チー牛、feat.(フィーチャリング)する2
簡単な音楽の勉強です。
俺はDuxiを開いて師匠のプロフィールのページを開いて確認した。
「それ、ワタシのプロフじゃん!てことはアンタがチー牛?」
後ろから聞き慣れない声で聞き慣れた名前を呼ばれた。
いきなり話しかけられたので俺は慌てて後ろを振り向いた。
後ろにはいかにも海外住んでました~みたいな髪型の女で色っぽいメイクをした女がいた。
「ワッ……シャッス……」
「チー牛でしょ?違った?」
俺は全く知らない女の子に話しかけられて困惑している。バイト先ですら女の子と話すのは注文を受ける時くらいだ。正確にいうと、俺個人に話しかけるというより厨房に向けて発した声を聞いた俺が注文を作り出した、というレベルの距離感だ。
こんなダイレクトに女の子から話しかけられた事なんてリアルでは初めてだ。
たまにアプリゲームでボイスオンにしておくと攻略対象の女の子が俺に話しかけてくることはあったが、こ……これがリアルというものか……
俺が現実を受け入れきれずに処理落ちしているとまたこの女の子が話しかけてきた。
「え?チー牛じゃなかった?あれ?ちょっと待ってね!」
そう言ってその子はバッグから慌ててスマホを取り出す。
片方だけ肩を出した洋服で、なんかひらひらして可愛い。ピッチピチのパンツを履いていてた。
こんなにまじまじと女の子を眺める機会はないが、とりあえず今は師匠がどこから来るかわからないのでそれを警戒しないといけなかった。
「アッ……ヤッ……ソノ……自分用事アルッス……」
俺の言葉は聞こえなかったのか、その子はスマホを触っていた。
俺のスマホがブルブルと震えた。画面を見るとDuxiからだった。
「ほら、やっぱりアンタがチー牛じゃん!」
女の子がそんな事を言っている。確かに俺はチー牛だがあなたは誰ですか?
「ワタシ、アイジェンだけど!」
「え?」
「アイジェン!!アンタはチー牛なんでしょ?」
俺はコクコクと頷いた。
「え……でもヤ○ザ……」
「はww?何それww?」
何かおかしい。何故師匠がヤ○ザじゃないんだ?
さてはヤ○ザのスケが代理で来たのか?意味がわからん。
「あ、Duxiじゃ女って事は隠してんだー。チー牛、お前言ったら殺すぞ?」
「あ、師匠だ」
この圧のかけ方は間違いなく師匠だった。師匠の「殺すぞ」の一言のおかげで俺は自宅に帰ってきたような安心感と親近感を覚えた。
「ワタシもプロフ詐欺ってるけどチー牛も相当だねーwwそりゃMC丼もわからないわww」
ケタケタと笑いながら師匠は歩き出した。
「そこの駅前のカラオケでいいよね?」
「アッ……エッ……ウッス!!」
「了解~」
俺は師匠の少し後ろをついて行く事にした。
カラオケ屋に入ってからも受け付けは師匠がやった。
店員にマイクが入ったカゴを渡された師匠はそれをそのまま俺に渡してきた。
「はい」
「ウッス」
この前動画で確認したはずたったが全く覚えていなかった。師匠に連れられて薄暗い個室に入る。
「な、なんか……エッチッスね……フヒヒ」
「ん?なんか言った?ごめん、聞こえなかった!」
「なんでもないッス」
俺のジョークはスルーされたが、おそらくスルーされて良かったんだと思う。
俺は入口入って左の席に座った。目の前の壁面に巨大なモニターがある。右手側に師匠が座った。
師匠は店内に備え付けのタブレットを触っていた。俺は知っている。あれは選曲マッシーンだ。
師匠が選曲を終えたようで店内に曲が流れ出した。
ん?これは……
店内に流れ出したのは俺が幼稚園かその前にバカみたいに何度も歌っていた童謡だった。
「咲いた~♪咲いた~♪ラフレシアーの花が~♪」
俺は呆気にとられていた。これを聞いてどうするんだ?歌うのか?俺が?師匠が?
カラオケってこういう感じなのか?
俺が「えっ?えっ?」と困惑していると師匠がマイクを掴んで喋り出した。
「いい?チー牛。レッスン開始よ。手拍子しなさい」
師匠は別に歌うわけではないのに、俺に手拍子をしろと言ってきた。
これ、何プレイですか?
誰かが歌うのを盛り上げるわけでも無いのに俺は手拍子を強要させられ、店内にはカラオケの音と俺の手拍子が聞こえる。
さすがは童謡だけあってすぐ曲は終わった。
師匠はマイクのまま喋りだした。エコーがかかっている。
「今アンタが曲に合わせて手拍子したでしょ?」
タン タン タン ウン
咲~い~た~♪
イチ ニー サン シー
咲~い~た~♪
イチ ニー サン シー
ラフレシアーの
イチ ニー サン ウン
は~な~が~♪
師匠がアカペラで歌いながら手拍子している。
「今ワタシが4回に1回ウンって言ったよね?」
「ウッス」
「それが四拍子!1小節の中に手拍子4回分が入っている事。それが四拍子!」
「1小節ってのは、ネトラで言うところの1行……」
「そそ。この曲は『咲いた~』で1小節ね」
ふむふむ。わかる……ような気がしてきた。
師匠が他の曲を選んでいるようでタブレットを見ている。
下に向けているが目線、とは逆に長くてきれいに整えられたまつげは上を向いている。
髪を耳にかけ、耳より大きいピアスが時々揺れてなんだかドキドキしてくる。
なんで俺はこんな可愛い子と密室にいるんだろうか?現実逃避していると聞き慣れた曲が聞こえてきた。
有名な手拍子とドラムの音。
ドゥン ドゥン タッ !
ドゥン ドゥン タッ !
数年前に映画化された超有名ロックバンドの曲だ。確かタイトルは「We will f○ck you」だったはずだ。映画は観て無いがさすがにこの曲は知っている。
あの曲の最初の部分だな。
「ほら!さっさと手拍子して!」
師匠に言われて慌てて手拍子する。
ドゥン ドゥン タッ !
「タッの後に音が無いところでも手拍子するでしょ?そこが四拍目ね?さっきも言ったけどこの四拍を1括りにしたのが1小節ね。この1小節を8回で8小節になるわ」
「師匠が前に話してくれたやつッスね。8小節か16小節で一括りッスね」
頭の中で手拍子を繰り返しながら「さっきの童謡と同じくらいのスピードの手拍子だな」と考えていた。




