ナギちゃんは優しい
*注意:毎日追いかけてくださっている方へ。
同行者に双子を入れ忘れていたので、前話まで少しだけ書き足しました。次は連れて行ってあげようと思っていたのを、私が完全に失念していました。ごめんね、レオテオ。この話からしれっといます。
皆が気絶している男たちを心配していない中、ナギだけはそーっと顔を寄せて、いつ目を覚ますのかなと様子を見てあげていた。
ハルカが軽く食事を終えた頃、道で遠巻きに人が集まっていることに気が付いた。
何やらこちらの方を見ていて何だろうと思いつつ、男たちの方を見ると、ナギが近くに顔を寄せて様子を見ている。
辺りを見回すと、兵士の腕を引いて必死にナギのことを指さしている者もいる。
兵士はなだめているようだが、それを見てハルカは何が起こっているかに気が付いた。
おそらく周りの人々は、倒れている男たちがナギに食べられそうになっている、と思っているのだ。
ハルカはナギに近寄ってその鼻先を撫でてやりながら声をかける。
「心配してくれているんですよね」
ナギが返事に喉を鳴らすと、辺りから小さく悲鳴が上がる。
悲鳴というのは案外、歓声とも似ていて、場所によってはそれを浴びたことのあるナギは、何かなぁと視線だけをそちらに向けて様子を見ているようだった。
「私たちだけご飯食べてるのも悪いので、ナギもご飯の時間にしませんか?」
また肯定の返事。
ナギは数日食べなくても全然気にならないタイプではあるが、誰かと一緒に狩りに出かけるのは割と好きだ。
誰かが一緒に来てくれるというのなら大歓迎である。
「一緒に行って来るです」
同じく状況に気が付いていたらしいモンタナが名乗り出て、とんとんとナギの背中に登っていく。
「なんだよ、狩りか? 俺も行く」
まだ食事の途中であるアルベルトも、口いっぱいに食べ物をほおばって、べとべとした手でナギの背中に上っていった。体を多少べたつかせられても、ナギは全然気づかない。それどころか一緒にお出かけできることでご機嫌だ。
「僕も」
ユーリもやってきたが、背中に上る前に、ハルカを手招きすると耳元でささやく。
「ママ、ありがと」
ナギがまた落ち込まないように、ちょっとここから離れさせておこうというハルカの考えに、ユーリは気づいたようだった。
「気を付けて行ってらっしゃい」
ハルカはユーリの頭を撫でてから、障壁に乗せてナギの上まで運んでやる。
そのままゆっくりとナギが浮かび上がると、人々からは悲鳴が上がる。
きっと、近くの森辺りを散策して、魔物でも仕留めて帰ってくることだろう。
「かわいいのになぁ……」
「まぁ、性格はね」
逃げ惑っていく人々を見て、ハルカがぽつりとつぶやくと、いつの間にか隣へやってきていたレオンが返事をする。
ハルカが年を追うごとに常識を捨て去っていることを実感しながらの同意である。
「【ドットハルト公国】も、よくナギをここに置こうと思ったよね」
「大人しいし暴れませんよ?」
「でも怖がって会場に入れない人がいると思わない?」
「あー……、どうでしょうか」
なんだかんだ〈武闘祭〉が始まってしまえば、皆気合いを入れて通り抜ける気がする。もし苦情がたくさん出たとしても、ハルカにはどうすることもできないし、そうであってほしいと願うばかりである。
そんな話をしているうちに、気絶していた男の一人が大きなくしゃみをして目を覚ましたようだった。
ナギが空へ飛んだ影響で小石が舞って、鼻に入ったのかもしれない。
「あ、大丈夫ですか?」
ハルカがしゃがみこんで声をかけると、男は殴られた頬をさすりながらゆっくりと体を起こす。
「いてて……、くそ……。どうなった、あんた誰だ? みんなやられてんじゃねぇか、おい、大丈夫か!?」
男が仲間を揺すり始めると、男たちは順番に目を覚ましていく。
やがて全員が目覚めたところで、そのうちの一人が遠くでレジーナが食事をしていることに気が付く。
「おい、あいつまだいるぞ」
「ホントだ、くそ、飯なんか食ってやがる」
負けて悔しいし復讐したいが、皆まとめてやられているので、また仕掛けに行く勇気がないのだろう。
「あれ、竜がいねぇぞ?」
「やっぱ竜なんているわけねぇんだよ、幻覚だったんじゃねぇか?」
「いや、最近北方大陸じゃ、特級冒険者が大型飛竜を連れ回して、街を破壊して回ってるって昨日酒場で聞いたぞ」
「俺は大型飛竜連れたダークエルフが、帝国と手を組んだって聞いた」
「ダークエルフ?」
男たちは真横に黙って立っているハルカがダークエルフであることに気がついたようだった。
「うお、ダークエルフだ」
「何でこんなところに」
「拝んどけ拝んどけ」
数人が両手をこすりながらハルカを拝み始めたところで、困り果てたハルカが「あの……」と声をかける。
「おお、喋った」
「ええと、すみません、皆さん怪我は大丈夫ですか?」
「あ、ああ? まぁ、これくらいなら大会までには治るんじゃねぇのかな」
男の一人が頬をさすりながら答えると、他の者たちも俺も俺もと同意する。
どうやらレジーナもちゃんと手加減をして殴っていたらしい。
痛いし気絶はするけど後遺症は残らない程度の絶妙な加減具合だ。
「それは良かったです。それで、あの、なぜ拝まれているんですか?」
「いやぁ、俺たち南方大陸の南の方の国から来たんだけどよ、近くにダークエルフの森があるんだよな。武器抜いて近付くと射殺されるから、近づいたらとりあえず武器捨てて拝んどけってことになってんだよ、あ、やべ」
男はそういうと、ベルトから剣をはずしてそっと地面に置くのだった。





