表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
95/311

1-95 戴冠式 3

 ウィルファン王子がフィスリニア国王となって凱旋!


 この報せは、あっという間に飛行場内に広まる。そして、ある者は走り、ある者は通信機を使い、この報せを首都『ペリトーラ』へ、それから近隣の諸都市へと広め始めた。今日中にはモルーグ王国全土に広まるのは確実な勢いである。

 飛行場ではウィルファン王子の姿を一目見ようと、全ての者が仕事の手を休めウィルファン王子の晴れ姿を見ようと集まっていた。


 ウィルファン王子はフォルデベルグ王国時代からフィスリニア王国に伝わる伝統的な王族の正装に身を包んで集まった者達に手を振る。この装いはウィルファン王子がもうフィスリニア王族の一員であることをモルーグ王国の者達に視覚的に主張する狙いがあったのである。


 ウィルファン王子は到着後、直ぐに首都『ペリトーラ』へは向かわずに『ガルーダ』の格納庫へと足を向ける。『ガルーダ』はウィルファン王子がずっと見守り続けてきたマシーナであり、先日自分を救ってくれた事もあって大層思い入れがある。その『ガルーダ』が先の戦いでダメージを負ったと聞き心配になったののだ。


 『ガルーダ』の格納庫に向かうと、そこにいたのは先日『ガルーダ』を操縦した『ライオット=ザリオン』であった。ライオットはウィルファン王子の姿を認めると深々と頭を下げたままの姿勢をとる。

「ライオット、久し振りだな。『ガルーダ』の被害のほどはどうだ?」

 ウィルファン王子の昔と変わらぬ親しげな態度に、ライオットは戸惑いを禁じ得ない。『ガルーダ』が傷ついたのは、フィスリニア王国に弓引いた為であり、それをやったのは自分なのだ。ウィルファン王子がモルーグ王国とフィスリニア王国どちらの立場であっても、叱責を受けるのは間違いないと考えていたからである。


「ウィルファン様、申し訳ありませんでした。全ては私の・・・」

 謝罪を始めたライオットをウィルファン王子が言葉で制する。

「ライオット。お前が謝らねばならない理由はどこにもないぞ。あの戦いだって、アホな上役の命令に従っただけじゃないか」

 ウィルファン王子はそう言うとライオットの肩をにこやかにポンポンと叩く。ライオットはそんな変わらぬウィルファン王子の仕草に心が救われる想いであった。



「はい!頭の右側と右肩の上部の表面が焼けただれ、その部分の『コンパウンド・アイ』が潰れている位です。ですので、作戦行動に支障を来す程ではありません」

「そうか。それを聞いて安心した。しかし万全を期した方がいい。叔父上に、フィスリニアに修理に出すよう提言しよう」

 ライオットの状況報告にウィルファン王子はホッとする。そして、ライオットの顔をジッと見つめて再び口を開く。

「ところで、お前が『ガルーダ』のメインパイロットに決まったのか?」

「いえ、まだですが、あのような無様な墜とされ方をしましたから・・・」

 ライオットは肩を落とし呟くように答えると、ウィルファン王子は驚いたようにその言葉を否定する。

「何を言うんだ?ギルバートが『あれで墜落しなかったのは流石だ。アイツになら任せられる』と絶賛していたぞ。よろしい。前メインパイロットのギルバートの推挙もあると叔父上に進言してあげよう」

 思わぬ後押しに、驚きながらも頭を下げ礼を述べるライオットの両手を取り、ウィルファン王子はその願いを口にする。

「そして、お前がこの国の旗印となって、叔父上とこの国を護るのだ。いいな?」

 ライオットは大きく頷き、新生モルーグ王国への忠誠を誓うのであった。


「さて、そろそろペリトーラに向かうとしようか」

 ウィルファン王子がアルベルトに告げると、

「はい。でも、もう少し早く動いた方がよかったかもしれませんね」

 と、アルベルトが基地に集まってきた多くの群衆を見て苦笑いするのであった。




「ウィルファンが国王だと?!それは誠なのか?!」

「はい間違いなく。正式にそう通達がなされております」

 驚くアレキサンドル公にドナルドがにこやかに答える。

 アレキサンドル公は、息子のシーザーの頭の上に置いた手を無意識に髪の毛もろとも握りしめ、シーザーに怒られる始末である。それでもアレキサンドル公の表情は先刻までとは打って変わって明るくなり、笑顔がこぼれ出すのを止められないと言った様子だ。

「ウィルファンがフィスリニア王となって余の戴冠式に!そうか!そういう事か!この策を考えたのはアルベルト殿か?!ミーア=リーア殿か?!どちらにしても全くもって恐れ入る!!」

 がははは!と高笑いするアレキサンドル公であるが、まさかフィリア姫の策であるとは思いも寄らないようである。


「父上。ウィルファン様が王になられたのが本当に嬉しそうですね」

 父の機嫌の良い様子にシーザーも嬉しそうだ。何かと父親想いのいい息子なのである。

「ああ。だがそれだけではないぞ。フィスリニアは我々と距離を置くどころか救いの手を差し伸べてくれたのだ!それが嬉しいのだ!」

「よいか、シーザー。フィスリニア王国とのトラブルおよび国内のウィルファンを推す人々との軋轢は、私の王としての資質を問われる問題だ。しかしこれは我が国と交流のある国々にとってチャンスであり、私を王として認める代わりに我が国に不利な要求を戴冠式後の交渉で押し付けてくるに違いないのだ」


 シーザーは難しい顔をしながら小さく頷く。話はよく解らないが誰かが父をいじめようとしている、程度には理解出来た。

「私はこの交渉をいかに国民の不利益とならぬように運ぶか苦慮せねばならなかったが、このウィルファンの来訪で状況は大きく変わった。交渉に来る連中は交渉手順を大きく変えねばならなくなっただろうな」

 シーザーは父の話で一つだけ理解出来た事を口にする。

「ではウィルファン様は父上を助ける為に帰っていらっしゃるのですね」

「その通りだ!シーザーは賢いな!」

 満面の笑顔でシーザーの頭をくしゃくしゃに撫でる父を、シーザーも満面の笑顔で見つめるのであった。




 アレキサンドル公は迎賓館の正面玄関へと移動していた。

 これはウィルファン王子を自ら出迎える為であった。そしてフィスリニア王国一行の宿泊場所を迎賓館からウィルファン王子が住んでいた王宮へと変更してはどうかと提言するためでもあった。ウィルファン王子の部屋はいつ戻ってもいいようにとそのままにしてあるのである。

 ただ、王宮は大事な家族が殺された場所でもある。無神経な申し出かも知れないとアレキサンドル公はまだ悩んでいた。


 アレキサンドル公はウィルファン王子の到着を待つ間、ただただ驚いていた。

 迎賓館の正門から向こうに溢れる人また人。送迎車が通る道を何とか確保しようとする兵隊達の声も群衆の喧騒にかき消される。

 これがウィルファンの持つ力なのだ、下手をすれば国家を二分する争いになっていた、とアレキサンドル公は実感し冷や汗を流した。


 しばらくすると、遠くの方から段々と歓声が近づいてくるのが判った。その歓声はウィルファン王子を乗せた送迎車の接近を意味している事は言われなくても判る事だった。


 送迎車は正門をくぐり正面玄関前で止まる。

 迎賓館を護る柵の外は群衆で溢れ返り嵐のような歓声をあげ、ウィルファン王子の登場を待ち構えていた。


 送迎車の扉が開き、一人の青年が外に出る。恐らく彼がフィスリニア王国の主席執政官『アルベルト=イーゼルバーグ』と思われた。そしてその彼が安全を確認するかのように辺りを見回し、車中の人物に声をかけると、もう一人の青年が姿を現し歓声は更に盛り上がる。ウィルファン王子の登場である。


 ウィルファン王子はアレキサンドル公の出迎えに気づくと驚きの行動にでる。

 ウィルファン王子は満面に笑みを浮かべ「叔父上!!」と叫び子供のように駆け出す。そしてアレキサンドル公にガシッと抱きつくと

「お久しぶりです、叔父上。お元気そうで何よりです」

と声をかける。

 その姿に群衆の歓声は最高潮となった。彼らは思い出したのだ。それは、ウィルファン王子がまだ幼い頃よく見かけた光景だった事を。そして「この二人が親子であればどんなに良かったか」といつも思っていた事を。彼らは思い出したのだ。


 アレキサンドル公は自然とウィルファン王子を抱きしめ、笑顔に涙を浮かべながら語りかける。

「ウィルファン。本当に済まなかった。お前が無事で本当に良かった。」

「叔父上、気にしないで下さい。叔父上のせいではありませんよ」

 二人はその後、傷の具合などについて語り合う。そして、

「戴冠式に来てくれて、本当に嬉しいぞ」

 とアレキサンドル公が感謝すると、ウィルファン王子は笑顔でこう答えるのであった。


「叔父上の晴れ舞台を見逃す訳がありません。そして・・・私はモルーグ王族として最後の仕事をしに来ました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ