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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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寂しいけれど

 ユエルは目を覚ますと、特に何を気にした様子もなくぷらりと旅立った。

 どこへ行くのか聞いてもはっきりとしなかったが、それは別にハルカに対して隔意があるからとかではなく、単純に予定が決まっていないからであるようだった。

 とりあえず、〈混沌領〉が今どうなっているか自分の目で確認して満足したのだろう。その先は本当にまたしばらくあてもなく彷徨うのかもしれない。


 ハルカにとってユエルは、相変わらずよく分からない人ではあるけれど、ここしばらくの付き合いで、人間性が全くないわけではないと分かった。

 長く付き合いが続けば、そのうちもう少しわかりそうであるのは救いである。

 常にドキドキしながらよく分からない相手に怯えて暮らすのは、ちょっと心が疲れてしまう。

 そこまで考えてから、一晩ですっかり元気を取り戻してバリバリ働いているウルメアを見る。

 ユエルが既に去っていったことを聞いたからかもしれないが、よくもまぁ、すぐに立ち直ったものだ。

 自分の役割への責任感というものもあるのだろう。

 ちなみに話を聞きに行ったらしいラジェンダとエターニャによれば、心配しなくともいいということだった。

 ただ、もし次にウルメアが苦手そうな特級冒険者がここに訪れるようなことになったら、あらかじめ知らせておいてあげよう、とは思うのであった。


 さて、〈ノーマーシー〉を引き上げて、あまり寄り道をせずに森の拠点へと向かう。一応各地でユエルの動向を聞いてみると、渡しておいたスカーフを枝につけて、フリフリと振りながら住民たちに近寄っていったらしく、戦闘になることは一切なかったようだ。

 ユエルがちゃんとお願いしたことを守ってくれていたことにも、スカーフの効果がちゃんと発揮されていることにもハルカは安堵する。

 これならば力のない者でも、スカーフさえ持っていれば特に問題なく通り抜けることができるだろう。


 森の拠点へ戻ると、当然のようにエニシの不在について色々と尋ねられた。

 それぞれに答えているときりがないからということで、詳細は食事の時にまとめて話すことになったのだが、ハルカとしてはちょっとだけ憂鬱である。

 エニシはカーミラ同様、拠点で暮らす人たちにとってはかわいらしい妹のような扱いをされていたものだから、皆にとっての喪失感は大きいだろう。……ほとんどの人よりも、エニシの方が年上だったのだけれど。


 その前に旅の疲れでも癒そうかと露天風呂へ向かうと、まだ湯気が上がっており、丁度クダンが出てくるところだった。

 髪がぺったりとしていると少しばかり若く見えるが、目つきの鋭さは相変わらずだ。


「クダンさん、このたびはありがとうございました。私たちにとって……、多分かなり良い結果になったと思います」


 クダンは布で頭をガシガシと拭きながら「そうかよ」とそっけなく答える。


「色々とあったので、細かな話は夕食の時にと思っているのですが……」

「あー、いい、いい。みんな無事なんだろ?」


 クダンはプラプラと手を振って、ハルカの説明を拒絶した。

 だからと言って結果に興味がないわけじゃないようだ。


「そう……ですね」

「焚きつけちまったところもあるからな。それならいい。悪いけど急ぎの用事があるから、お前らが戻ってきたなら俺はもう出る」

「もうですか?」

「用事は終わったからな。じゃ、またそのうちな」

「え、あ、はい、お忙しいところありがとうございました」


 ハルカがろくに対応できない間に、クダンはそのまま拠点の屋敷の方へ向かってしまった。

 本当に何か急いでいるのか、それとも粗相があったのか、ハルカは色々と考えこみながらしばし湯船につかることになった。

 結論として、そういう人なのだろうと思うのが一番しっくりとくる答えであったのだが、風呂から上がった時にはもう拠点からいなくなっていたのには驚きであった。

 しかも南の方へ行ったというのだから、どうやらノーレンにも会わないでどこかへ向かったらしい。

 本当に余程急いでいたようだ。


 夕食時になって、酒も入りながら今回の顛末が話されると、拠点で暮らしている者たちは、やはり寂しそうに肩を落としていた。前向きにとらえてくれたようであったが、やはり人が減れば寂しいものは寂しい。

 それからユーリの祖父であるナディムからは、こういう場に顔を出さないアレジアにも、後で事情を説明しておくべきだと声をかけられる。

 名刺作成や拠点の金属関係の整備のためにやって来てくれた老人だ。

 どうやらエニシがかなり頻繁に顔を出していたようで、きちんと伝えておかないとまずそうだとの話だった。


 翌朝になってハルカは改めてアレジアの下へ向かい、事情を説明する。

 するとアレジアは思っていたよりも落ち込んだりせず、「仕方なかろう」と軽くため息を吐いた。


「あの子はちゃんと出かける前に、お別れになるかもしれないって言ってった。それがあの子の選択なら、おいらは応援するしかないだろう」


 ぎりぎりで出発を決めたはずなのに、エニシはなんだかんだでちゃんと覚悟を決めて挨拶をして回っていたようだ。普段は子供っぽく騒いでいるばかりだったけれど、その辺りはしっかり大人であったらしい。


「しかしなんだ。あんたらはこれからも会うことがあるんだろ? 次出かける時には声をかけちゃあくれないか? それまでに餞別の一つでも作っておくからよ」

「はい、必ず」

「わざわざありがとな」


 アレジアはにやりと笑い、作業を再開させる。

 拠点にはゆるりとした寂しさが漂っていた。

 ただ、ハルカはこうも思う。

 悲しく嫌な雰囲気にならないのが、エニシの人柄を示しているようだと。

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― 新着の感想 ―
はぁ、この作品の優しく穏やかな空気感が本当に愛おしい
もふもふトラップにはまらなかったなんて やはり特級か… にしてもクダンさんがそんなに急ぎって南の方で何かあったのかな
コボルトセラピーはすべてを癒やす。
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