大物参戦
ラルフのいる支部長室を後にして、三人でのんびりと歩きながらギルド受付の方へと戻っていく。ギルドの職員でも何でもないのに、しょっちゅう行き来をしているので、もうこの廊下を自分たちだけで歩くのにも慣れたものだ。
ユーリもすっかり手をつながなくとも転ぶ心配もなくなって、あちこちを眺めながら一人で歩いている。
なんだか寂しいような嬉しいような、と考えていると、モンタナの尻尾がハルカの手の甲を撫でた。横目で見ると、モンタナは知らん顔をしているけれど、明らかにわかっていてやっているはずだ。
相変わらずよく人のことを見ていることである。
「〈武闘祭〉、今年もオーヴァンさん来ますかね」
オーヴァンは【ドットハルト公国】の、〈グリヴォイ〉の街に住んでいるドワーフだ。
モンタナの育ての父であり、凄腕の鍛冶職人で、アルベルトが出場した〈武闘祭〉では優勝者に武器を提供していたのだ。ちなみにその時の優勝者は、今や【竜の庭】の仲間になっているジーグムンドである。
「多分いるですよ」
「それなら挨拶しておきたいですねぇ」
そんな話をしながらギルド受付付近へ戻ると、そこにはなぜか、さっきお別れしたはずのノーレンがハルカたちを待ち構えていた。
「どうかしましたか……?」
「ちょっとその、お願い事があって……」
もじもじと言いづらそうにしているけれど、ノーレンには世話になったばかりだ。
よほど変なお願い事でなければ、ハルカは聞き入れるつもりである。
「はい、なんでしょう?」
「ハルカって〈武闘祭〉知ってるよね?」
「ええ、もちろん」
「実は僕も参加したいなぁなんて思っててぇ、連れて行ってもらえないかなって!」
なるほど。
言われてみればノーレンは二級冒険者だ。
どう考えても二級冒険者の強さではないけれど、確かに二級冒険者なのだ。
参加、してもいいのだろうか。
メジャーリーグの選手が草野球に参加するようなものではないだろうかと、ハルカはちょっと考え込んでしまった。
「そうだよね、ごめん! 急だよね! 実はさ、〈武闘祭〉の話は前々から知ってたんだけど、日付を間違えててさ! さっき他の冒険者の子から言われて気付いたんだよね。今から急いで行っても、選手登録に間に合うかわからなくて、ナギに乗せてもらえばって思ったんだけど……」
ハルカが別のことで悩んでいるのを勘違いしてしまったらしく、ノーレンが身振り手振りで一生懸命に説明を始める。年齢的にはそれなりに年上であるはずなのだが、こちらも見た目によく似合う動きをしていてかわいらしい。
やっぱり精神はある程度見た目に引きずられるのではないかなと思うハルカである。
それはそうと、勘違いさせたままではかわいそうだ。
「もちろん大丈夫です。私たちも〈武闘祭〉を見に行くつもりでした。急いで戻って、明日の朝に出発すれば間に合うと思うんですけど……、それで大丈夫ですか?」
「わー、助かるよー! さっきかっこつけてお礼だからって依頼のこと散々断ったのにさぁ、かっこ悪いよね」
「あ、いえいえ、困った時はお互い様ですから」
「持つべきものは友達だよね! ちょっと旅の荷物だけとってくるから待っててね!」
ほっとしたらしいノーレンは、すっかりハルカを友達認定すると、慌てて自室へと荷物を取りに戻った。さっき置いたばかりなのに、慌ただしいことである。
「ノーレンさん、優勝するでしょうねぇ」
「そですね。強いですから」
「そしたら流石に一級になりますかねぇ」
「なると思うです。すでに特級でもおかしくない気がするです」
ハルカとモンタナは目を見合わせる。
「本当に出場していいんでしょうか」
「……わかんないです」
モンタナもまたハルカと同じで、どうしたものかと思っているようだ。
ルール違反ではない。
本人も冒険者らしいイベントごとを楽しみにしている。
しかし、あまりにも強すぎるのは問題だ。
「他にも知ってる人出るのかな?」
二人は頭を悩ませていたが、ユーリは単純に〈武闘祭〉を楽しみにしているようだ。
アルベルトが出場した時は、ユーリはまだ〈ヴィスタ〉でコーディたちに世話をされている頃だった。イーストンやレジーナ、それに優勝したジーグムンドも出場していたことを思えば、あの〈武闘祭〉は、ハルカたちにとって大きな分岐点であった。
よくよく考えてみれば、クダンと出会ったのもノクトに師事したのもあの街でのことである。
それだけよく話に出てくるのだから、ユーリが楽しみにするのは当たり前のことだろう。
「どうでしょうねぇ……。一級になっている人もいるでしょうし……。でももし知っている人を見つけたら一緒に応援しましょうね」
「楽しみだね。美味しいものもあるんでしょ?」
「そうなんですよ。屋台がたくさん出ていて、それを巡るのもきっと楽しいですよ」
「楽しみだねー」
「楽しみですねぇ」
ハルカは、クダンやフォルカーと一緒に食事をした店のことなんかも思い出しつつ、ノーレンを待つまでの間、ユーリとの屋台談議に花を咲かせるのであった。





