第83話 体育祭編① 阿吽の呼吸
「宣誓、私たちはこれまでの練習の成果を発揮し、最後まで正々堂々と全力で戦い抜く事を誓います! 生徒代表、柴田涼子」
選手宣誓がなされ体育祭が始まった。グラウンドに整列していた生徒達はぞろぞろと選手席に戻って行った。
「リョウコちゃん、格好良かったですね!」
「ユリが素敵な文章を考えてくれたお陰だよ」
「私のトレーニングにつきあってもらっちゃったから、そのお礼よ」
「ユリちゃん、体力は上がりました?」
「一キロ八分ペースから七分ペースに上がったわ」
「それはすごいですね!」
高校生で一キロ七分は相当遅いのだが、ユリが進歩したことをチカは心の底から喜んでいた。
「まもなくムカデ競走が始まります。出場する生徒は入場門の前に集合してください」
最初の競技が始まることがアナウンスされ、出場者達は入場門へ向かう。
「位置について、よ〜い、ドン!」
ピストルの音が鳴り、五匹のムカデがいっせいにスタートした。
「頑張れー! 絶対優勝するんだ!」
「ファイトです!」
チカ達は赤い鉢巻きをつけた集団を応援する。A組が赤、B組が白、C組が青、D組が黄色、E組が緑の鉢巻きを頭に巻いているのだ。
ムカデの集団は最終コーナーにさしかかる。一番先頭を走っているのはA組でその後ろからB組が迫ってきている。
「いけいけいけいけ! ゴーゴー! あっ!?」
ムカデを構成しているうちの一人が足を縺れさせて転んでしまった。すぐに立ち上がり再び走り始めるが、B組に抜かれてしまい二位でのゴールとなった。
「あー! くっそー!」
「リョウコちゃん落ちついてください! まだ体育祭は始まったばかりですから!」
「ごめん取り乱した……」
リョウコは落ち着きを取り戻すと、力が抜けたように自分の椅子に座った。その後の競技は座ったまま応援した。
「まもなく二人三脚が始まります。出場する生徒は入場門の前に集合してください」
「行って来ますね!」
「チカとレイナの出番か! これは全力で応援しないとね!」
リョウコは選手席とグラウンドを仕切るロープの目の前に陣取った。
「熱くなり過ぎないでくださいね」
「わかってるって。二人とも頑張ってね!」
「はい!」
入場門をくぐりチカとレイナはグラウンドに入場した。二人の足を縄でしばり、二人三脚の準備をする。
ピストルの音と共に最初の走者がスタートした。二人三脚はバトンを繋いでいくリレー方式で、チカとレイナはアンカーとして最後に走ることになっている。
A組の生徒達は二人三脚が苦手なようで最下位を独走中だ。バトンが渡る度に他クラスとの差がどんどんと大きくなっている。それに対してB組は先頭を悠々と走っている。
そんな圧倒的劣勢の中、チカ達にバトンが渡った。
「レイナちゃん、いきますよ!」
「OKだよん!」
「「いち! に! いち! に! いち! に!」」
二人は肩を組んで走り出した。息がぴったりなため一人で走るのと変わらないくらいの高速で走れている。なんと五十メートル八秒ペースだ。
「ふれーふれーチカ! 頑張れ頑張れレイナ!」
「ちょっと私の耳元で叫ばないで! 鼓膜が破れるわ!」
「いっけーいけいけレイナ! チカ!」
ユリはこういう時は何を言っても無駄だと察して、ドン引きしながらリョウコと距離を置いた。
「「いち! に! いち! に!」」
前方を走る他クラスの生徒達をごぼう抜きしていき、トップのB組と並んだ。
「よっしゃー! そのまま押し切れえ!」
リョウコは喉を酷使したため、少し声が潰れているように感じられる。
「チカ、ラストスパートいくよん!」
「はい!」
ただでさえ速かった二人は更にスピードアップした。二人の厚い絆の力のせいか、普段一人で走るよりも圧倒的に速いという有り得ない現象を引き起こしている。B組を追い抜きそのままゴールテープを切った。
「ゴール! 一位A組、二位B組です。おめでとうございます!」
「レイナちゃん、やりましたね!」
「チカと私のコンビネーションは最強だね! 二人ならどんなことでもできちゃう気がするよん!」
二人は熱い抱擁を交わす。そして二人三脚の縄を外すのも忘れてそのまま選手席へ戻っていった。
「二人ともおめでとう! 君達のお陰で総合ポイントが暫定一位になったよ!」
リョウコはウキウキした様子で得点板を指さす。A組がB組に五ポイント差をつけて一位となっている。
「このまま優勝しちゃいましょう!」
「私とチカがいるから優勝は余裕だね!」
「ところで君達、いつまで二人三脚してるつもり?」
「あっ!」
二人は慌てて縄を外した。そんな二人の様子をユリは目を細めて妬ましそうに見つめている。
「私も二人三脚にすれば良かった。そうすればチカと……」
「ユリちゃん何か言いました?」
「な、何でもないわよ! 別に二人三脚でチカと肩を組んで密着したいとか全然思ってないんだから!」
「落ち着いてください。ユリちゃんのためにお弁当を作ってきましたから」
「本当? この前の約束覚えていてくれたのね!」
「当たり前じゃないですか」
「それじゃあ早速食べましょう!」
「まだ昼休みじゃないですよ。もう少し待ちましょう」
「ええ……」
ユリはクラスメートの応援そっちのけでチカの弁当を待ち続けるのだった。




