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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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街のあちこちで見られる光景

 モンタナが黙々と噛み切りにくい肉をずっと噛んでいたが、やがて細かくすることを諦めてごくりと飲み込み、戻ってきたハルカに話しかける。


「レジーナが近く通る人見てたら喧嘩になったです」

「見てただけでですか?」


 ハルカももはや喧嘩で人が気絶していること自体にはそれほど衝撃を受けておらず、普通に芋を手に取って、返事をしてからかじり始める。

 冒険者にとって喧嘩は日常茶飯事で、特にレジーナなんかは昔よく暴れていたので、その関係で喧嘩になることはあるだろうと思っていた。特に武闘祭なんて、気の荒い者たちばかりが集まってくる行事だ。

 本当に見ていただけで喧嘩になったと言われても、さもありなんといった具合だ。

 レジーナは見た目は背が小さい女性であるにもかかわらず、ぎろりぎろりと見張りをするので、やれ目つきが気に食わないと喧嘩になる可能性は高い。


 結果的には、喧嘩を売った者は後悔することになっただろうし、生きていれば怪我も治るので問題ない。あとは大ごとにならないように、目が覚めた時にフォローしておけばそれで大丈夫だ。


「それだとちょっと説明が足りないと思うのだけれど……」


 カーミラが控えめにモンタナの言葉を訂正する。

 モンタナもその意見に対して反論はなかった。

 次の肉に嚙り付きたかったので端的に説明しただけである。

 あとはお上品に食事をしているカーミラにバトンタッチすることにしたらしく、食事を再開している。


「何か違いましたか?」

「うーん……、その人たち酔っぱらって街から出てきて、楽しそうに色々話してたのよね。ナギはずっと大きな声を出してる人たちを見てたのだけれど、この人たちは気づかないまま近くに来たの。それで、ナギが挨拶したら半分くらい腰を抜かしちゃって……」

「あー……、気付かなかったんですねぇ……」


 ナギの大きさを考えると、目に入らないことなど絶対にありえない。

 しかし酔っぱらって楽しくおしゃべりしている横に大人しく静かに寝そべっていたら、壁かなにかと思うかもしれない。

 壁だと思っていたものが急に音を出して、見たら巨大な竜だ。

 そりゃあ腰を抜かしたっておかしくない。


「兵士たちが説明をしてくれて落ち着いたのだけど、その一連をレジーナが見てたのよね。なんだかそれが気に食わなかったみたいで……。何見てるんだって言ってきたから、レジーナも喧嘩腰になっちゃって」


 おそらく、腰を抜かしたところから大慌てで兵士に頼ったところまでを見られてバツが悪かったのだろう。

 レジーナもそんな彼らを見下すような目で見ていたのが良くなかった。

 

 ちなみに売り言葉が『なに見てんだてめぇ』で、買い言葉が『話しかけんな腰抜け雑魚』である。彼らの顔が一瞬にして真っ赤に染まったことは言うまでもない。

 しかしまぁ、冷静に考えると、喧嘩を売られた瞬間にノータイムで蹴散らさなかっただけ成長である。おそらくハルカたちが初めて出会った頃のレジーナであったら、彼らがレジーナの方を見た瞬間に拳が準備され、『なに見てんだ』の『な』の時点で顔面が凹んでいたことだろう。

 当然一撃で気絶させるなんて優しいことはせず、この場は大量殺人現場かと見まごうほどに血塗れになっていたはずである。

 素晴らしい成長である。

 運のいい酔っ払いたちだ。


「なんかハルカさんもさ、すっかり冒険者って感じだなぁ」

「いちいち動揺してるよりこの方がよくねぇ?」


 一応問題ごとということで、少し距離を置いて様子を見ていたらしい双子が、戻ってきて芋を手に取りながら言葉を交わす。


「いえ、あの、冒険者をしているとこういうことが多いというか……」


 ハルカが言い訳をしていると、食べ終わった肉の串をポイっと気絶してる男の上に放り捨てたレジーナが話し出す。左の手にはもう一本肉の串が握られている。


「こいつら、予選で手を組んで突破するって言ってたぞ。雑魚だ、雑魚」

「それうまくいくんですかね……?」


 ハルカは一応レジーナが捨てた串を拾って、小さなたき火の中に放り込みにいく。


 〈武闘祭〉の予選は、大人数での生き残りだ。

 数十人で戦うことになるので、手を組んでどうにかしようというものがいてもおかしくはない。

 ただ、各ブロックの突破人数は限られているし、徒党を組んで突破したところで本戦は実力勝負だ。下手に実力もなく突破すると、大勢の前で恥をかくだけである。

 そもそも一つのブロックに数人は実力が抜けている者がいて、順当にそういった人物が予選を突破するのではないかなぁとハルカは思っている。

 実際前回ハルカが見た大会では、実力がないのに予選を突破した者は一人しかいなかったし、その一人は、レジーナとジーグムンドという嵐を前にして、身を低くして避難していた結果、たまたま残ってしまっただけである。

 ちなみにその運が良いのだか悪いのだかわからない人物の名前はカイトという。

 そんな彼は今、【偶然の勝利(グッドラック)】という二つ名を持った〈アシュドゥル〉の冒険者ギルド支部長であるデビスにこき使われている。

 二つ名をつけるとするのならば、【悪運バッドラック】とでもするべきだろう。


「ま、こいつらも〈武闘祭〉前だから張り切ってただけだろ」

「そうかもしれませんね……。アルも街についてすぐ喧嘩してましたし」

「喧嘩も含めて〈武闘祭〉なんじゃね」


 もぐもぐと食事をとりながらアルベルトが、当たり前のように言ってのけた。

 でもある意味それも正解である。

 よっぽど他人に迷惑をかけたりしていない限り、兵士たちは〈武闘祭〉参加者の喧嘩を止めるつもりはない。

 今回の場合でも、ナギ関係のことで問題が起きないように対処したが、レジーナが彼らをしばくのを止めることは完全に業務外である。

 何せ彼らはレジーナが一級冒険者の【鉄砕聖女】であることを知っている。

 勝手に勝ち目のない喧嘩を売って、勝手にボコボコにされる奴らのことなど、知ったことではなかった。

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― 新着の感想 ―
>ちなみに売り言葉が『なに見てんだてめぇ』で、買い言葉が『話しかけんな腰抜け雑魚』である。 見事な「売り言葉に買い言葉」だ。綺麗に決まってる。その面でもレジーナ成長してるな。 ところで、文中「レジ…
更新お疲れ様です。 う~んこれは自業自得、ボコられても何一つ文句は言えませんな。むしろこれで更に因縁付けたら恥の上塗りですねww 改めてレジーナさん精神的にデカくなりましたなぁ…強者の余裕というか。…
成長したね。レジーナ。 ハルカのは成長というよりかは、この世界の考え方に馴染んできたというべきかな? ところで、レジーナのタバコ周りの描写が「竜の庭」参加後から皆無になったのが気になるな。 すっぱり…
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