参加者追加
一日目の夜が終わり、翌朝早くに目を覚ましたハルカは、ナギの横に立って通りがかる人の様子を眺めていた。
ナギが一人ぽつんといると怖いと思うので、とりあえず横に立って、近くにいても大丈夫な大型飛竜なのだというアピールをしているわけである。
ついでに撫でたり、話しかけたりしてやっているので、見る人が見れば微笑ましい光景であっただろう。
兵士たちも怖がったり焦ったりしている者がいれば都度説明してくれているし、昨日の一件以来問題は起こっていないが、ハルカのこの行動が良い方に作用しているかといえば、微妙なところである。
兵士たちが説明のついでに近くにいるダークエルフが特級冒険者だよ、という説明を付け加えるようになったことで、やっぱり特級冒険者ってやばい奴しかいないんだ、という印象はついたかもしれない。
皆が目を覚まして活動し始めた頃、今日はどうしようかと話し合っていると、門の方から手を振りながら背の小さなかわいらしい女の子が近寄ってくる。
「おーいハルカー、ちゃんと登録できた、間に合った! 助かったよー」
ナギがいても平気な顔で近付いてきたのは、背中に大きな鎚を背負っているノーレンであった。
ハルカは夜になっても顔を見せないので心配をしていたのだが、よく考えてみればあちらはあちらでハルカたちの居場所が分からなかったので仕方がない。
ちなみに心配というのは、大変な目に遭っていたりしないか、というものではなく、参加拒否されたり、受付が間に合わなかったりして落ち込んでいるのではないかという心配である。
ノーレンほどの実力者になると、街にいる限り身の危険があるとは思えない。
「それは良かったです、頑張ってください」
「うん、頑張るよ、応援してね」
「はい、……そうですね、応援します」
応援をしなくとも圧倒的に強いのではないかという気はするのだが、まぁ、それはそれだ。あと、一瞬ギーツの顔が頭をよぎったハルカであったが、まぁどちらも応援すればよいかと素直に頷いた。
「皆はここで過ごしてるの? 宿とかとらないの?」
「そうですね……、ナギが一人になるとかわいそうなので」
「ふーん、そっかぁ……。僕は昨日のうちに宿取っちゃったよ。まぁ、帰りとかはさ、ちゃんと自分で歩いて帰るから! 〈武闘祭〉が終わったら、ついでに依頼を受けて帰れるのが理想だなぁ」
ノーレンはクダンの娘であるのだが、旅ばかりしているせいなのか、良い依頼をあまり受けないためか、あまりお金は持っていない。冒険者としての経験値、というか、実績を稼ぐためにも、できるだけたくさんの仕事をこなしたいのだ。
「なるほど、では帰り道は別ですね」
「うん、そうなるね! じゃ、一応連絡だけしに来たんだ。僕は今からギルドに戻って、〈武闘祭〉が始まるまでに何かいい依頼がないか探すから! それじゃ!」
「あ、はい、お気をつけて」
言いたい事だけ言うと、ノーレンは元気に立ち去っていった。
ぶんぶんと手を振る姿は少女のようであるが、彼女はあれでハルカよりも年上である。
この世界の年齢は本当によく分からない。
今回は〈武闘祭〉にエントリーをしている者が身内にいないお陰で、ハルカたちは気楽なものである。
コリンがテオドラとカーミラ、一緒にいたユーリに加え、面倒くさそうにしているレジーナの腕を引いてお買い物に出かけていくと、残ったのはハルカ以外男ばかりだ。
特にやることも決まっていなかった四人は、色々と話し合った結果、久々にレオンから魔法の講義を受けることになった。
魔法を教わる、というよりは、世の中にどんな魔法があって、どのような軌道で動くのかとか、一般的な発動と魔法の軌道のタイミングとか、そういうのを教えてもらう形である。
これはどちらかといえばハルカのための講義ではなく、対魔法使いをすることになったことを想定した、アルベルトやモンタナのための講義である。
二人はどうしても魔法使いというと、ハルカやらノクトやらを見過ぎているせいで、格下を相手取った時でも過剰に警戒してしまう癖がついている。戦いにおいて無駄な警戒や無駄な回避は、それだけロスを大きくしているのと同じだ。
安全に戦うことも大事だけれど、いざという時にはリスクを取らねば勝てない戦いもある。
だから、一般的な魔法使いの魔法を知ることも、また強くなるための勉強なのである。
そんなわけで、一通り講義を受けた後、レオンの魔法を回避する、あるいは打ち払う訓練をしていた時のことだった。
再び街の方からやってきた集団から声が聞こえてくる。
「あ、やっぱりハルカだ。何やってんのあんたたち、こんなところに来てまで。めちゃくちゃ見られてるわよ」
ナギと街の道を仕切るための柵に寄りかかって話しかけてきたのは、魔法使いのエリである。
「え、あれ? あ、おっと」
ハルカは、いないはずのエリの声が聴こえたことで振り返る。
よそ見した隙にストーンバレットが飛んできたが、ハルカはひょいっとしゃがんでそれを回避した。運動神経が悪いことを自覚しているハルカだが、戦いをたくさん見てきたおかげで、流石に段々と目と反応が良くなってきていた。
エリに言われてハルカが周囲を見てみると、確かに遠巻きにして訓練風景を眺めている人たちはいる。見られて困る訓練をしているわけでもないからハルカ以外の三人は気にしていないけれど、ハルカは単純に気付いていなかっただけである。
竜の話を聞いてついでにハルカたちがその飼い主であるとか、特級冒険者の宿一行だとか聞けば、訓練方法を気にするものだっているだろう。
「お、何でいるんだ?」
「何でって、なんかカオルとトットが〈武闘祭〉に出るって言うからよ。ハルカたちこそなんで来てるの? あなたたちもう二級冒険者抱えてないでしょ。ユーリが出るわけじゃないだろうし」
「あ、はい、実はノーレンさんが〈武闘祭〉に出たいというので、ナギの背中に乗って送ってきたんですよ」
「ノーレンさんがぁ……?」
エリは渋い顔をしてじろりと街の方を見た。
「あの人出て良いわけ?」
エリも一応ノーレンの出自と強さに関しては聞いているし、知っている。
「なんか、登録はできたらしいです」
「誰か止めたほうが良いんじゃないの? 別にカオルやトットがかわいそうだから、とかじゃなくて、後で文句言われそうだけど……」
至極当然なツッコミが入ったが、本人も喜んでいるし。登録できてしまったものは仕方がない。
その辺りのことは運営さんの方で何とかしてもらうしかなかった。





