ナギにお願い
翌日、〈竜の港〉に顔を出したハルカは、さっそくノーレンを探し出して、クダンが昨日のうちにどこかへ出かけていってしまったことを伝えた。もしかしたらショックを受けたりするかもしれないと思っていたハルカであったが、ノーレンの反応は極めて淡白だった。
「父ちゃんは忙しいからね。それで、ここの護衛はもう大丈夫なのかな?」
「あ、どうしましょうね……」
考えてみればここを長らく護衛してくれていたのはリョーガであった。
そのリョーガも、エニシと共に自国へ戻ってしまっている。
もちろん、ノーレンにずっと任せるわけにはいかないので、果たしてどうしたものかとハルカは考える。
「ちなみに僕が護衛している間は何も来なかったよ。結構うろついてみたんだけど、危なそうな魔物も見かけなかったな」
「なるほど……。ちょっと皆とも相談してみます」
ちなみに今日の付き添いはナギとユーリだけだ。
ナギはお外でお留守番しているので、ノーレンと三人連れだって港へ向かう。
「あ、どうも皆さん」
「おー、うちの大将がお出でなすったぞ!」
港へ到着すると、そこではドワーフたちが忙しなく造船作業にいそしんでいた。
ハルカが来たことに気づいたドワーフのアバデアが大きな声を出せば、それに応えるように各所から挨拶の声が上がる。
威勢がよく、気持ちの良い現場だ。
「アバデアさん、ちょっとお話良いですか?」
「おー、今行く! おーい、コリア! ハルカさんが話だってよ!」
「ちょっと待て、今行く!」
どこからかドワーフにも負けぬ大きな声がして、ひょっこりと小人のコリアが顔を覗かせる。もしかすると、船乗りという仕事をしていると、自然と声が大きくなるのかもしれない。
「なんだなんだ、どうした」
ぴょんぴょんと資材を飛び越えながら寄ってきたコリアとアバデアに、ハルカは先ほどの件についての相談をする。
「実は、ここの護衛についてなんですが……」
「ああ、護衛の話か。最初の頃は魔物やら賊やらがいたって聞くけど、最近は聞かないよな」
「そうだな。リョーガさんが全員とっちめてくれたんじゃないのか?」
コリアが言い出せば、アバデアが相槌を打って二人して頷く。
「ノーレンさんも暇そうにしておるしなぁ?」
「そうだよな」
どうやら最初の一言で、二人ともハルカが何を言いたいのか察したようだ。
「いざとなりゃあ、わしらは全員船で沖合に逃げちまってもいいし、逆に船で攻められたら拠点へ逃げこめばいい。人手が足りねぇなら、無理に護衛なんてつけなくて大丈夫だぞ」
「うーん……、ありがたい話なのですが、少しだけ心配ではあるんですよね……」
心配性のハルカが首をひねると、黙って話を聞いていたユーリが、ハルカの袖を引っ張った。
「ねぇ、飛竜たちにここまで飛んできてもらったら……?」
「あー……、できますかね?」
ハルカはあまり飛竜たちの行動を制限するようなことはない。
今日も元気に飛び回っているなぁと、漠然と見守っているわけだが、ナギと兄弟分のように育っているユーリはそうでない。
中型飛竜たちも、ナギを自分たちのリーダーと考えているためか、自然とユーリの話もよく聞くのだ。
互いに完璧なコミュニケーションはとれていないかもしれないけれど、ナギを通せば毎日のお散歩、ではなく飛行のルートくらいは決められるはずだ。
定期的に〈竜の港〉までうろうろしてもらえば、魔物はまず近付いてこないし、賊だって恐ろしくて襲う気にはならないだろう。
「できるはず」
「なるほど……。中型飛竜が毎日いっぱい飛んできても、漁とかには支障ないですかね?」
「海でばっしゃんばっしゃん水浴びされなきゃ大丈夫だろ。一応後でテセウスの爺さんに聞いてみたらいいんじゃね?」
「なるほど……、そうしてみます」
それならばと、造船の仕事を手伝いつつ夕暮れまで待っていると、沖からテセウスたちの小舟群が戻ってきた。
ハルカは、テセウスたちの片付けが終わったのを見計らって、声をかけに行く。
そうして先ほどと同じような質問を投げかけると、あっさりと「何も問題ねぇよ」と返された。
ついでに「俺たちは船乗りだぜ。ちょっとした馬鹿野郎どもがやってきたら、逆に魚の餌にしてやるぜ」と大張り切りの言葉をいただいてしまった。そこまでされると逆に悪評が広まりそうなので、ちょっとしたジョークだと思いたいところだ。
とにかく〈竜の港〉には人の護衛はいったん不要、ということで、拠点へ帰る前に、ハルカはナギに今の話を説明してみる。
「ナギ、お願い事です」
ナギはぺたりと地面に伏せて休んでいたが、ハルカたちが戻ってくると一度顔を上げて迎えてくれる。それからハルカが話し出すと、また地面に顎をつけてハルカのことをじっと見つめた。
本当に賢くて可愛らしい子だ、と少なくともハルカは思っている。
初めてナギを見てそう思える人はほとんどいないだろうが、ハルカにとっては、赤ん坊の時から見てきた、かわいいかわいい家族の一人であるのだから仕方がない。
「他の子たちが空を飛ぶとき、ここに立ち寄るようにしてほしいんです。分かりますか? 拠点があって、森があって、ここがこの村です。皆に、行ったり来たりしてほしいんです」
杖を使って地面に大きく絵を描きながら説明していると、大体話が終わったところで、ナギからがうがうと口ごもったような返事がある。
「大丈夫そうですかね?」
「大丈夫だと思う」
ハルカの問いに、ユーリが返事するのと同時に、ナギもまた先ほどと同じようなトーンで返事をくれた。
あとはまぁ、実際にうまくいくか確認してみるほかないだろう。
ハルカはちゃんと話を聞いてくれたナギをよくよく撫でまわして褒めてから、背中に乗って拠点へと戻ることにするのだった。





