父親の甘い裁定
「つーか、お前らも来てんなら、もう少し待ってナギに乗せてもらえば良かったか」
「あ、すみません、気が回らず」
「いや、俺の行く先を知らなかったんだから仕方ねぇだろ。相変わらずすぐ謝る変な奴だな」
クダンの言葉に遠慮はなかったが、ハルカの方もクダンに慣れてきているから、いちいち落ち込んだりしない。確かにと納得するだけである。
「そんで、何しにここまで来たんだ? 目立ってんぞ」
クダンに指摘されてはっとしたハルカは、辺りを見回していつにもまして注目されていることに気が付いた。クダンが投石した直後にやってきてしまったのだから、当たり前のことだ。
しかし話すべき用事があったのだから仕方ない。
「確かに、目立っちゃってますね……」
「なんだ、慣れたか?」
思ったよりも淡白な反応に、クダンは意外だとも言うように眉を上げた。
「少しだけ」
「何かと注目されるようなことばかりしているからな」
「穏やかに過ごしているつもりなんですが、問題ごとが多くて……」
クダンはじろりと横目でハルカを見た。
耳についたイヤーカフをいじりながら、情けなく眉じりを垂れさせて話すハルカは、実績の割に常に腰が低い。
話してみればわかるが、本人の言う通り穏やかな性格をしているのだろうが、いかんせんお節介で何でもかんでも世話を焼いてしまうきらいがある。クダンはそれが悪いことばかりであるとは思っていないが、苦労するだろうと想像はついてしまう。
何せ自身もお節介焼きの自覚があり、これでもかとばかりに面倒ごとに好かれている自覚があるからだ。
それでもハルカほどに穏やかでない分、頼ってくる相手は限られている。
難儀な奴だと思うが、どうするかは本人次第なので、深入りしてああしろこうしろというつもりはなかった。
「そんで、用事は?」
「いやぁ……、出場者についてお伝えしておくことがありまして。実はですね、クダンさんと別れた後、ノーレンさんを街に送っていったんですよ。そこでノーレンさんが、〈武闘祭〉について知ったらしく……」
「……そういやノーレンのやつ、まだ二級冒険者か」
「はい、そういうことで、受付に間に合いまして」
クダンは腕を組んで一層難しい顔をした。
どう考えても実力がとびぬけて高いことは分かっている。
「やっぱりまずかったですかね……?」
「いや、まずいだろ」
「本人がとても楽しみにしてましたし、今から止めるのはかわいそうだな、と思うわけなんですが……。もちろん、他にも〈武闘祭〉に向けて頑張ってきた人もいるわけで、そういった方々にとってはかなり厳しい戦いになるとは思うので……、なんというか、どうかなと思う気持ちもあるのですが……」
ハルカがつらつらと言い訳じみたことを並べていると、クダンが怪訝な表情をしてハルカの顔を見た。
「あ? 止めねぇよ。止めると思って先に言いに来たのか?」
「あ、はい。止めないんですね」
「止めねぇよ。ばれずに登録できちまったんだから仕方ないだろ。ま、二級くらいの冒険者だったら、ノーレンと戦えばいい経験になるやつもいるんじゃねぇの」
クダンはこう見えて家族思いだし、身内には割と甘い男だ。
娘が何かをしようとしているのを積極的に邪魔しようという気はない。
もちろんそれが道義的に間違っていると感じたり、あってはならないことと思えば話は別なのだろうが、〈武闘祭〉の出場くらいはまったくもって許容範囲であった。
そもそもノーレンが旅に出たり、こうして北方冒険者ギルドで活動している理由は、クダンの影響外で人に認められようとしているからだ。
先日はたまたま見つけてしまったから一緒に行動したが、基本的には自由にやらせてやるつもりだ。大事な娘と言っても、もう随分と年も重ねているし、口出しされて喜ぶような年齢でもない。
「それだけか?」
「ええと、はい、それだけです」
「そうか、わざわざ悪いな。ノーレンのこと送ってもらって」
ノーレンがハルカの近くにいるのは正解だ、とクダンは思っている。
クダンの名前と影響力は全世界に及ぶが、だからと言って永遠ではない。
時代の流れと共に、関係がそれほどない地域では忘れられていくものだ。
こと〈オランズ〉においては、街を守った英雄であり特級冒険者のハルカがいるお陰で、特級冒険者と言えばハルカ=ヤマギシである、という認識が広まっている。
ノーレンが伸び伸びと活動するために、ハルカは丁度いい隠れ蓑になっていた。
「あ、いえいえ全然そんな。先日は留守番もしていただいて、お世話になりましたし。あれがなければご自分で歩いてこの街まで来ていたと思うのです」
「あー、そうかもな」
クダンは適当に同意して頷く。
これだけ有名になって実績も残しているというのに、出会った頃と変わらず腰が低いままのハルカは、好ましいと同時に心配になるところだ。
世話を焼いたほうが良いのではないかと思ってしまうことがあるのだが、一応ノクトの弟子であり、これでも色々と厳しいことを言われているはずだと思う。
クダンは変わり者をたくさん見てきたが、これはこれで変わり者だ。
誰に近いかといえば……、と、南方大陸で暮らすかつての仲間である頑固者のカナの顔を思い出して、クダンは勝手にふっと笑う。
カナに似ているとなると、改めて難儀な性格である。
「とにかく、邪魔したりしねぇから仲間のとこ戻ってやれよ」
「あ、そうですね。お邪魔してすみません、それではまた」
ハルカが軽く頭を下げて去っていくと、クダンは会場の方へ目を落とした。
一見厳しい表情で睨みつけたようにも思えるが、実のところは、娘が出るのならば見逃さずに応援してやろうという、当たり前の父親らしい行動であった。





