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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
91/311

1-91 モルーグの嵐 10

 『ガルーダ』のエンジンに火が入れられ、その巨大な身体をトレーラーから起こす。

 コックピットには『ガルーダ』の予備パイロットであった『ライオット=ザリオン』が座っていた。

 ライオットはウキウキしていた。

 ギルバートがいた間はずっと予備パイロットの座に甘んじていた。そして、ギルバートがいなくなった今、自分が正規パイロットに昇格するチャンスが巡ってきたのだ。

「このチャンスは絶対にモノにしてやる。ギルバートさんがいなくなった今、コイツを一番上手く使えるのは俺なんだ。この作戦を成功させて正規パイロットの座をモノにしてやる」

 ライオットの表情は覚悟で引き締まり、操縦桿を持つ手にも力が込められていった。




「何をしている!これ以上フィスリニア王国に弓引く事は許さん!『ガルーダ』を止めんか!」

 憤るアレキサンドル公を無視し、デロンは『ガルーダ』の出撃を促した後、アレキサンドル公の方に向き直りニタニタ笑いながら、あるじのご機嫌を取り始める。

「陛下はご心配のし過ぎで御座います。もっと我々をお信じになり、大きく構えていらっしゃればよろしいのです。『ガルーダ』ならば確実に小娘らを始末出来ます。ご安心下さい」

「フィスリニアの先程の新兵器の威力を見たであろう!『ガルーダ』と言えども撃ち落とされる危険がある!」

 アレキサンドル公はデロンに文句を言いながら(私が言いたいのはそんな事ではないのだ!そんな事では!)と心の中で叫びながら、上手く口に出来ないもどかしさを味わっていた。

「陛下が『ガルーダ』の力をお信じにならずにどうするのです。我が国の旗機である『ガルーダ』ならばあのような兵器などきっと耐えて見せるに違いありません」

アレキサンドル公とデロンの不毛な押し問答が続く中、『ガルーダ』は空へと舞い上がり、前進を始めるのであった。




「姫。期待通りに動いてくれましたよ~!」

 危機が迫っているのに呑気なミリーである。

「ああぁ!父上の『ガルーダ』なのにぃ!」

「父さまのなのにぃ・・・」

 ギルバートの息子グラハムが膨れっ面で悔しそうに文句を言い、娘のナンシーが泣きべそをかく。

 母親のフローリアは寂しそうに子ども達を諭す。

「お前達、よくお聞きなさい。『ガルーダ』はお国のもので、お父上のものではありません。お父上が国をお出になったですから、お父上はマシーナ騎士ではなくなったのです」

「そうね。あなた達のお父上は『ガルーダ』の騎士ではなくなったわね」

 フローリアの話の言葉を継いだフィリア姫をグラハムがキッと睨む。

 その様子に(か、かわいい!)と感動しながらフィリア姫はさらに言葉を継ぎ足す。

「でも、あなた達のお父上は、その地位も名誉もかなぐり捨てて、ウィルファン様をお救いするという素晴らしい事をなさったの。だから、私達はその報奨として、あなた達のお父上に」


 その時、フィスリニア王国側の上空から『ガルーダ』に向かって一筋の閃光が走る。そのビームは『エミュール』のそれよりも遙かに力強く輝いていた。

「やっぱ、本物は違いますね~」

 ミリーが感心したように言葉を洩らす。

 親子が驚き光が生まれた方を見ると、信じられないものがそこにいた。背中に翼を生やした『ガルーダ』によく似たマシーナが銃を構えて空に浮いていたのである。

 フィリア姫はそのマシーナを見ながら言葉を続ける。

「あなた達のお父上にあれを差し上げました。開発コード『アドバンスド ガルーダ』、正式名『カルラ』。『(あま)街船(まちふね)』から発掘したばかりの新品の『オリジナル』です。正真正銘、あなた達のお父上のマシーナですよ」


 子供達の目が輝く。

「じゃあ、今、あれに父上が乗っているの?」

「父さまがいるの?」

 グラハム達の質問にフィリア姫がにこやかにしっかりと頷く。

「ギルバートさん。荷電粒子砲の飛程データも忘れずに取っておいて下さいよ」

「心配するな。ちゃんと取ってるよ」

 ミリーがギルバートと無線通信を始めると、スピーカーから流れ出る愛しい人の声に、フローリアは口を手で押さえ涙ぐむ。それを見たミリーは、微笑みながら無言でマイクをフローリアに手渡した。


「あ・・・あなた・・・」

 フローリアの涙声に一瞬の沈黙の後、スピーカーから割れんばかりの大声が流れ出す。

「フローリアか?!大丈夫か?!怪我はないか?!」

「大丈夫ですよ、私も子供達も。それより本当にご無事でほっといたしました」

「父上!」「父さま!」

「お前達も無事か!フィスリニアはいい国だぞ!きっと気に入る!俺はもう一仕事あるからまた後でな!」

 ギルバートの言葉を聞いたミリーがチャチャを入れた。

「ギルバートさん、無理しないように。適当にあしらって早く帰って来てくださいね」




「しかし、何だか、まだ夢のようだな」

 ギルバートは誰の手垢も付いていない新品のコックピットの中を見回しながら独り言を口にし無意識に口元が緩む。


 数日前、ウィルファン王子を連れてフィスリニア王国へ亡命を果たした時、自分とフランクはモルーグ王国へ送り返され処罰される、という可能性も考えていた。国家間の取引となれば十分にあり得る事だ。

 しかし、フィスリニア王国の人々は自分達も助けさらに家族まで救うと言ってくれたのだ。そしてウィルファン王子の為に働いて欲しいという。最高の申し出だ。例えマシーナ騎士でなくなったとしても・・・

 『ガルーダ』を返却するという方針は変わらないだろう。とすればこの国に自分が乗るマシーナはない。出来ても『ディフューザ』か、良くて『レプリカ』止まりの筈だ。

 そんな事を考えていた時に「見てもらいたい物がある」と言うアルベルト殿に連れていかれたのは、工房だった。そして、その格納庫で見たものは・・・


「ガ!ガルーダ?!・・・いや!」

 そこにあったのは『ガルーダ』によく似た機体だった。しかし身長は『ガルーダ』よりも頭一つ分大きく、翼は広げれば『ガルーダ』の1.5倍はあると思われた。そして何よりも『ガルーダ』より美しく力強そうだった。

「ギルさん。コレって一体・・・」

 フランクも目の前の機体の正体に思い当たる節はなく、茫然と目の前のマシーナを見つめている。そんな我々にアルベルト殿がにこやかに説明を始めたのだ。

「今から1ヶ月ちょい前、『(あま)街船(まちふね)』の深部からピンポイントで発掘した物です。『ガルーダ』の作者の工房の場所をマイケル老が覚えていたのです。新しいマシーナの開発を行っていた事もね」


「開発コードは『アドバンスド ガルーダ』。『ガルーダ』の後継機の制作でした。そしてこの『カルラ』がその完成形だったのです」

 そのマシーナの横には見たこともない形の銃などの兵装もあった。

「それらは『カルラ』用に用意された装備です。これまでに見たことがないような仕組みの物ばかりですよ。それらの実証実験も兼ねてたようですね。マイケル老がこれらを見て『先を越された』って悔しがっていました」

 アルベルト殿は、やや、言葉をおいた後、まだ『カルラ』を見つめ続ける自分にこう言ったのだ。


「よくウィルファン様をフィスリニアまで連れ来て下さいました、ギルバートさん。このマシーナとこれらの兵装全て、我が国からのギルバートさんへの報奨です。お受け取りください。『ガルーダ』の後継機とあって、操縦系は基本『ガルーダ』と変わらないようですので、すぐ動かせるでしょう。ですので、早速お仕事をお願い出来ますか?」


 そして、俺は今ここにいる。

「まったく、俺の人生も捨てたもんじゃないな。ウィルをあんな目にあわせた連中を今すぐ全員叩き潰してやりたい所だが、ミリーから釘を刺された事だし、まだまだ機体のデータも不足しているし、適当にあしらって帰るとするか!」


 ギルバートはそう言うとフラフラと墜ちていく『ガルーダ』との距離をゆっくりと縮めるのであった。


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