第82話 楽しい?スポッチャ③
リョウコの放ったショートサーブは低い軌道で相手側のコートに鋭く突き刺さるように飛んでいく。チカは懸命にラケットを振るものの掠りもしなかった。
「よし!」
「ちょっとリョウコ! 初心者相手にそこまで本気出すの?」
「あっ、ごめんごめん! いつもの癖でついつい本気出しちゃった。次から手加減するね」
「いいえ、手加減なんていりません!」
「え?」
「私達は全力でバドミントンをしているリョウコちゃんと戦いたいんです! レイナちゃんもそう思いますよね?」
「うん!」
「そう? なら遠慮なくボコボコにさせてもらうよ!」
リョウコは再びショートサーブを放つ。ネットをスレスレで飛び越え、コートの手前の方にストンと落ちる。しかし地面につくその直前、レイナが勢いよくラケットを滑らせ、ロビングをしてシャトルを高く上げる。
「チカ! やったよ!」
「レイナちゃんすごいです!」
「たかだかサーブを取れたくらいで大袈裟だね。県大会に出場する人達にとってはこんなのは朝飯前どころか前日の夕飯前だよ!」
よくわからない自作のことわざを使っていて頭の悪さを露呈しているが、バドミントンの実力は確かだ。
彼女は中学生時代、地区大会で優勝して何度も県大会に出場している。しかし、県大会では準決勝で負けてしまい関東大会出場を逃してしまっている。県内には全国大会の常連である猛者がおり、どうしても勝つことができない。上には上がいるのだ。
リョウコはその悔しさをバネに厳しい練習を続けているため、実力は常に上がり続けている。
「ユリ、取れるよね?」
「え、私なの!?」
「後ろに上がった球は君が取るんだよ!」
「え、え、あっ?」
ユリはあたふたしながらもどうにかシャトルに触れる。その球はふんわりと飛んでいき、相手コートのネット前に上がった。
「チカ、いける?」
「やってみます!」
チカは足に力を入れて大きく跳び上がる。そしてラケットをシャトルに合わせて手首のスナップを効かせて振り抜く。ラケットは見事にヒットし、シャトルは地面に叩きつけられた。
「やりましたよ!」
「ナイスチカ!」
レイナとチカは元気よくハイタッチをする。それとは対照的にリョウコはユリをじっとりとした目で見つめている。
「上げるならもっと奥に飛ばさないと」
「私のヒョロヒョロな腕じゃ無理よ! それに相手が強過ぎるわ!」
「確かに運動神経が良いレイナだけならまだしも、チカもあそこまで強い球を打てるとは思わなかったな」
「いや、今のはまぐれですよ!」
「よし、次も点を入れるよん!」
レイナは見様見真似でショートサーブをする。
「甘いね!」
ネットを越えたその瞬間、リョウコはシャトルを叩き潰す。
「ひいっ!?」
「そんな生半可なサーブじゃ僕には勝てないよ!」
「ぐぬぬぬ……」
このような具合で試合は進行していき、遂に決着がついた。結果は二十一対十八でリョウコ、ユリチームの勝利だ。リョウコが圧倒的な強さを見せつけたが、それと同じくらいユリが失敗しまくったため互角の勝負となったのだ。
「負けたけど良い勝負でした!」
「リョウコ、足引っ張っちゃってごめんね」
「でも全力でプレイしてたでしょ? 少しくらい体力ついたんじゃない?」
「言われてみれば、シャトルの飛距離が微妙に伸びた気がするわ」
「だよね! さて、次はどこに行こうか?」
「次は私の行きたい場所に行っても良い?」
「どこに行きたいの?」
「とりあえずついてきて!」
レイナの後ろを追いかけていくと大量のソファが並べられた部屋に到着した。
「ここは?」
「漫画読み放題の部屋だよん!」
「はあ?」
「色んな人気漫画が揃ってるから、ゆっくり読んでいこうよ!」
「駄目駄目駄目駄目、ぜ〜ったい駄目!」
「どーして?」
「僕達は運動をしに来ているんだよ! 遊ぶために来ているわけじゃない!」
「でもさ、せっかく同じ料金払ってるんだからたくさん遊ばないと損じゃない? もちろん少し漫画を読んだらまた運動に戻るからさ」
「う〜ん……」
「私からもお願い! 慣れない運動でヘトヘトだからちょっとだけ休ませて!」
「仕方ないなあ……少しだけだよ!」
「ありがとう!」
ユリはソファにもたれかかりリクライニングする。備え付けのリモコンのボタンを押すと、足のマッサージが開始された。
「あ〜、効くぅ〜♡」
「ユリ、声がエロい」
「あら、ごめんなさい。足がパンパンになっちゃってるからマッサージが気持ち良いのよ」
「ちゃんと足を使ってる証拠だね! どれ、僕も試してみようかな」
リョウコはユリの隣の席に腰掛け、マッサージを始める。
「あんっ!? き、きもちいい……♡」
「リョウコもエロい声出てるわよ」
「僕達は気持ち良いことに弱いみたいだね」
「そうね」
二人がマッサージを楽しんでいる間、レイナとチカは本棚を物色していた。
「何にしようか、たくさんあり過ぎて迷いますね……」
「鬼殺の剣が全巻揃ってるよん! 読んでみたら?」
「鬼殺はこの前リョウコちゃんに借りて全巻読ませてもらったんですよね」
「じゃあこれはどう? 『ワピース』っていうんだけど」
「名前だけは聞いたことあります。昔から連載が続いている海賊の漫画でしたっけ?」
「そうそう。全部で百巻まであるよん」
「ひゃ、ひゃっかん!? 流石に長過ぎませんか?」
「長いけどその分ストーリーが濃密で面白いよん!」
「じゃあ読んでみます!」
チカはワピースを五巻まで持ってソファへ向かった。
「ねえレイナ、僕にも何か面白そうなの持ってきて」
「え〜、自分で行きなよ」
「今マッサージ中だから動けないんだよ。だからお願い〜!」
「仕方ないなあ。はい、どうぞ」
レイナは適当に漫画を何冊かピックアップするとリョウコに渡した。
「これ全部少女漫画じゃん! 僕は剣と銃弾が飛び交うバトル漫画を読みたいんだけど」
「新しいジャンルを開拓するのも楽しいよ。読んでみなって」
リョウコは不満そうな表情で少女漫画を開いた。ページをめくる度にしかめっ面が今にも泣きそうな表情に変化していく。
「ぐすん……マリー・アントワネット可哀想……」
「どう? 泣けるでしょ?」
「泣いてない! これは目汁!」
「まーた、同じ言い訳使っちゃって」
「ストーリーが面白過ぎて全巻ぶっ通しで読んじゃったよ。今何時かな?」
「もうすぐ二十一時だよん」
「はあ!? もうそんな時間?」
慌てて窓を見ると、外は月明かりに照らされた美しい夜空が広がっている。
「はぁ〜、まだ十巻までしか読んでいませんがワピース面白かったです。親が心配しますしそろそろ帰りましょうか」
「全然運動できてないじゃん! 君達、明日もスポッチャ行くからね!」
「流石に二日連続はきついわよ。というかリョウコは部活大丈夫なの?」
「なんと珍しく二日連続の休みなんだよ。だから明日はみっちりとトレーニングするよ!」
「私は楽しかったので明日も参加したいです」
「私も! 次はリョウコとシングルスで戦ってみたい!」
「ということで賛成多数で可決されました〜! ユリも絶対に来るんだよ!」
「はぁ……さらば、私の優雅な放課後」
四人は翌日もスポッチャに行ったものの、結局スポッチャ内のゲームセンターに熱中してしまい、運動は少ししかできないのであった。
スポッチャで漫画やゲームをやり過ぎて全然スポーツができないというあるある。




