チー牛、feat.(フィーチャリング)する7
俺は噛みながらもなんとかもそのままラップをし続けた。トラック自体は4小節のループだし、フック(hook)の部分も音が追加されただけのシンプルなものなので、繰り返しラップしてもあまり違和感は無かった。その中で噛まずに8小節通してちゃんとラップに成功したのは2回だった。
「チー牛さん、今のはただ喋っただけって感じなんで、もうちょい声張って、あとラッパーっぽくやってみましょっか?」
「ウィッス……」
そう言われまたMADは再生ボタンを押した。
声を張る……か。普段やらないな。バイト中はフードコートなのでピピーと鳴る呼び出し札があるので大きな声を出す事もない。
が、大きな声を出せば良いだけだ、造作も無い事よ!
………
「ハァ……ハァ……」
先ほどと同様に1曲通して何度かラップしてみたが、息が続かない。息絶え絶えでラップしたが、今度は声を張る事に意識し過ぎて歌詞が飛んでしまう。
「『ラップをする』『声も張る』……『両方』やらなくっちゃあならないってのが『ラップ』のつらいところだな」
「え?何すか?」
「ア……何もないッス……」
「?了解です。一回聞いてみますか?」
そう言ってMADは何かのボタンを押した。
慌ててヘッドホンを付けた。トラックに載せて変な声が聞こえてきた。あれ?なんか声加工したりしてるのか?
一応ちゃんとラップは出来ていたが、息継ぎが上手に出来ていない。何カ所か、こうしたら良いだろうな、と思った。
ヘッドホンを外しMADを見た。
「あ、自分の声聞くの初めてですか?喋ってる時と違うっしょ?そーゆーモンなんすよ」
「こーゆーモンなんッスか?変じゃ無いッスか?」
「いや、問題無いですよ。ブレスとか気をつければ完成じゃないですかねぇ~。あとはこっちで編集しときやすよ」
「なるほどッスね……」
そうやって、何度か録り直して、やっとMADからオッケーをもらった。
最後に聴かせてもらった自分のラップはまぁまぁの出来だった。
声を張るって大切なんだな。コメント付けれる動画サイトで裏声で歌うアーティストに対して「腹から声出せよ」ってコメントしていたが、きっとあの人も既に腹から声出してたんだな、と思った。
また駅まで送ってもらった。時計は21時をまわっていて辺りはとっくに真っ暗になっていてた。
「完成したらネーサンに送りますんで、確認してください」
そう言ってMADは会釈して走り去った。
翌日の夜に師匠からメッセージが届いた。
「―――――――――――――――――――――
「レコったヤツ、完成したんで送っとくぞ」
「ありがとうございます!あの日師匠が何も話してくれなかったんで、いきなりトラックに拉致られて山に連れて行かれた時はマジでビビりましたよ!」
「やっぱりかww」
「知っててやったんですね!」
「もちろんだwwまぁ、タダで録音と編集もしてもらったんだから許せww」
「え?録音って金取られるんですか?」
「当たり前だろ。完成したやつ聞いたらわかるぞ」
―――――――――――――――――――――」
師匠からそう言われてて送られてきた音源ファイルを再生させた。
「ウォォ?かっこよくなってる!?」
違和感のある自分の声だったが、確実にクオリティが高くなっていた。
吐愚呂妹さんや村井・ムーンライトさんのよりも断然良い。録音環境でこれほど良くなるってのか……
ウキウキで吐愚呂妹さんに音源を送った。
これを聞いた後ならほうじTさんも方向性を理解出来るだろう。
再度自分で自分のラップを確認した。
韻が無いと酩酊アブノーマルピープル
みんなまとめて110番にコール
濃い茶、名高いどこぞの味よりか
こー言っちゃーなんだが動向その足取りが
気になってる、ぶっちゃけこれ恋いちゃう?
お前らにフォーリンラブ、統一感
こいつらの濃い面に孤立化しないよう
しっかり練るシナリオ、歌詞・内容
「韻が無いと酩酊アブノーマルピープル」
「みんなまとめて110番にコール」
「濃い茶、名高いどこぞの味よりか」
「こー言っちゃーなんだが動向その足取りが」
ここの4小節は2小節毎の全踏みだ。1小節まるまる全く同じ韻であわせてある。
「濃い茶」「こー言っちゃー」「恋いちゃう?」
「フォーリンラブ」「統一感」
「こいつら」「濃い面」「孤立化」
ここは押韻と脚韻盛り沢山だ。
さらに
「濃い茶」「こー言っちゃー」「恋いちゃう?」
「こいつら」「濃い面」
で子音踏みまで詰め込んだ。
「しないよう」[シナリオ]、歌[詞・内容]
ここも脚韻と押韻がある。
頭のおかしいメンツにどん引きしつつも気づいたら横目でチラチラ見ちゃう乙女心のような俺も、負けじと韻やリリックで切磋琢磨するぜ!
という内容にしてみた。
我ながら良く書けたと思う。
あとはほうじTさんのリリックを待つのみだ……




