今日の獲物
ナギがお出かけから戻ってきたのは、夜も更けてきてからだった。
随分と時間がかかったものであるが、獲物を見れば納得。
人を丸のみできそうな、四足歩行型のトカゲのような生き物だった。
「大物です」
「……それ、竜ではないんですか?」
ぴょん、と飛び降りてきたモンタナとアルベルト。
アルベルトは一応ユーリを抱えて飛び降りてきたようだ。
「わかんね。でも人に襲い掛かってるの見つけて、ナギが降りてって捕まえたから別に竜でもいいんじゃね?」
竜か竜でないかは、火炎袋の有無で決まる。
世界に存在する竜の種類ははっきりと分類されておらず、空を飛ぶものを飛竜、地面を歩くものを地竜、火炎をよく吐くものを火竜と呼ぶなど、なんとなくの区別しかない。
いつも通りモンタナの頭の上でのんびりしているトーチも、いわゆる火竜に属する竜であるはずだが種族名は不明だ。
「おお、それはよかった……。道中にそんな大物が出ることもあるんですね」
「珍しいと思うです。もしかすると、何か理由があったのかもしれないですけど……」
本来街道は兵士たちが定期的に見回っているはずだ。
特に〈武闘祭〉に合わせて、念入りに安全の確保をしているはずであるから、これは少しおかしな話だ。
「まぁ、倒せたのならよしとしましょうか。一応明日ナスコさんには報告しておきましょう。ちなみに南北どちらです?」
「えーっと、あっちだな」
報告のために確認をすると、アルベルトが悩んだ末に南の方角を指差した。
「南ですね……、えーと、わかりました」
一応モンタナに確認をすると黙ってこくりと頷く。
どうやらアルベルトの示した方角は合っていたようだ。
アルベルトはこういうとき、時々見当違いの方角を指さすこともあるので、念のため確認だ。
ナギはハルカの方へ獲物を引きずってやってきて、ぽとりと落として見せてくれる。大きめの獲物が取れた時、ナギはよく近くにいる仲間たちに、こうして自慢してくれるのだ。
「大きなのがとれてすごいですね。人が困っていたのも助けたみたいで偉いと思います」
ぽんぽんと鼻先を撫でて声をかけてやれば、ナギも嬉しそうに返事をする。
ただ一つ問題があるとすれば、ここで食事を始めると、地面とかが色々と大変なことになりそうな点である。
「ナギ、そしたら、皆が見てて気になると思うので、あっちの壁の陰でご飯食べましょうか。一緒に行きましょう」
もう夜になっているので、幸い周りには警備の兵士くらいしかいない。
初めからナギがいることが分かっている兵士ですら、今の状態にはちょっと緊張をしているのだ。
一般人がナギの食事シーンや、食事後の現場を見たらまた大騒ぎになってしまうだろう。
ハルカは空を飛んでナギを先導して外壁の陰まで連れていく。
ナギの食事が終わったら、残った骨やら内臓やらは、燃やしてから穴を掘って埋めてしまうつもりだ。
基本的にナギは全部食べてしまうのだけれど。
ハルカがナギの食事シーンを見守っていると、仲間たちがいる方から何者かが走ってくる。
「おーい、すまんちょっとすまん!」
手を振りながら声をかけてきたのは、今日はもう仕事を終えたはずのナスコだった。
ナギは食事を止め、ハルカもまた何かあったのかと出迎える。
「そんなに急いでどうしたんですか?」
「いや、なんか、魔物捕まえてきたって聞いたから、確認をだな……、ああ、それか……。もう頭の方何もねぇなぁ……」
ナギがバリバリと頭から食べてしまったので、獲物はもう下半身の一部と尻尾しか残っていない。
「何かまずかったですか……?」
「いや、南の街道で仕留めたんだろう? 一応、懸賞金がかかってる魔物もいるから、その確認をだな……」
「なるほど……、真面目ですね」
「真面目っつうか、まぁ……。ええと、ちょっと見てもいいか?」
真面目であることには違いないのだが、一応懸賞金をかけている以上、倒されたのならば確認して金を支払わなければならない。普通の冒険者ならば胸を張って自分の手柄を吹聴するところだが、こちらは一緒にいる竜のご飯である。
ナスコは、そういえば最初に会った時もこんなやり取りをしたなと思い出しながら、一応ナギにも確認を取った。
「すまん、盗ったりしないからちょっと見せてもらえるか?」
竜に話しかけるのもなんだか変な気分であったが、ナスコのその対応はナギに対しては正解である。ナギは少し迷ってから、そっと鼻先で獲物を押しやって、ナスコの前まで近づけてくれた。
「お、おお……、悪いな。ええと……、残ってる部位からして、こりゃあ多分間違いないか。こっから南に行ったところで仕留めたんだよな?」
「はい、そう聞いてます。なんだか、人に襲い掛かっていたらしいですよ」
「うげ、なんだそれ……。こっちに向かってたなら、後で報告があるか……?」
ナスコからすれば曖昧過ぎる情報だが、特級冒険者とその一行に対して、もっと詳しく教えろなどと迫っても仕方のないことである。
しばしぶつぶつと呟いてから、ナスコはきっぱりとこの件について考えるのをやめることにした。
「よぅし見せてくれてありがとな! ええと、懸賞金が出るからこっちで手続きしとく。対応感謝ってことで、それじゃあまた明日」
「あ、はい、ありがとうございます」
ナスコは律義にナギとハルカ両方へ挨拶をして、片手をビッとあげて去っていく。
ざっくばらんで、大雑把かつ適応力の高いナスコは、ハルカたちに対応する係としては非常に的確な人材であるようだった。





