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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
74/311

1-74 リンドの悪魔 22

 奇襲部隊と『ヴァルキュリア騎士団』の戦闘は続く。


 奇襲部隊は包囲網に戦力を削られつつも、目的地であるフォリターナ宮殿南側広場に向かって進軍を続けていた。

 奇襲部隊隊長は(この逆境の中だ。上手くいっていると言っていいだろう)と部隊を誉めつつほくそ笑むが、『ヴァルキュリア騎士団』隊長のシオンが(上手く誘導出来ているな)とほくそ笑んでいるとは知りようがなかったのである。




14時15分。


「我が愛する三国の国民諸君!」

フォルデベルグ王国国王、ランベルト=メル=フォルニムールの演説が朗々とよく響き渡る声で始まった。

 しかし、戦闘の音がこの広場にも届き始めており、広場に集まった民衆の一部が不安げにざわめき始めていた。

 ランベルト王はその様子を見て、予定通り先手を打つ演説を始める。


「諸君!あれに聞こえる騒音に何事かと思う者も多かろう!あれは、招待もせぬのに勝手に入り込んだ愚か者を諫める音である!かのローデモングが如何に愚かであるか、そして我ら3国の結束の前には、如何なる攻撃も児戯に等しいものであるかを世に知らしめる音なのである!諸君等は幸運にもその目撃者となるのだ!」


 ランベルト王の演説は段々と力を増し、皆を魅了していくのであった。




「隊長!『ラーミザン基地』方向より航空機が接近して来ます!援軍が到着しました!もう大丈夫です!」

 森のさらに南側を低空飛行していた『キャリアローター』のパイロットが、レーダーを見ながら喜びの声を上げる。


 奇襲部隊の隊長は「ちょうど来たか」と苛立ちの声を漏らす。

 思わぬ伏兵の出現で、奇襲部隊は目的地への到着が遅れている。もし、『ラーミザン基地』からの爆撃機が先に到着し、一仕事終えてしまっていたら、我々は、部隊に損害を出したばかりか何の役にも立たなかったと誹りを受けていただろう。

 『キャリアローター』のパイロットは援軍だと喜んでいるが、一人前の兵士としての誇りと自覚があるならば、恥ずかしくて喜んでなどいられない筈だ。

 作戦が終わったら、一度締め直さないといかんな。


 そんな事を考えながら隊長は『キャリアローター』のパイロットに質問する。

「ところで、広場の様子はどうだ?どの位の人間が集まっている?」

 しかし、返ってきたのは、隊長の苛立ちが募るような一言だった。

「いえ、確認しておりません。皆さんを降ろした後、指示通り狙撃されないよう低空飛行で森のさらに南側に退避していましたから」


 さらにパイロットの言い訳が続く。

「あの、我々は皆さんを再び空母にお連れするのが第一の任務ですので、危険が及ぶ行為は・・・」

「もういい」

 奇襲部隊隊長は(まったく・・・)と溜息を漏らす。この部隊の隊員は、指示した事は迅速かつ的確に遂行する。しかし、自分で判断して動くという事がまるで出来ないのだ。


(その点はあの2人は優秀だったな・・・やり過ぎでもあったが)

 と、最初にやられた2人のことを思い出し、そのあたりの匙加減は難しいな、と考えた所で頭を振る。そんな事より今は功績をあげる事が先決なのだ。

「全機!広場に出るぞ!広場に出たら、集まっている民衆を蹴散らしつつ王宮に接近しバルコニーで演説中の馬鹿王族どもに全弾ぶち込んでやれ!広場に入れば敵マシーナは民衆が邪魔で身動きが取りにくいはずだ!」


(よし!爆撃の前に功績をあげられるぞ!)

 奇襲部隊隊長は森を飛び出し広場に駆け込んだ。そして広場の中程で足を止める。後続の生き残った部下達も隊長機の周りで足を止めた。


「ば、馬鹿な・・・これは一体・・・」

 奇襲部隊隊長は愕然とした。民衆などどこにもいなかった。王宮のバルコニーにも誰もいない。

 その代わり、正面には『レッドゴート』が仁王立ちで待ち構え、その左右には『フォルン騎士団』の『レッサーゴート』が包囲するように展開していた。

 そして背後の森との境界では『ヴァルキュリア騎士団』が境界に沿って展開し銃を構え、その前を『シャドウクレス』がゆっくりと近づいて来ていたのてある。




「諸君!今、この宮殿の南側広場では、ローデモングの愚か者に対し制裁を加えている所である。後で見てみるがよい!愚か者のなれの果てを!」

 宮殿の『北側』のバルコニーから言葉を発するランベルト王に、『北側』の広場に集まった民衆は歓声で応えるのであった。




 奇襲部隊隊長は、自分の仲間を見回す。

 奇襲部隊は自分も含めて8機に減っていた。

 対して、相手は合わせて25機。しかも『プロトタイプ』と『レプリカ』である。数でも質でも、奇襲部隊が勝てる要素などなく、こうまで綺麗に包囲されては逃げる事も叶わないだろう。

 しかし、隊長はまだ一発逆転の好機を伺っていた。それは・・・


「来た!!」

 飛行機のエンジン音が響いてくる。

 爆撃機による援護があれば、爆撃の混乱に乗じて脱出が可能だ。これがプライドをかなぐり捨てた奇襲部隊隊長の出した結論だった。

 しかし、その希望はすぐに絶望によって上塗りされる事になる。


「爆撃機じゃない、戦闘機だと?・・・なぜ?」

 南側広場の上空を通過し森の上空へと消えていく戦闘機を見上げながら隊長は茫然とした様子で呟く。その直後だった。


「敵!敵襲です!隊長!」「どうすればいいですか?!隊長!」「隊長!助けてください!隊長!」

 無線機からは『キャリアローター』のパイロットの悲鳴が洪水のように溢れ出し、そして何も聞こえなくなった。




「いいか、お前たち。『ヴァルキュリア騎士団』の戦乙女たちがここまで敵を減らしてくれたんだ。残りは全て俺たちで片付けないと『フォルン騎士団』の名が泣くぞ!判ったらかかれ!」

「おおーーっ!」

 『フォルン騎士団』隊長、ポール=ディースの号令に雄叫びを上げて、『フォルン騎士団』が一斉に奇襲部隊に襲いかかる。目の前で『ヴァルキュリア騎士団』の勇戦振りを見せつけられた『フォルン騎士団』の士気は高い。




「隊長!」「どうすればいいですか?!隊長!」

 応戦しながら叫ぶ部下に対し、奇襲部隊隊長は、答える事も出来ずに考え込んでいた。

 何故こんな事になった?俺の判断間違っていたのか?いや、間違ってていたと言うより俺の考えを全て読まれていたという感触だ。どうすれば良かったのだ?

 奇襲部隊隊長はどんなに考えても正解を見つける事は出来なかった。


 こうなると、最初にあの2人がやられたのが痛かった。あの2人が暴走していればもっと違う結果になっていたかもしれないのに。最初にやられたのがあの2人だったとは何という皮肉な偶然・・・

 奇襲部隊隊長はここまで考えて、突然悪寒を感じる。

 偶然?本当に偶然だったのか?あの2人だから最初にやられたのではないのか?不確定要素を減らすために!まさか!そんな事ができる訳が!


奇襲部隊隊長が、この世で考える事が出来たのは、ここまでだった。




14時30分。


「攻撃機部隊及び爆撃機部隊を発進させろ。目標はソーン渓谷中腹を侵攻中の戦車部隊及び輸送部隊。対空装備がある奴を攻撃機で優先的に排除。その後、爆撃機で全てを焼き払え。あそこは溶岩質で木や草は殆ど生えていないから遠慮はいらん。皆殺しにしろ」


 ミリーの指示をカイトが関連部署に伝達する。

 カイトの左腕にしがみついていたレミィが『皆殺し』という言葉に反応し「・・・皆殺し・・・皆殺し・・・」と小さく呟きながらカイトの腕を爪が食い込む程に握り締める。カイトはそんなレミィの手を優しく包み込むように自分の手を重ねた。


「やるべき事はやった。後は全作戦の結果報告を待つだけだな。私はまた会議室にいる何かあったら来てくれ」

 ミリーはカイトにそう言うとまた会議室に籠もってしまった。


 カイトはレミィをなだめながら考える。

 皆がまだ生きている事を教えてあげたら彼女の心はどんなに軽くなるだろう。しかし言えない訳がある。ミリーさん口止めされているからだけではない。彼等は反逆者なのだ。例え今ミリーさんが手を下さなくても、処刑されるしかないのだ。だとしたら、今、ぬか喜びさせてもまたどん底に突き落とされる事になるのだ。こんな思いを何度もさせたくはない。

 それがカイトの判断だった。




 宿舎に戻ったケニー=ザリアードとヒース=ワーミールは、大急ぎでローデモング帝国を出立する準備をしていた。とは言っても、元々短期の雇用のため荷物は殆どなく、あっという間に支度は終わってしまう。

 ヒースはベッドに寝転がりながら溜息を吐いて思わずぼやいてしまう。

「今日から職無しかぁ・・・どうしよう・・・」


 すると、デバイスをチェックしていたケニーがニンマリと笑う。

「世の中そう捨てたものでもないぞ。解雇されたその日に、俺とお前にお誘いが掛かっている」

「ほ、本当ですか?!どこからですか?!」

 思わぬ朗報にヒースはガバッと身体を起こし元気よく尋ねた。

 ケニーは(全く現金な奴だ)と思いつつ、意味ありげな笑みを浮かべてこう言った。


「聞いて驚け。依頼主はフィスリニア王国、ミーア=リーア=シュタインロードだ」

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