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チー牛、ラッパーになる  作者: ねーじ
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チー牛、feat.(フィーチャリング)する6

既読はついたがしばらくしても師匠からの連絡は無かった。

いつもならすぐ返事を返してくれるのに今日はどうしたんだろう?もうすぐ近くまで迎えに来ているから連絡してこないだけなんだろうか?


仕方がないのでぼーーっと駅専用の駐車場を眺めていた。車が数台止まっていたが、その中の1台のトラックから男が降りてきた。

左半分は刈り上げ、真ん中から右側に紫色に染めたロン毛が肩まで延びている。男だがメイクしてるんだろうか?それともただ単にガチで目のクマがヤバい人なのだろうか?こちらに近づいてくる。電車に乗るんだろうか、とりあえず通り道の邪魔にならないようにそれとなく横に移動した。露骨に避けたと思われたら因縁を付けられるかもしれないのでさりげなくだ。


しかし、その紫髪の男は俺の横を通り過ぎず、俺の前で止まった。


(あ、死ぬ)


俺が一体どんなミスを犯したのかはわからないが、こんなやべぇヤツに絡まれたら俺は死ぬ。それだけは理解できる。せめて童貞捨てて死にたかった。



「あのぉ~、チー牛さんですか?」


「ヒィ……」


「あぁ、違いましたか?すんません……マジ申し訳ないです」


「ア……イヤ……自分ッス……」


紫髪の男は見た目から想像出来なかったが意外と礼儀正しくて少し安心した。


「あ、よかったです。じゃあこっちおねがいしゃす」


紫髪の男はそう言って来た道を戻っていく。

俺は何かわからないまま、ひとまず男について行く事にした。

この紫髪の男を見ていて、なんとなくパープルピープルというワードが浮かんだが、長ったらしいのでパーピーと呼ぼう。


パーピーは乗ってきたトラックに乗り込んだ。

フロントガラスの内側から俺に向けて助手席に座るようジェスチャーしてきた。


俺は慌てて助手席に乗った。人生初のトラックだった。目線が高くて少し怖かった。

パーピーは無言でトラックを走らせた。これは師匠の家に向かうのだろうか?このパーピーは何者なんだろうか?いざとなったら逃げ出せるように道を覚えておこう、等色んな事を考えていたが、途中からある言葉が思考の大半を占めるようになってきた。


……ここはどこだろう?


18時20分。初夏なので外はまだ明るかったが、街頭や街明かりが減ってきた。というのも理由がある。


山の中を走っているのだ。


師匠の家は山の中なのか?それとも山越えしないといけないような場所なのか?


そういう不安を抱いていると、トラックはマジで何も無い道路脇のスペースに停められた。


「着きやした」



やっぱ俺死ぬかもしない。



一体どこに着いたというのだ?俺には雑木林しか見えないが、このパーピーにはユートピアでも見えているのだろうか?

もしくは、やはりヤバい取引の現場だったり、死体を埋める仕事を手伝わされる、あるいは俺が死体となって埋められる等が考えられた。やはり師匠はヤクザだったのか?


パーピーは「こっちッス」と一言言ってトラックから降りた。この幻覚を見ているかもしれない男を逆なでせぬよう、俺は素直に言うことに従いトラックを降りる。


パーピーはトラックのコンテナの扉を開けた。

あーー、見たくない!きっと見たら俺はもう真っ当に生きていけない!そう思いながら薄目がちにコンテナの中を見ると、コンテナの中には色んな機材が敷き詰められた部屋になっていた。


「な……なんッスか、ここ……?」


「?……スタジオですよ?レコりに来たんすよね?」


「レコ……何?」


「レコーディング!REC(レック)するんでしょ?」


レコーディング……あーーなる!確かに『REC(レック)=録音』しないと、歌っただけじゃどうにもならないな!


俺はやっと理解が追いついてきた。

しかし、なんでこんなトラックで、さらにこんな場所で?

俺の吐惑いを察したのか、パーピーはトラックに乗りながら説明してくれた。


「街中でレコったら騒音問題あるッスよね?だから、人気の無いところでレコーディングできるようにコンテナ改造してるんすよ。あ、でも機材は結構いい感じッスよ?」


説明を聞きながら俺もコンテナに乗り込もうとするが上手く登れずに結局パーピーが手を貸してくれた。


「あ、握手してるついでに自己紹介しときやす。自分『MAD(マッド)』って言います。音響とかやってます」


「チッス……じ、自分チー牛ッス……」


「了解です!ネーさんから初心者だからアドバイスするように言われてるんで……とりあえず一回録ってみましょっか?」


そう言ってパーピー改めてMADはヘッドホンとマイクを俺に渡した。

俺がそれを持ったまま立ち尽くしている間にMADは機材を触っていた。


「あ!ヘッドホンは耳に付けて、マイクに向けて歌ったら録音出来やす!」


ものすごく当たり前の事を言われたが、テンパり過ぎていたのでものすごく的確でいいアイデアに聞こえた。


そうか。ヘッドホンってのは耳に付けるものなのか……LRだから、leftが左で……


無事ヘッドホンを装着したが、これでいいのだろうか。周りの音がほとんど聞こえなくなってしまった。


「これ、全然聞こえないッスけど、大丈夫ッスか??」


「………………」


何か言っていたが、よく聞こえない。それに気づいたのかMADがヘッドホンの片耳を外せというジェスチャーをする。

ヘッドホンを外すと周りの音が聞こえてきた。


「今から音出すんでうるさかったら教えてください。あと、話す時はヘッドホンをズラして片耳だけ出すと聞こえるッス」


そう言ってMADがまたさっきのジェスチャーをしながら親指を立て、俺が頷いたのを確認したら何かのボタンを押した。


するとヘッドホンから吐愚呂妹さんの曲が大音量で流れだした。自宅のパソコンで聞いていたものと比べものにならないくらいすごい。

こんな楽器あったか?ってレベルで1音1音がはっきり聞こえた。


何故MADはこの音源を持ってるんだろう?師匠の根回しなんだろうか?


しばらく曲をじっくり聞いていたがMADが話しかけてきた。


「あのぉ、イントロの後からラップしてもらっていいですか?」


「アッ……ウッス」


そうだった。聞き込んでしまっていた。


ただでさえ人前で歌った事が無いのに、見慣れぬ密室で見知らぬヤバい見た目の男と二人きりで初のラップを披露するなんて、緊張してきた。


深呼吸してリラックスしようとする。

落ち着いてみせてみるが全然リラックス出来ない。


MADはリラックスしたと思ったようで容赦なく曲を再生し始めた。

俺の方を見つめ、1バースの歌い出しの瞬間に手で「ハイッ」と合図してきた。


「ディン……デュ……デュフフ」


思いっきり噛んだ。MADを見るとニッコリと笑っている。ヘッドホンを取るジェスチャーをしたので片方外した。


「噛んでも良いんで曲終わるまで何度か歌い続けてもらえやすか?確か8小節っしたよね?4、5回くらい録り直し出来ますね」


「アッ……ウッス」


MADの一言に少しだけリラックス出来た気がした。自宅でリリックを書きながらラップしていた時を思い出せ……


スゥーー……ハァ…………


「オケッス」


少し気合が入った。

それを見て頷いたMADは曲を再生させた。



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