お客さんたち
「うーん……、でも予選を突破できるのが一人、というわけではないので、うまくやれば同じ枠に入っても勝ち抜けるとも思うんですけどね」
「強い相手との戦いは避ける、かぁ。まぁ、冒険者なら危機管理として当たり前のことよね」
〈武闘祭〉の予選は、広い会場内に数十人が詰め込まれ、生き残った数人が決勝に参加、という形だ。
ノーレンは見た目こそ小さく弱そうに見えるかもしれないが、慎重に観察すれば隙のない実力者であることはすぐにわかるはずだ。それを見抜く目があるかどうかも、一つの実力と捉えてもいいのかもしれない。
「それはそれとして……、優勝を目指すにはあまりに大きな壁になりますよねぇ」
「しょうがなくね。強い奴と殺し合いにならずに戦えるんだから運が良いだろ」
エリの出現で近くに寄ってきていたアルベルトが、どこかで聞いたようなことを言った。実際アルベルトにとってはそれこそが真理に近いのだろう。
最終目標を〈武闘祭〉の優勝におくのではなく、より強くなることに置いていれば、アルベルトの言う通り、ノーレンと戦う経験は宝になるはずである。
「ま、それはそうなんだけどね。どっちにしろ魔法使いは〈武闘祭〉に参加できないから、見学してるしかないし」
エリはにじり寄って挨拶をしに来たナギの鼻先を撫でながら笑う。
〈武闘祭〉はあくまで武を競う祭典だ。
魔法の使用は禁止である。
「それはそうと、ハルカ、街で変な評判流れてたわよ」
「変な評判って何ですか?」
「んー、なんかダークエルフの特級冒険者がいて、大会の優勝者と戦うとかなんとか。私はダークエルフの特級冒険者と竜の話聞いて、あー、ハルカが来てるんだと思って見に来たんだけど。で、戦うの?」
「……いえ、特にそういう話は聞いていません。怪我した人がいたら治すくらいしますけれど」
噂というのは適当に広がると知ったばかりだ。
どこからそんな話が出たのか知らないけれど、出所を特定することには限りなく意味がない。
「そうよねー、ま、一人で観客席にいるのもつまらないし、ハルカたちがいて良かったわ。当日一緒に見ましょ?」
「はい、そうしましょうか。二人の応援もしないといけませんからね」
少し雑談をして、やがて訓練を再開。
エリとレオンの二人が交互に魔法を撃つようになったが、この二人は以前から魔法について色々と話し合いをしている。
互いに基礎を守って似たような魔法を使っているのだが、やはりどちらかといえばエリの方が実戦的らしく、レオンはじっとその詠唱や動きを観察していた。レオンにとっても身近な、普通の魔法使いはエリくらいだ。
偶然とはいえ、この訓練はレオンにとってもいい勉強になっているようであった。
昼間にがやがやと仲間たちが帰ってくる。
仲間たちはハルカのように障壁の魔法を使わないので、馬鹿げた量の食事は買ってこないが、それぞれのセンスで選んだものを買っているので、バリエーションは豊富だ。
エリは改めてお出かけ組にも事情を説明し、一緒に食事をとるとトットやカオルの下へと戻っていった。プラプラとしているエリとは違って、二人とも調整訓練を繰り返して、随分と緊張をしているそうだ。
エリは去り際に「明日連れて来るわね」と言って去っていった。
アルベルトなら〈武闘祭〉参加の先輩として何かアドバイスができるかもなぁ、なんて思いながらハルカはそれを見送る。
思い出してみれば、当時アルベルトも毎日緊張していた。
実際戦いが始まってしまえばそうでもないのだろうが、やっぱり人前で戦うのは普段とはまた違う緊張があるものらしい。
間違いなくハルカは性格的に得意ではないけれど、これまでも注目を浴びるような場面で幾度も戦ったり、交渉してきたりしているので、意外とやってみれば上手にこなしそうでもあった。
「すみません、少しよろしいかしら?」
午後からは他の仲間たちも訓練に加わって、和気あいあいと過ごしているところへ、すらりとした女性が現れて声をかけてきた。
見た目的には仲間たちと同じくらいだろう。
しかし随分と落ち着きがあって、そして何か愁いを帯びたような瞳をしている。
兵士がすぐ近くに控えているのは、ハルカたちとの間に問題が起きないようにするためだろう。
それにしても、ナギがすぐ近くで様子を見ているのにまるで物おじしないのは、大した度胸である。
「はい、どうされましたか……?」
見た目から、おそらく身分のある女性なのだろうと判断したハルカは、いつも通りではあるが丁寧に対応をする。
「やはり……! あなたハルカさんでしょう!? 私のことを覚えていらっしゃるかしら?」
勢い込んで話し始めたことと、最近どこかで見た人によく似た顔立ちで、ハルカはようやくピンときた。
「あ、ヘルマさん、でしょうか?」
「そう! あの! あなた四年前にイース様とお話しされてましたわよね? あの後どこに行ったのかわからず、ずぅううっと探してますの。何かご存じありませんこと?」
すっかり大人しい淑女のような見た目になっていたのに、中身は相変わらずイーストンのことを忘れられずにいるらしい。
ハルカも何をどう話していいやらわからず、つい目を泳がせてしまった。
「……イース、元気だよ」
ついてきていたユーリがぽつりと答える。
一応ユーリはこの辺りの事情は聴いているはずだ。
困っていたので、助け舟を出してくれたのだろうが、ハルカはユーリが何を答えるつもりなのか、ますますどきどきしてしまうのであった。





