珍しいタイプの王様
翌日の昼間は、折角だからということで、テネブと共に街をぶらついた。
テネブは純粋な吸血鬼であるにもかかわらず、夜に寝て昼間に歩き回る生活習慣のようで、街の人々はテネブを見ても特別珍しいとは思っていないようだった。
本来吸血鬼は日中には力が出ないうえに、かなり体がだるいと感じるため、夕方あたりに目を覚ますものが多い。
「夜に出歩いても、皆が活動しているのは見られないからね」
「だるくないです?」
「慣れたかな。元々吸血鬼は身体能力が高い。だから昼間になると異様にだるく感じるが、それでも普段の人と比べれば体は軽い方さ」
「なるほど……、感覚の問題なんですね」
「そういうことになるね」
簡単に言うが、これは本来慣れ云々でどうにかなる問題ではない。
吸血鬼は不老であるが殺せないわけではない。
昼間であると、相当不死性が下がるのだ。
それが太陽の下となるとかなりひどい。
吸血鬼たちからすれば、日中にふらふらと街を歩くというのは、人が無防備に戦場を歩き回るのと同じくらいの感覚だ。
イーストンが歩き回れるのは、半分人の血が混じっているからで、カーミラが街へ出かけるのは、ハルカと一緒にいたいという強い願望と、何かあってもハルカが守ってくれるだろうという安心感からである。
それと比較して考えると、テネブは数万人は暮らしているであろうこの島を、当然のように毎日無防備に歩き回っていることになる。
吸血鬼としてかなり感覚がずれている方であると言えよう。
街を歩いていると、次々とテネブに声をかけてくる人がいる。
テネブはそのたびに嬉しそうに、『イーストンが友人を連れてきたのだ』と話をしていた。時折食べ物や飲み物を勧められて、ベンチで座ってそれらをいただきながらのんびりとした時間を過ごす。
どうやら話を聞いていると、あちこちの日陰に置いてあるベンチも、テネブがいつでも休めるようにと、街の人が自主的に設置しているようだった。大層慕われている王様である。
ハルカの想像する王様の形としては、これが理想なのだが、果たして破壊者の皆々が、これほど穏やかに暮らしてくれるかは微妙なところだ。
そんな風にうろついていると、街の半分もいかぬうちに日が暮れ、また夜が近づいてきてしまった。
街では珍しい魚や、【神龍国朧】と大陸の文化が混ざったような衣服や、工芸品があり、なかなか面白い時間を過ごすことができたのだが、テネブは帰り道少しばかり申し訳なさそうな顔をして謝る。
「すまないね。皆君たちに興味があるようで、思ったように街の案内ができなかった。外からの客人が珍しいんだ、許してほしい」
「いえ、お話を聞くのも楽しかったです。皆この島が好きなんだなぁと……」
「そう言ってもらえると助かるよ。さて、連日で申し訳ないが、お疲れでなければ今晩も色々と話を聞かせてもらいたいのだが……」
「いいですよー、こっからが結構大事な話になるし、ね?」
コリンが悪戯っぽく笑ってハルカにウィンクをする。
ここからというと、本格的に〈混沌領〉へ乗り込んでいった辺りの話になってくる。確かに【夜光国】の王であるテネブには、この辺りの話こそしっかりとしておかなければならない部分なのだろう。
場合によっては早めに話すべきなのをここまで引っ張ったのは、テネブが順を追って話を聞くのを楽しそうにしていたからである。
「それは楽しみだ」
城へ入ろうとすると、空を大きな影が横切る。
見上げてみると、一体の赤茶けた色の鱗をした大型飛竜が城の上にせり出した崖に止まってハルカたちを見下ろしていた。足を止めていると、今上空を通り過ぎた灰色の鱗をした大型飛竜も、のしのしとやってきて同じようにハルカたちを見下ろす。
「でけぇな」
「ナギよりは……小さいかも?」
アルベルトが言うと、遠目ながらも大きさを目算したユーリが首をかしげる。
どうやらナギは大型飛竜の中でもかなり大柄な方であるようだ。
「あれは私と一緒にこの島に越してきた子たちでね。他にも山に数体中型飛竜が住んでいるんだけれど……、昨日も顔を見せなかったし、なんだかこちらを警戒しているようだね」
「ハルカのこと警戒しているです、多分」
「おや、わかるのかな?」
「魔素を感じられると、きっとハルカのこと警戒するですよ」
「なるほど……? 私はあまり敏感な方ではないからわからないけれど……。あの子たちも長生きだからそんな技能があってもおかしくない」
「帰りまでに警戒を解いてもらえるでしょうか」
ハルカとしては、折角ナギ以外の大型飛竜と会えたのだから、ちょっと交流していきたいところだ。警戒されるのは仕方がないにしても、せめて危険人物ではないと誤解を解いておきたい。
「明日一緒に会いに行ってみようか」
「いいんですか?」
「もちろん。その代わり、いつか君たちの拠点にいるナギという子にも会わせてほしい」
「わかりました。ちょっと臆病なんですが良い子ですよ」
「うんうん、竜にも色々と性格があるからね」
圧倒的強者だからこその高次元かつ、ある種低次元な会話である。
テネブは喋りながら城に入ると昨晩と同じ場所に置いてあったランタンを手に取って、今日もハルカたちを先導してくれる。
食事の準備中も、食事が始まってからも、ハルカたちの冒険の話は続く。
吸血鬼たちが悪さをしていたあたりは、どこか申し訳なさそうにしていたテネブだったが、無事に問題が解決されたことを知るとほっとした様子であった。何とも、語りがいのある聞き手である。
「何かここまでで気になることなどがあれば……」
色々聞きたいことがあるだろうと、ハルカは話を止めて尋ねてみるが、テネブはゆっくりと首を横に振った。
その表情は相変わらず穏やかなものだ。
「そうだね、色々とあるのだけれど……。すべて聞いてからでもいいだろうか? なに、聞いたところで私の態度は変わらないから安心して話してほしい。ただ、興味深い話を邪魔せずに最後まで聞かせてほしいだけだ」
「……わかりました」
「この島はあまり刺激がないからね。どうせ言葉通りだから心配しないでいいよ。僕が帰ってきたときも、いつもこんな感じ」
「イーストンはあまり聞かせてくれないから、結構しつこく尋ねるのだけどね……」
ついでにイーストンがフォローをすると、テネブは付き合いの悪いイーストンのことを愚痴り出す。
「父さんは外のことそんなに興味ないでしょ。変な本があれば買ってきてあげてるし」
「興味がないわけではないのだけれどね」
なんだか不思議な親子関係である。
イーストンは親馬鹿と言っていたが、今のところそこまで酷い執着は見えてこない。
案外自分たちがいることで遠慮をしているのかもしれないと思いつつ、ハルカは続きをゆっくりと話し始める。





