎりまで横についてきていたが、ハルカたちの姿が闘技場の中に消えると、その場で足をたたんでべったりと地面に顎をつける。
そうしてしばらく大人しくしていたナギだが、司会の声が聞こえてくると、立ち上がって空を飛び、闘技場の上空をぐるぐると回った。
観客の中には怯えていた者もいたが、司会がすかさずナギの紹介をしたことによって、何度か旋回を繰り返すうちに、悲鳴はやがて歓声に変わっていく。
ナギは観客席にハルカたちの姿を見つけると、サービスでもう何度か上空を旋回する。目のいいナギには、笑って手を振っている人たちの姿がしっかりと見えていたのでとてもご機嫌なまま、先ほどまで伏せていた場所へ戻っていく。
兵士たちは連日ナギの様子を見ているので、いきなり戻ってきても、流石に怖がったりしない。
「お、帰ってきたのか……」
一人の兵士が呟くと、「おー、お帰りナギ」と、何人かが続く。
これにも大満足のナギは、地面にぺったりと伏せ、満足げに鼻から長く息を漏らすのであった。





