親子の関係
「なんとなく、そうなのかなとは思っていましたが……」
「うん、その割に数が少ないとは思わないかな?」
「そう、ですね」
ハルカたちもこれまで吸血鬼の噂は色々と聞いている。
若い吸血鬼は自信過剰で好戦的なため、命を落とすことが多いとか、そもそも吸血鬼という種族自体が子供を為しにくいとかだ。
しかしわざわざ話をするからには何か違いがあるのだろうと、ハルカたちはテネブの話の続きを待つ。
「長く生きているとね、退屈するのだそうだよ。長く生きたものの多くはそう言って自ら命を絶ったり、誰かと殺し合いをした末に殺された」
「おっさんはどうなんだ?」
アルベルトが焼き魚の尻尾をもって、身を外すのに悪戦苦闘しながら尋ねると、テネブは楽しそうに笑った。
「うむ、おじさんは不思議とそうは思わない」
「なんでだ?」
「人々が健やかに成長していくのを見守るのは楽しいことだ」
「見てるだけでいいのか?」
「そうだ、見ているだけでだ」
「俺にはわからねぇなぁ……」
アルベルトなんかは積極的に冒険を求めるタイプだ。
ただのんびりと生きているだけ、というのは中々辛いものがあるだろう。
年をとればどうかわからないが、少なくとも今はどうあがいてもテネブの心を理解することはできない。
「それが普通のようだね。だから皆、辛くなって消えていく。私たち吸血鬼の王たる一族はね、どうやら生きるのが上手なんだ。死ぬのが下手というべきなのかな」
一方でハルカは、なんとなくテネブの言っていることが分かる。
もちろん冒険をすることはワクワクして楽しいけれど、その一方で、自分がいることで平和に暮らしていける人がいるのなら、それを見守っていくことも悪くないような気はしてくる。
「……なんとなくわかります。でも、人を見送るのは寂しくないですか?」
テネブは穏やかに笑ってハルカの方を見る。
「そう、それがこの島に吸血鬼が少なくなったもう一つの理由だ。島に来るまではふらふらと外へ出て行って、しばらくすると帰ってくる者もいたのだが……。島に来てからは、気持ちを発散させる場所がなかったらしくてね。一人、また一人と、仲の良い人を見送るたびに仲間たちはどこかへ旅立っていったよ。生きているか死んでいるかもわからない、というわけだ。そんな中、シルキーが生きているというのは私にとって朗報だったよ。元気にしているのだろう?」
シルキーと会ったことのある者全員が、楽しそうにテトの世話をしているシルキーの姿を思い出す。何でもかんでもやってあげるような状態で、正直どうなのだろうと思われる部分もあったが、今の話を聞くと納得できる。
きっとシルキーは、年を取らない相棒であるテトに希望を見出しているのだ。
怠惰だからやることも多く、ああして頼られることも嬉しい。
てっきり皆、テトがシルキーに依存しているのかと思っていたが、実は案外シルキーの方がテトに依存をしているようだ。
「楽しそう、ではあるよねー?」
「そですね。テトさんのお世話してるです」
「テト、というのは?」
「北方冒険者ギルドのギルド長で……」
ハルカはすぐに解説を始めたが、ピタリと止めて首をかしげる。
「イースさんからはあまり聞いていないのですか?」
「聞いたことには答えてくれるのだが、あまり人の名前が出てきたりすることがなくてね。一応君たちの名前くらいは聞いたことがあるのだが……」
もう少し話をしてあげてもいいんじゃないか、とハルカがイーストンを見る。
どうやらカーミラやコリン辺りも同じことを思ったらしく、一斉に視線が集まったイーストンは目を逸らして口を開く。
「この年になって、あれもこれも話すのもどうかと思ってね」
「そんなことないと思うわ。きっとテネブ様だって、イースさんの口からお話が聞きたいと思うの」
「そう……、ですね。嫌でなければ、イースさんからお話しした方が……」
「嫌というか……」
「私もイーストンから話を聞けるのは嬉しいね。もちろん、お客人の皆さんからでも嬉しいのだが……」
テネブまで乗っかると、イーストンは深くため息をついて「分かったよ」と降参した。いつもの大人らしい諦めにも見えるが、テネブと一緒にいると、少し拗ねているようにも感じられるのが不思議だ。
「でも、僕も詳しくないことがあるから、皆ちゃんと説明は手伝ってね。……テトさんっていうのは、北方大陸の冒険者ギルドの一番偉い人。今北方大陸が四つの国に分かれてるのは知ってるでしょ。そのうちの【独立商業都市国家プレイヌ】って国ができた時に活躍した人で……。……この辺は、アルの方が詳しいんじゃない?」
「お、話していいのか? あのな……」
途中まで語ったところで、イーストンは上手くアルベルトにバトンタッチ。
確かにテトなどの有名な冒険者に関する逸話は、アルベルトが詳しい。
そうしてイーストンが話しては、他の人に解説を任せるようなやり方で、話は夜遅くまで続くことになった。
一晩では話し切れず、ユーリがうとうとし始めたところでその日はお開き。
テネブはハルカたちを部屋へ案内しながら呟く。
「私には考えられぬほど、激しく、忙しく、そして濃密な毎日だ。イーストンが良い友人に出会えたようで私も嬉しいよ」
「……まあ、僕も恵まれていると思うよ」
イーストンが素直にそう言うと、テネブは足を止め、目を丸くして振り返った。
「何?」
「いや……、何でもないんだ」
ハルカはそのやり取りを見てなんとなく思う。
もしかするとイーストンは、父親であるテネブに対しては、案外ちゃんとわがままでかわいい息子なのかもしれない、と。





