芋配りダークエルフ
「あの……、あの時……!」
少年の方も口がたつ方ではないらしく、うまく説明できないで困っているようだ。
そこへ、もう少し年上の青年が食材を持った袋を持って現れて、少年の頭を軽くぺしんと叩く。
「何やってんだよ。買ってくか? いくつ……、あ」
「あ!」
「あぁ!」
その青年もハルカを見て声を上げると、芋を洗っている女の子までもが顔を上げて大きな声を出した。
そこでようやくハルカは彼らとどこで出会ったのかを思い出す。
「飯くれた変な奴!」
「あの、ご飯食べてた子たちですよね、裏路地で。お店をやるようになったんですか! 皆大きくなりましたねぇ」
随分と昔の話だ。
屋台で買い物をし過ぎてどうしたものかと悩んでいるところで、やせ細った彼らに出会い、食べ物を大盤振る舞いしたことがあったのだ。
あれから四年。
確かに青年くらいの年になっていてもおかしくない子たちも混ざっていたはずだ。
「何の話だ?」
アルベルトには話していなかったかもしれない。
当時のアルベルトは〈武闘祭〉に参加していて忙しかったし、意外と別行動が多かったのだ。
「あー、ほら、前に〈武闘祭〉を見に来た時に、一人でいっぱい買い物をし過ぎてしまって、彼らと一緒に食事をしたんですよ」
「あー、わかった、なるほどね」
コリンはそれだけでハルカが何をしたのか理解した。
裕福そうでない少年たちの姿を見て、ハルカの性格を考えればすぐにわかることだ。
「あれから色々あってさ、屋台手伝ったりして金貯めたんだよ。そんで、店も出せた」
「良かったですねぇ……」
子供の健全な成長は、ハルカのオジサンな心にはとても良い栄養だ。
じんわりと心が温かくなる。
「これ、迷惑じゃなければできているの全部貰えますか?」
「は? 結構あるぞ」
「大丈夫です、これに入れて持ってくので。ええと、いくつありますか?」
「ホントに買うのか?」
「買います買います」
青年は皿のかわりに用意されている草に芋を乗っけては包んでハルカに手渡していく。いくつか渡して確認して、またいくつか確認して手渡してを繰り返すうちに、ハルカは本当に全てを受け取って、最後にちょっと余分に支払いを済ませた。
青年がそれを数えている間に、ハルカは「それじゃあ、また」と言ってさっさとその場を立ち去った。
「買いすぎじゃね」
ちょっと離れたところでアルベルトが正しいツッコミを入れる。
買い過ぎである。
どう考えてもハルカたちだけでは食べきれない。
「まぁ、兵士の方々とかに配ってもいいかなと。ナスコさんがまだ近くにいるといいんですが」
「賄賂にならないかなー?」
「なりますかね……? 単価は安いですし、食べ物ですけど……」
ハルカが真面目な顔をして考え始めると、コリンはこっそりと笑って続ける。
「数がなー、多いからなー」
「まずい……ですかね?」
ハルカが少し不安になると、コリンはハルカの肩に頭をこつんとぶつけた。
「冗談冗談。皆受け取ってくれるから大丈夫」
「そうですかね?」
特級冒険者が街の兵士にわいろを渡してなんになるというのか。
しかも渡したのはふかした芋である。
そんなことより実力行使した方が話は早い。
ただハルカが真面目な顔をして悩んでいるのが面白かっただけである。
山のように食べ物を運んでいくと、やがて〈武闘祭〉の会場が見えてくる。
皆がお腹を空かせているだろうと、街の門をくぐり、ナギのいる方を向くとそこでは、丁度レジーナが人を殴り倒しているところだった。
「お、何かやってんじゃん」
アルベルトが楽しそうに呟く。
なんかやってんじゃん、ではない。
喧嘩である。
しかも地面にはすでに数人が倒れており、レジーナの周りにももう数人拳を構えた者が立っている。幸いであるのは、皆が武器を持っているというのに、拳でやり合っている辺りだろうか。
ハルカたちが接近するまでにレジーナは合計八人の男を叩きのめした。
「あ、ママ帰ってきた」
ユーリの言葉にちらりと視線を向けたレジーナに、最後の男が猛然と襲い掛かったが、それをくぐったレジーナによるカウンターストレートによって、男は見事なまでに仰向けで吹っ飛んでいった。
「あの、ええと……」
「向こうが悪いです」
「あ、そうですか、それならまぁ、ええと……。一応事情を聴いておきましょうかね」
兵士も困った顔で立っているだけで、レジーナを責めたりはしない。
モンタナが言う通り、別にレジーナが突然暴れて全員を伸したわけではないのだろう。
「でもご飯冷めちゃいますね……」
「食いながらで良いんじゃね」
そう言ってアルベルトは障壁の箱の中に入っている串焼きを、勝手にとって食べ始める。それにモンタナとコリンが続けば、もう勝手に食事の時間が始まってしまった。
「あ、良かったら皆さんも」
皆がそれぞれ食べるものを取ったところで、ハルカは兵士の間に箱を移動させて声をかける。
兵士はこの食べ物を勧めてくるダークエルフが特級冒険者だと知っているから、下手に断って気を悪くさせたくない。なぜかふかした芋が大量に入っていることを確認した兵士は、「それじゃあ、遠慮なく……」と言って、葉に包まれた芋を手に取った。
ハルカはそれからもその辺にいる兵士たちに、もちろん親切心から食べ物を勧め、芋を配り歩き、戻ってきたところでようやく自分も芋を手に取って、何があったのか話を聞くことにするのだった。





