誰が一番強いのか
闘技場の観客席に人が吸い込まれていく。
選手たちが別口から入っていくのを横目に見ながら、ハルカたちも観客席への階段を上がった。
座席の予約を取っているわけではないので、入った順に皆がそれぞれ好きな場所へ散っていく。
毎年〈武闘祭〉を見ているようなこの街の人々は、もしかしたらお気に入りの席なんかもあるのかもしれない。
ハルカは、いざという時は治癒魔法をかけに行くとフォルカーと約束をしている。
それを守るために、仲間たちと一緒にずらりと最前列を確保した。
「そういやモンタナ、朝知らない奴となんか喋ってなかったか?」
「なんか、〈武闘祭〉出るらしいです」
「へー、子供だったじゃんか」
「アルと雰囲気似てたです」
「そうかぁ?」
二人の会話を聞いてハルカは一人小さく笑った。
先ほどの少年の雰囲気は、なんとなくアルベルトに似ているとハルカも思っていたからだ。
だからこそ、モンタナも眠たいながら適当に返事をしてあげていたのだろう。
アルベルトが武闘祭に出場したのは十五歳の頃。
少年はそれよりも少し年下のようにも見えた。
大人がひしめく大会に出場するには頼りないけれど、本人はやる気満々であった。
予選にはある程度どんな人でも出場できるし、よっぽど大きな怪我をさせれば、怪我をさせたほうが失格になってしまう。
誰かから恨まれるような性格はしていなかったし、もし負けてしまったとしても大きな怪我にはならないだろう。
ハルカは一応予選が始まれば、あの少年も探してみるつもりである。
「武闘祭って、二級冒険者までしか出れないんだよな? それより上の奴ら用の大会とかねぇのかな?」
レオンと話しながらルールを再確認していたテオドラが声を上げる。
今横並びになっている者たちは一級冒険者ばかりで、大会に出場できる者はいない。
誰か知っている人が出たら面白いのに、と考えての発言であった。
「あるとすれば……、きっと数が集まらないので、はじめから一対一の戦いになるでしょうか?」
ハルカが真面目に考えて答えると、モンタナが続く。
「一級冒険者は多分、あまり人前で手の内明かしたくないと思うです」
「そうかもねー。それに白熱したら誰が止めるんだって話になるかも。私たちは身内で訓練してるからいいけど、仲悪い奴らもいるからさー……。前の時、レジーナとジーグムンドさんの戦い、クダンさんが無理やり止めてたもんね」
コリンが話を振ると、腕を組んでいたレジーナはプイッと顔を背ける。
衆目の下、一撃でダウンさせられた嫌な思い出だったのだろう。
コリンがそっぽを向いたレジーナの頬を指先でプニッとつつくと、三白眼がぎろりと戻ってくる。
コリンは「ごめんごめん」と手を引っ込める。
昔だったらとっくに暴れ出していてもおかしくないところだ。
レジーナも本当に丸くなったものである。
「まぁ、誰が一番強いか決めるってのは面白ぇと思うけど、一級冒険者も特級冒険者も、多分結構腕に差があんだよな。なっていろんな奴と戦ってみてなんとなくわかった」
「へぇ、そうなんだ」
アルベルトの言葉にレオンは納得して相槌を打った。
実際一級冒険者というのは、冒険者の中では最も高い階級にあたる。
人の理を超えてくるような実力を持った者をまとめて放り込んでいるのが一級冒険者であり、その中でも特別な功績を持っていたり、そんな一級冒険者が数人がかりでもどうにもならない災害のような連中が、特級冒険者として認められるわけである。
だから意外と、上から下まで見ていくと実力差は開いているのだ。
「あとあれな、相性もあんだよ。こいつにはなかなか勝てねぇけど、そいつに勝ち越せるあいつには、結構勝てる、みてぇなの」
アルベルトの説明は指示語ばかりで分かりにくいようで、意外と的を射た発言である。
アルベルトは一見単純で、あまりものを考えていないように見られがちだが、基礎を大事にするし、勝ち負けに関しては真剣に考えるタイプだ。長く訓練をするうちに、ちゃんと自分なりに相性の善し悪しについては納得していた。
「そうですねぇ……、確かに私は力比べをすれば勝てますけど、コリンにはころっと投げられちゃったりしますから」
だからと言って体が傷つくわけではないが、コリンと手合わせをしていると、力だけでどうにかなることばかりではないのがよく分かる。
戦いというのはなかなか難しいものだ。
「あと、多分一級冒険者が本気で戦ったら、会場壊れるです」
「あー……、確かに」
モンタナの言葉に、コリンが頷く。
いちいち直していてはきりがないし、その割に見学客には何が起こっているのかさっぱりわからない戦いが繰り広げられることだろう。
「これは、師匠と出会った頃に聞いたことなのですが……」
ハルカはノクトと出会ったばかりの当時のことを思い出しながら口を開く。
「市井で暮らす人から見れば、二級冒険者はその……化け物であると。いわんや、その上の冒険者は、と。普通に街で暮らす人々にとって、ギリギリ理解できるかできないか。その階級が二級冒険者までだと言っていたと思います。実際、レジーナとジーグムンドさんの本気の戦いを見ていた観客の中には、怖がっている人もたくさんいました」
「僕はハルカさんが怖いと思ったことはないけど」
「……ありがとうございます」
すかさず必要な言葉を述べたのはレオンだった。
こまっしゃくれた少年であったはずが、すっかり好青年に成長したものである。
ただしハルカに対しては、という但し書きはつくが。
「〈オランズ〉の皆さんが好意的なお陰で、普段はすっかり忘れてしまっています。たまに、思い出さないといけませんね」
レオンに慰められつつも、ここ数日のナギの件も含めて、久々に師匠の言葉をしっかりと胸に刻みなおしたハルカであった。





