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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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出場選手

「こんなにかわいらしい見た目をしていても、一級冒険者というのはやっぱり強いのだなぁ……」


 ギーツはため息をつきながらぶつぶつとぼやいている。

 コリンは『かわいらしい』という言葉をちゃんと聞き取ってにっこりだ。

 そしてその隣で同じくにっこりとしているエレオノーラ。


「いつか勝てるようになるために、これからはもっと頑張らなければなりませんね」


 余計なことを言ったせいで、おそらく明日以降のエレオノーラとの訓練は、これまで以上に過激なものになるのだろう。


「あ、いや、私はフーバー家の後継ぎとして、他にもやらねばならぬことが……」

「まだまだ私が現役だから、存分に鍛えるといい」

「ち、父上!」

「〈武闘祭〉の間は、いざとなれば治癒魔法使いの方々が近くにおりますから、いつもより頑張れますね」

「け、怪我が前提なのは嫌だ……」

「武人は怪我をするほど強くなるものです。そうは思いませんか?」

「いやいやまさか、そんなことはないだろう?」


 エレオノーラがアルベルトに話を振る。

 その人選は実に的確であった。

 ギーツがウィンクで必死に話を合わせるようにアピールを繰り返しているけれど、アルベルト相手にはまったくもって無駄である。


「そうだな。俺もよく手合わせで骨折れたりしてるし」

「楽しみですね、訓練」

「……あの、何か大きな怪我をしたら呼んでください。ちゃんと治しますから」


 自分たちがやってきたことによって、ギーツが追い詰められていると考えたハルカは、いざという時には助けなければならないと、ギーツに力強く宣言した。

 何かあっても死ぬことはないという心強い保証だ。


「ハルカ、違う、ありがたいがそれは違うのだ……」


 すでに普通から大きく外れてしまっているハルカには、ギーツの気持ちは分からなくなってきているらしい。ギーツの言葉に一瞬疑問を覚えてから、はっと自分がひどいことを言っていたことに気が付いた。


「まぁ、その……、訓練はほどほどに……。ほら、折角の〈武闘祭〉です。お二人もご一緒にお出かけされてはどうですか?」

「そうだ、エレオノーラ! 私はエレオノーラと買い物に出かけたい。武闘祭の見学も楽しみだなぁ!」

「そうですね、見学、楽しみですね」

「そうだろうそうだろう」


 うまいこと誤魔化せそうだとギーツの調子が上向いたところで、エレオノーラがさらに続ける。


「応援してます」

「うむ、応援な。エレオノーラは誰の応援をするのだ」

「あなたの」

「うん? 私の?」

「はい、選手登録をしておきましたので、絶対に予選は突破してください」

「登録? 私が出るのか? なんで?」

「はい。これまでの訓練の成果を見せてください。予選で負けたら……、訓練が足りなかったということになるでしょう」


 ぽかんとしているギーツに対して、エレオノーラはご機嫌に話を進めている。

 フォルカーが一切動揺していないところを見ると、これはフーバー家で決定したことなのだろう。ギーツには秘密で。


「そんなわけで、ハルカさんたちも良かったら息子の活躍を見ていってくれ」


 フォルカーの一言で、ギーツの出場が本当であることが確定した。

 ハルカは流石にかわいそうだなぁと思ったけれど、助け出してあげようという気分にならないのは、ギーツの人柄によるものだろう。


「お、頑張れよ! 作戦立てるの手伝ってやろうか?」


 アルベルトがギーツの嘆きも気にせずに、その背中をポンと叩いて応援する。

 ギーツは肩を落として大きなため息をついてから、横目でアルベルトを見ながら小さな声で言った。


「すまないが、よろしく頼む……」


 以前よりは少しだけ、逃げの姿勢が薄くなったようだ。

 それがこれまで訓練してきた自信によるものなのか、あるいは、逃げ道がないことによる諦めなのかわからないが、成長らしきものが見える。


「エレオノーラ、そうと決まればやはり訓練を頼む……。流石に大勢の観客の前で恥をかくわけにはいかぬ」

「おぉー」


 前向きな発言にコリンが拍手を始めたので、ハルカもつられて拍手をするのだった。


 用事も終わったところで、ハルカたちは三人に見送られてフーバー家を後にする。

 ギーツはずっと何か言いたそうにしていたが、両脇を妻と父に挟まれて、結局言い出す機会は与えられなかった。


 大通りへたどり着いたハルカは、視覚と嗅覚をフルに活用しながら屋台で売られているおいしそうなものを探し始める。

 ハルカは次々と食べ物を購入しては、障壁で作った入れ物にきれいに並べて通りを進んでいく。

 少し買い過ぎではないか、と思い始めた頃のことだった。 

 ハルカは一つのぼろぼろの屋台が気になって寄っていく。

 芋をふかしているだけの店であったが、自然な甘い匂いが空腹を刺激する。


「ハルカー、買いすぎじゃないの?」

「あ、これで最後にするので、すみません」

「食べられるならいいけどー」


 コリンに注意されながら、屋台の前に立った瞬間だった。

 芋をふかしていた少年が、ハルカの顔を見て、「あっ」と声を上げる。


「はい?」


 この街での知り合い、となるとそれなりに限られているはずだ。

 顔を見てもすぐには思い出せずに、ハルカは「えぇと……」と呟きながら首をかしげることになった。

 


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― 新着の感想 ―
思う存分怪我ができるね!
ギーツは頑張ったなぁ
ギーツの分も応援の旗作ってあげなきゃね(ニッコリ
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