ナギちゃんの発着場
アルベルトたちに〈武闘祭〉の話をすると、どちらも大喜びで一緒に行くことを決めた。やはり仲間たちにとって〈武闘祭〉は楽しかった思い出なのだ。
それと同時に、ノーレンが参加したがっているという話には、アルベルトもコリンもそろって首を傾げた。
「ありなのか、それ」
「確か……、明らかに一級以上の実力者は出ちゃ駄目なんじゃなかったっけ」
「でもそれ、誰が判断してるです?」
「多分、冒険者じゃない人が出場する場合の条件だと思うんですよね。ほら、帝国のナーイルさんとかが出てたじゃないですか。あの場合多分、国が保証して、とかだと思うんですけど……。ノーレンさんの場合、事実二級冒険者なので……」
ルール上は何も問題ない。
そんなことを言い出したら、アルベルトが〈武闘祭〉に参加した時だって、ジーグムンドやレジーナは、実力だけならばすでに一級相当の冒険者であったはずだ。
とにかくその辺りの話は、実際に現地に行って登録できるかどうか試してみるしかない。
できてしまえばそれまでの話である。
その日のうちに森の拠点へ戻ったハルカは、翌日には【ドットハルト公国】の〈シュベート〉へ出発することを仲間たちに伝えて、一緒に行く人を募る。
その結果、今回はいつも通りタゴスが留守番を決めた。
あんまり人混みは好きではないのだそうだ。
レジーナは何か問題が起こるかもしれないからと同行。
カーミラもお出かけと聞けば参加である。
ただ今回、イーストンは留守番を申し出た。
「僕が行って、またあの子に見つかっちゃうと面倒ごとになるかもしれないから」
「あぁ……、そうでしたね」
争いごとに積極的に参加しないイーストンが、以前〈武闘祭〉に参加していたのは理由があった。
本来は吸血鬼を追いかけて街へ来ただけだったのだが、ひょんなことから貴族の少女を助けて気に入られてしまい、勝手に〈武闘祭〉にエントリーされてしまったのだ。
しかも吸血鬼が逃げ出したのをきっかけに、途中で勝手に棄権して街から離れてしまっている。
もし見つかったらと考えると、行きたくない気持ちも理解できた。
そんなわけで、出かけるメンバーは決定。
一応拠点に暮らしているユーリの血縁者であるナディムやシャディヤ、他にも畑仕事をしている者たちを誘ってみるのだが、誰も一緒に行くとは言わなかった。
冒険者であるハルカたちは旅に出ることに慣れているが、元々街で暮らしているような人たちは、一生に一度別の街に行くことがあるかないか、といった暮らしが普通なのだ。
ちょっとおでかけの気分で、よその街へ出かけたりしないのである。
慌ただしく準備をして、翌朝早くに出発。
余計な寄り道をしなければ、数日で〈シュベート〉へ到着するはずだ。
通り道には一つ目の巨人、ブロンテスがいる巨釜山やら、モンタナの出身地である〈グリヴォイ〉があったりするのだが、今回は急ぎのため素通りする。
街道を行く人々を怖がらせないように、できるだけ道から逸れて飛び、野営をするが、いざ〈シュベート〉付近に辿り着くとそうもいかない。
街から離れた場所に着陸。
とりあえずハルカとノーレンだけで先に街へと急ぐことになった。
ノーレンが急ぐのは、大会への登録のため。
ハルカが急ぐのは、連絡をくれたフォルカー伯爵を見つけるためである。
一応〈シュベート〉は【ドットハルト公国】の首都であるから、フォルカー伯爵の屋敷もある。
ハルカはノーレンが街へ入るのを確認したら、そこを訪ねてみるつもりであった。
「じゃあええと……、急いで行くなら空を飛んでいきましょうか」
そう言ってハルカがノーレンに背中を向けると、ノーレンが「ん?」と首をかしげる。
いつまでも背中に乗ってこないので、何かなと思いハルカは振り返り、不思議そうな顔をしているノーレンを見てようやく自分の失敗に気が付いた。
二人で空を飛ぶとなると、モンタナやコリン、それにユーリを背中に乗せることが多かったので、自然とノーレンをおんぶしたまま空を飛んで向かうつもりになっていたのだ。
「あ、じゃあええと、これに乗っていただいて」
改めて障壁を準備して、ノーレンと共に出発。
街の近くへ差し掛かると、街へ入ろうとしている人たちが不安そうに空を見上げ、その間を数人の兵士たちが駆け足で移動しているのが目に入った。
「ノーレンさん、ちょっとすみません。いったん下りますね」
「あ、もう並ばなきゃいけないし、いつでも大丈夫だよ」
これはまずいと思ったハルカは、ノーレンの許可を取って兵士たちの近くへ降りていく。
すると兵士たちもそれに気づいて足を止めたようだった。
先頭にいるのは髭面の男だった。
その男は降りてくるハルカを見ると、なぜか安心したように息を吐いて笑った。
「あ、すみません、あの、竜に関しての確認でしたら……」
「分かってる、ナギだろう。……あ、俺のこと覚えてねぇか」
改めてよく見てみれば、ハルカははっと思い出す。
「あ、ナスコさんですか」
「覚えてたのか、嬉しいぜ」
髭面に、槍と斧が混ざったようなバルディッシュと呼ばれる武器を扱う、兵士のまとめ役。随分前、ドットハルト公国を通過する際にも、ナギのことで問題になって話し合いをしたことのある男である。
「国境付近の街でお勤めではなかったですか?」
「栄転したんだよ。ナギのことなら、一応フォルカー閣下から聞いている。別に咎めようって訳じゃなくて、場所の案内をしようと思って急いでたんだ。そうじゃないと街に来た人たちが不安がるからな」
手紙に返事もしていないのに、一応準備をしておいてくれたらしい。
ハルカは知らぬことだが、特級冒険者を含む【竜の庭】の冒険者が、度々大型飛竜を連れてあちこちに現れることは、結構な噂になっているのだ。
国として、都として、今回〈武闘祭〉に予算を割くついでに、一応準備をしておくかと腰を上げたわけである。
「すみません、毎度お世話かけて……」
「相変わらず腰が低いなぁ、あんたは……。とりあえず、ナギのために用意した場所案内すりゃあいいか?」
思いがけぬ再会であったが、これでナギのいる場所については問題なさそうである。





