役者がそろった
ヘルマはしばらくの間黙ってナギを撫でていたが、やがて少しずつ慣れてきて、再び喋りはじめる。
「それにしても……、お二人ともイース様にお会いしていたのですね。……というか、頻繁にお会いしてますよね?」
「え、あ、いえ……」
呼び止められて怖い思いをさせられた意趣返しのようなものだ。
結果的にはかわいいと思えたから良かったようなものの、撫でなければならないと分かった瞬間、ヘルマは相当な恐怖と戦った。
その流れで聞かずに去ろうとしていたことまで聞く勇気が出てしまったのだ。
「まさか私と出会った頃にはもう、ハルカさんとイース様はお付き合いをされていたのですか? そうでないと、ユーリ君の年齢に説明がつきませんものね」
「……ん?」
なんだか大きな勘違いをされていることに気付いたハルカは、焦って取り繕おうとしていたところからぴたりと固まった。
ヘルマからすれば確信を持っての問いかけであったが、ハルカからすれば青天の霹靂だ。
ヘルマの推理はずばりこうである。
ハルカとイーストンは、自分と出会った時から恋仲であるどころか、既に子供がいた。だからこそ、ヘルマに言い寄られてこれはまずいと姿をくらませた。
そして、その子供こそがユーリである。
何せユーリはイーストンのような黒髪をしているし、肌の色はハルカにそっくりで、何より美形である。
ハルカとイーストンが夫婦であるとすれば、三人が頻繁に会っているようであることも、仲睦まじい雰囲気も説明がつく。
「あ、いえ、私は未婚です」
「イース様……、結婚せず子供を……?」
ちょっとショックを受けるヘルマ。
とんだ風評被害である。
「あ、いえ、そうではなく。ユーリはうちの子ではあるのですが、その辺りの話は複雑でして……。とにかく、イースさんと私はそういう関係になったことは一切ないです、本当に。出会ったのもあの頃が初めてで、ヘルマさんより後ですから」
「私のために嘘をついてるのでは? もう受け入れる覚悟はしてるのですが……」
「本当に、あの、誓って嘘はついていません。イースさんは仲間であり友人であり、それ以上ではないので、ええと、ちょっとあっちの仲間にも聞いて、誤解を解いてください」
「必死になるところも怪しいです。私、怒ってませんよ。ただ、真実を知りたいだけで……」
結局ハルカはその場に仲間を呼ぶことになった。
笑いながら仲間たちが説明を始めても、一度信じてしまったヘルマの説得をするのは難航した。
最終的には、「そこまで言うのなら、信じますけど……」と半分くらいは疑っているような言葉をもって、ヘルマはその場を立ち去った。
思い込みが激しいところは相変わらずのようだ。
さて、ヘルマが帰ると入れ替わりのようにトットとカオル、それにエリが姿を現す。
「ハルカたちがいるって聞いたら、すぐに行くって言うから連れてきたわよ」
「あ、久しぶりですね、お二人とも。トットも以前に増して精悍な顔になって」
お世辞ではなく、キリリと引き締まったような表情をしている。
もしかしたら〈武闘祭〉を前にして、ただ緊張しているだけかもしれないけれど。
「うす、姐さんお久しぶりです。俺、何としても優勝するんで、見ててください!」
ぐっと拳を握って宣言するトット。
「いやいや、拙者こそが優勝するでござるよ。……ところで、その後【神龍国朧】の件がどうなっているか、聞かせていただいてもよろしいでござるか?」
カオルは負けじと宣言してから、つつつっと寄ってきてハルカに耳打ちをする。
姿が見えなかったので話すタイミングがなかったが、カオルに伝えるべきことは山ほどある。
それはそうとして、ハルカは一つ疑問をもってエリを見る。
一方でエリは、にやにやしながら様子を見ていた。
この様子では、二人はまだ、〈武闘祭〉にノーレンが参加することを知らないのだろう。
「……決勝の舞台で二人の姿が見たいですね」
伝えるべきか、黙っておくべきか、少し悩んだハルカであったが、結局曖昧に笑ってそう答えた。
ノーレンにあたらなければ可能性はある。
ノーレンにあたったとしても、どちらか片方は決勝に残る可能性がある。
エリが話していないのはきっと、ぎりぎりまで二人のモチベーションを保つためなのだろう、と判断しての曖昧表現であった。
「お、やる気あんな。トット、頑張れよ!」
「おう、アル。お前出場経験あんだろ。なんか作戦とかねぇのか?」
「あるある、モンタナに聞くといいぜ。あ、レジーナお前も」
「あんだよ」
レジーナは堂々と仁王立ちして腕を組んでいたが、アルベルトに呼ばれて振り返る。
「こいつ勝ち抜けさせる作戦立てようぜ」
「作戦立てなきゃ勝てねぇなら出んな」
「ぐっ、出たことねぇ奴に言われたくねぇよ!」
「いや、こいつ俺が出た時二位だったぞ」
レジーナはその成績を誇っていないからか、不愉快そうにプイっと顔を背け、ナギの方へ歩き出す。立派な成績であるのだが、レジーナに言わせれば二位というのは誰かに負けた証拠だ。
ナギの鱗を平手でバシバシと叩きはじめて八つ当たりをしているようにも見えるが、ナギは構ってもらえて嬉しそうにレジーナの方へ頭を寄せた。
「くそ、俺だってな、俺だって作戦なんかなくたって優勝してみせらぁ!」
「お、言ったな! 頑張ってノーレンに勝てよ!」
「おう、何でもかかってこい!」
アルベルトがトットと肩を組んで激励する。
いつの間にか肩を組めるほどにアルベルトも大きくなったのだ。
成長したなぁとハルカが見守っていると、ようやくアルベルトの言葉が頭の中に浸透したらしいトットが顔をゆがめた。
「お前今なんて言った?」
「いや、勝てよって」
「違う、誰に勝てって言った?」
「だからノーレン」
「出てんのか」
「おう、登録間に合ったらしい」
トットは目尻をぴくぴくと痙攣させて黙り込んだが、やがて大きな声で「やってやる、やってやるぞ!!」と叫んで、レジーナに「うるせぇ!」と石を投げられた。
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