プエル=ダックはいたって真面目
「私の勝手な早とちりにより、【竜の庭】のお三方のことを侮辱し、気分を害したこと、誠に申し訳なく、ただただこの軽い頭を下げて詫びるばかりです。ごめんなさい」
プエルは【竜の庭】の拠点玄関で床に頭、ではなく、頭部の甲冑をこすりつけて謝罪をしている。
関節部分があまり曲がらないのだろう。
ほぼ頭頂部で体を支えるような形で謝罪の姿勢をとっている。
「なにこれ?」
奇妙なオブジェのようなプエルの姿を見て、迎えに出てきたコリンが笑いながら尋ねてくる。
「神殿騎士第八席【鉄壁】のプエル=ダックさんです」
「それが何で謝ってるの……?」
「日中喧嘩売ってきた商人が、帰り道に謝ってきたです。それをレジーナが怒ってたら、商人がカツアゲされてると思って助けに出てきたです」
「あー、わかった。まぁ、レジーナが怒ってるとそう見えるよねー」
「あいつ目つき悪いもんな」
一緒にいたアルベルトが頷くと、レジーナがぎろりと睨み、コリンが軽く小突く。
「あんたも同じだから」
「そうか?」
他人事なのでアルベルトは笑いながらさらに続ける。
「おい、謝るなら顔くらい見せろよ」
「はっ、その通りでした!」
アルベルトが余計な一言を言うと、プエルはハッとしたようにヘルムの前部分をかしゃんと上げる。
そこをあげたところで、前面が床の方を向いているので何も見えないけれど。
「ふはっ、そんなことしても顔見えねぇだろうが」
「むむむ、しかしお許しいただけていない以上、顔を上げるわけには……」
「兜ごと取れって」
「確かに!」
一生懸命もぞもぞと動いているのを見て、かわいそうになってきたハルカが声をかける。
「もう謝罪は受け入れましたから、普通に立ちあがって構いませんよ」
「ありがとうございます!」
手をついてから膝を立て、ガシャンという音と共にプエルが勢い良く立ち上がる。
その拍子に先ほどまで上げていた兜の正面部分が、また下がってきて顔が見えなくなってしまった。
立ち上がったプエルの身長は、案外大きい。
ハルカよりは高くて、アルベルトよりは低い、くらいだろうか。
「むむむ、少々お待ちを」
プエルは両手で兜部分を掴むと、ずぼっと引き抜くようにしてようやく顔を露わにする。
金髪碧眼。
長い髪を編みこんであり、きりっとした意志の強そうな顔によく似合っている。
ハルカはちょっと声が高い人だとは思っていたが、どうやら女性であったようだ。
「おい」
「はい、ごめんなさい! 申し訳ございません!」
レジーナが声をかけると、プエルはピシッと姿勢を正して大きな声で謝罪をする。
「お前、武器は?」
「はっ! 【鉄心】テロドス様より、すぐ早とちりをするから、武器を持ち歩かぬよう言われております!」
「じゃああたしが敵だったらどうやって成敗するつもりだったんだよ」
「囮をしている間に逃げてもらうつもりでした!」
「ちっ、どうりで……」
レジーナはぶつぶつと文句を言っている。
はなからプエルが本気で戦うつもりがなかったのを察していたのだろう。
ここで確認をして更にやる気がなくなった形だ。
ちなみにハルカは、きっとテロドスさんも苦労しているんだなぁ、と同情をしたところである。
「戦えねぇなら興味ねぇよ、帰れ」
「それはお許しいただけたということでしょうか!」
「うるせぇ」
レジーナが回れ右して奥へ引っ込もうとしたところで、プエルがさらに続ける。
「むむむ、お三方にお許しいただけなければ帰るわけにはいきません!」
「僕は許したです、帰っていいです」
そろそろやかましくなってきたのか、モンタナがあっさりと謝罪を受け入れるが、レジーナは相手にせずに廊下の奥に消えていこうとしている。
「もし! レジーナ殿が許せないというのならば、いくらでも私を殴って下さい。さぁ、どうぞ! 覚悟はできてます!」
無視だ。
レジーナにそんな趣味はない。
レジーナとて昔から意味のない暴力を振るっていたわけではないのだ。
「あの、どうしたら許していただけるのでしょうか! お金でしょうか! お金、いっぱいあります!!」
「うるせぇ、しつけぇ、声がでけぇ!」
レジーナの姿が見えなくなると、プエルは必死にさらに大きな声を出した。
正直謝罪うんぬんよりこの大声の方が余程迷惑だ。
レジーナも同じようなことを思ったらしく、ずんずんと足音を立てて戻ってきた。
「戻ってきてくださってありがとうございます!」
ありがとうございますではない。
レジーナは頭を下げたプエルの前髪をわしづかみにして顔を寄せた。
アルベルトはげらげら笑っているが、ハルカ他数名はだんだん引き始めている。
「お前、戦えるよな?」
「はい、戦えます!」
「じゃあ明日本気であたしと手合わせしろ。それで許してやる」
「いいんですか!? 負けたほうがいいですか!?」
「わざと負けたらぶっ殺す」
「勝ってもいいんですか?」
レジーナの頬が引きつり、それから額をガンとぶつけて怒鳴りつける。
「やれるもんならやってみやがれ!」
「はい、頑張ります!」
「帰れボケ!」
「はい、帰ります! また明日来ます!」
「来んな!」
「どうしたらいいですか!?」
コリンが「どうどう」と言いながら拳を振り上げたレジーナを止めている間に、ハルカが間に入ってプエルを屋敷の外へ押し出していく。
「あ、こっちから行きますので、はい、今日のところはお引き取り下さい……」
「はい、分かりました。お待ちしています!」
「お昼前に行きますので、はい、ではおやすみなさい」
外へ追い出して、ぱたりと扉を閉める。
がしゃがしゃという音が遠ざかっていくのを聞いて、ハルカはゆっくりと息を吐いた。
どうやら今晩は、明日、血の雨が降らないことを祈りながら眠った方が良さそうだ。





