久々のおぼっちゃま
「フォルカーさんの屋敷へ行きますけど……、誰か一緒に行きます?」
「あー、あの剣ぶっ壊しながら戦うおっさんだよな。俺行く」
「じゃ、私も」
アルベルトとコリンが同行を申し出たところで、モンタナがちらりとレジーナの方を窺ってから「留守番するです」と答えた。
モンタナからは、レジーナがいつもよりやや興奮しているように見えた。
〈武闘祭〉のことを思い出しているのか、それともこの街で色々と喧嘩した記憶があるのか、いつ飛び出していっても不思議ではないのを察して、一応見ておこうと決めたのである。
「じゃあ僕もナギと一緒にいる」
「うーん……、偉い人のところへ行くのならば、私もお留守番していようかしら?」
ナギの口の横をぺしぺしと叩きながらユーリが言えば、カーミラもくるくると日傘を回しながら答える。
「ではお留守番頼みます。帰りには何か美味しいものを探して買ってくるので」
それが一番の目的である。
ハルカは街にいる間は、屋台の料理を買い食いするつもりでいる。
こちらもレジーナ同様、以前来たときに楽しかった記憶がしっかりとよみがえっている。〈武闘祭〉の見学と、屋台巡りどちらが楽しみかと尋ねれば、ハルカはきっと悩んでしまうことだろう。
そんなハルカは足取り軽く街へと繰り出す。
屋台に気を取られつつも、騒がしい通りを抜けて、街の静かな方面へと向かっていると、不意にコリンが話しかけてくる。
「ねぇハルカ、道合ってる? 地図とか見てないけど」
「えーと、多分合ってると思いますけど……」
「よく覚えてるねー。私はぐれたら絶対迷子になるなぁ」
「あー」
そうですねとも言い難いが、まず間違いなく迷子になることだろう。
当然アルベルトもである。
この人が集まる時期に万が一はぐれたら大変なことになりそうだ。
「もしはぐれたら、闘技場の方に向かってもらえばナギがいてくれるはずなので……」
「あ、確かにそうだね。分かりやすくていいや」
そんな話をしながらやってきたフォルカー伯爵の屋敷の入り口には、見覚えのある青年が一人立っていた。
しかし遠目で見るその青年は、最後に会った時よりも随分と全身が鍛えられており、きりっとした顔をしているようでもあった。
歩み寄ると、その青年もハルカたちがやってきたことに気づいたようだ。
「お、ようやく来たかぁ!」
ぶんぶんと明るい調子で手を振る様子と、緩い表情は昔とあまり変わらない。
〈ヴィスタ〉からここ〈シュベート〉まで護衛をしたギーツである。
あれから数年が経つから、今では二十代半ばの立派な青年だ。
「ハルカもコリンも変わらないな! それから、……アルベルトだよな?」
「二人は覚えてんのに、俺のこと覚えてねぇのかお前」
「いやいやいや、そうではない! でかくなりすぎではないか!? 私よりでかいではないか!」
駆け寄ってきたギーツが並んで背丈を比べると、確かにアルベルトの方がかなり背が高い。
「大きくなったなぁ、いくつになったのだ」
「十九歳か? 多分」
「まだそんなものか。まったく若いな」
やれやれと肩を竦めて首を振るギーツ。
「なんか相変わらずむかつくな、お前」
「久しぶりの再会になんてことを言うのだ、まったく」
正面から文句を言われても、ギーツはまるでこたえた様子もなく笑っていた。
おおらかというか鈍感と言うか、微妙なところである。
「でもお前、ちゃんと鍛えてんだな」
アルベルトはギーツの腕や手を見て、ギーツがただ漫然と数年間を過ごしてきたわけではないと悟る。
「おお、わかるのか! そうなのだ、まったくエレオノーラに毎日ひどい目にあわされて。今日は頼みごとがあってな! たまには自由に旅をしたいのだ。お前たちと旅をした数日は、今思い出せばとても楽しくて……」
ギーツが話している途中で、エレオノーラが音もなく扉を開けて姿を現すと、唇の前に人差し指を立てる。ハルカたちの視線はエレオノーラの方へ向いていたが、おしゃべりに夢中なギーツは気づかない。
「……ギーツ様、いつまでお話をされているのですか」
「ひぇっ!」
文字通り体を跳ねさせたギーツの腕をエレオノーラがからめとって、逃げられないように捕まえる。
「な、なんでもない、なんでもないのだ」
「フォルカー様がお待ちですよ」
「そ、そうだな! さ、ハルカ、案内しよう! 行くぞ、エレオノーラ」
「そうですね。ところで先ほど私との訓練の話をされていませんでしたか?」
「し、してないっ」
「ひどい目?」
「ひどくない!」
「今日も訓練、楽しみですね?」
「ぐぅ」
「楽しみですね?」
「楽しみだ……」
ハルカは少しだけ同情したが、雰囲気は悪くない。
結婚したくないと騒いでいた割には仲が良さそうだ。
「父上のところへ案内する……」
「あ、お願いします」
ギーツは一瞬にしてしおしおと元気がなくなってしまったが、役割をこなすつもりはあるらしく、扉を開けて、ハルカたちを屋敷の中へ招き入れるのであった。





