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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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シモンの様子

 一度見つけてしまったものだから、皆他に目をくれずにシモンの動きに注目する。

 ハルカは動きについて詳しいことは分からないのだが、随時仲間たちが解説をしてくれるので案外面白い。

 シモンは目立つ見た目をしているわけでもないから、周りの者に頻繁に狙われたりしない。最初に戦っていた相手も、何度か攻撃を受け流して、打ち返すうちに、相手の方がシモンが意外と手ごわいと気づいて引いていった。

 自分の方からは仕掛けず、じりじりと舞台の上を移動していると、少しずつ人数が減ってきて、やがて褐色肌のサーベル使いと正面から向き合うことになった。武器と言い見た目といい、まず間違いなく、帝国からやって来た者だろう。


 シモンは相手からの激しい打ち込みを小盾で受け流そうとするが、角度をうまく調整されてしまったのか体が傾く。


「まずいです」

「ありゃ駄目かもな」


 真面目に見学しているモンタナとアルベルトが言葉をこぼす。


「確かに、押されてますね」

「押されすぎだな。実力で負けてんのに、一発勝負仕掛けにいけねぇんじゃ勝機はねぇよ。戦い方全般が慎重すぎんだよ」

「あー、なるほど……」


 アルベルトは不利だと思う時ほど積極的に前に出ていく。

 実際、実戦においては、危ない時に一歩前に出られるかどうかが明暗を分けることはよくあることだ。

 慎重な性格であるほど、依頼を無難にこなすことはできるかもしれないけれど、戦士として強くなるにはあまり向いていない。


「動きも荒いから、多分特定の師匠もいないです」

「見よう見まねにしては頑張ってるよねー」

「あ……」


 仲間たちの話を聞いているうちに、シモンは少しずつ押されていき、最後には足を踏み外すようにして場外へと転落してしまった。

 シモンは悔しそうに会場を見上げていたが、しばらくすると自分の足で立ち上がり、退場するために会場の出入り口の方へと歩いていく。


「……ちょっと声をかけてきます。真面目に暮らしているようですし」

「一緒に行く?」


 立ち上がったハルカにコリンが声をかける。

 ハルカとしては一緒に来てもらった方が心強いけれど、シモンのことを信じて解放することを決めたのは、他でもないハルカだ。


「いえ、一人で行ってきます。ありがとうございます」

「ん、じゃあ気を付けてねー」


 だったら弁の立つコリンに手を借りるのは違うような気もして、ハルカはそのまま一人で階段を上り、シモンがいそうな方へ向かうことにした。

 【武闘祭】のエントリーに際しては、一応犯罪履歴などについて調べられる。

 指名手配をされているような人物は参加できないはずであるから、少なくともシモンはハルカたちと別れてからの数年間、まっとうに生きてきたということなのだろう。

 この世界に馴染めば馴染むほど、あの時の選択が間違っていたのではないかと思うようになることも時折あった。

 今同じ状況となれば、ハルカはきっとまた迷ってしまうかもしれない。

 とにかく一度、立ち直ってまともに活動していると思われるシモンと話をしてみたかった。

 今何を思っているのか、あの時のことをどう思っているのか。


 怪我のない選手たちは、舞台のある会場から観客席の下を通り、いったん闘技場の出入り口までやってくる。そこから観客席へ向かうか、それともそのまま外へ出て、酒をかっくらうかは、それぞれだ。

 荒れている者が外へ出ていったり、悔しそうに俯きながらも観客席へ向かう者を見送りながらハルカが待機していると、俯きながらとぼとぼと歩いてくるシモンの姿が見えた。

 ぶつぶつと呟きながら左腕を気にしているので、もしかしたら怪我をしたのかもしれないと思いつつ、ハルカは声をかける。


「シモンさん、お久しぶりです」


 ハルカが声をかけた瞬間、シモンは肩を跳ねさせて辺りを見回し、ハルカを見つけた瞬間に口をぽかんと開けて固まった。


「試合見てました。腕を気にしていたようですが、怪我はありませんか?」

「あ、あ、あ」


 間違いなくハルカを認識しているようだが、シモンは目を泳がせながら言葉にならない声を漏らす。

 緊張しているか怖がっているのはハルカでもはっきりとわかる。

 こんな状態の相手に矢継ぎ早に声をかけても仕方がないかと、ハルカはシモンが落ち着くまで黙って待っていることにした。


「は、は、ハルカ様……」

「……はい?」


 様をつけられるような人間ではないと思っているハルカであるが、よくよく思い出してみると、当時の別れ際の時点で、既にそう呼ばれていたことを思い出す。

 あの時点では、シモンがボロボロと泣いていたので、その呼び方をやめないかと提案することはできなかったのだ。


「ええと……、【武闘祭】に出場しているということは、きっと順調に冒険者活動をしているのですよね。立派に暮らすことができているようで……」


 安心した、と言おうとした瞬間、シモンがべたりと座り込み、額を床にこすりつけた。


「ハルカ様のお陰です……! 冒険者になって、仕事をたくさんして、人から感謝されるようになりました……! うわさは聞いていたのですが、まだまだ未熟なこの身で会いに行くわけにはいかないと、自己研鑽に励んでいました……! 負けた姿を見せてしまうなどお恥ずかしい……」

「あ、いや、あの、やめましょう、ね、普通に話しましょうね」


 ハルカも膝をついて手を差し出すが、シモンは顔を上げていないものだから気付かない。

 会場から出てきた選手たちは、何が起こったのかと周囲でざわつきはじめたが、ハルカにはなすすべがなかった。

 やっぱりコリンを連れてくればよかったかもしれないと思うハルカであったが、後悔先に立たずとはこのことである。

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― 新着の感想 ―
戦い方は慎重、臆病かもしれないけど 生き方を変えて、真面目に堅実に生器用としてる結果なんだろうね
そうだよね、来てることに気が付いてないわけないよね
そこは シモン面を上げよ(おもてをあげよ)ですよー 面上げろ(つらあげろ)でも良いけど
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