1-73 リンドの悪魔 21
「何か、変だ」
王都フォリストフォルンの南街上空を通過中の奇襲部隊の隊長は違和感に襲われその源を探す。そして街の様子を観察するうちに違和感の正体に行き当たる。
「街に人がいない?!どういう事だ?!」
そう、祭りで賑わっている筈の街路に殆ど人がいないのである。
これは奇襲部隊の予測進路上から人々を遠ざける為に祭りのイベントを全て北側に集中させ、人々を半ば強制的に北側に誘導した結果だった。
奇襲部隊の隊長の目に映るのは、残っている人間がいないか見回る兵士の姿だけである。
奇襲部隊隊長は、言いようのない不安に駆られ、その理由を考えていた。その矢先だった。
「8番機の『ガーリー』が攻撃されました!コックピットの位置に穴が!」
9番機の『キャリアローター』の副操縦士から悲鳴に近い報告が入る。目の前を飛んでいた『ガーリー』の背中に突然火花が上がったかと思うと、背中から胸に向かってポッカリと穴が開いたのである。破片は胸の方から多く散らばったため後方からの攻撃と考えられた。
「攻撃だと!敵の位置は判るか!」
「弾痕から、おそらく右後方、4時方向だと思われます!」
続いて12番機の『キャリアローター』の副操縦士からも悲痛な叫びが上がる。
「11番機の『ガーリー』もコックピットを狙撃されました!パイロットは絶望と思われます!やはり右後方!同じ敵だと思われます!」
まさに『狙撃』という言葉がピッタリの攻撃であった。
「全機回避運動を取りつつ敵を探せ!」
隊長の指示で『キャリアローター』はジグザグに飛び狙撃を回避しようとするが『ガーリー』をぶら下げているため思うように機体を動かす事が出来ない。
そしてさらに最後尾の1機が犠牲になる。
「まだ見つからんのか!」
「駄目です!まるで判りません!」
「貴様等の目は節穴か!絶対にいる筈だ!」
見えない狙撃者に隊長は焦った。隊員を叱り飛ばしているものの自分自身も探せずにいるのだ。これだけの人間が捜しているのに何故見つからない!
だが、見つからないのは当然だった。彼等は見当違いの所を探していたのだ。方向は良かった。問題は距離にあった。彼等はせいぜい2kmまでの範囲しか探していなかった。
しかし、その時、狙撃手である『シューティングスター』は、王都フォリストフォルンの北東にある岬の崖の上にいたのだ。そして街を跨いだ20kmの距離を狙撃していたのである。『シューティングスター』の名は狙撃王の意味も含んでいたのだ。
『シューティングスター』の狙撃スタイルは独特である。
ライフルは右の腰の位置に構えている。照準は、ライフルの銃口に付けられたカメラ、銃の持ち手付近から右上に長く伸びた棒の先に付けられたカメラ、そして『シューティングスター』の右目のカメラ、この3つの望遠カメラにより狙撃対象の位置と動きを立体的に捉えるのである。
また、『シューティングスター』の、普段は上がっている顔の面が下ろされ、右目のカメラは面に開けられた覗き穴から覗く形になっている。この面はハレーション防止のためのようだ。
スナイパーライフルも独特の形をしていた。
『シューティングスター』の身長の2倍はある銃身は、レールガンの加速装置であり、普通の火薬式銃の数十倍の初速を作り出す事が出来た。
また、銃身には無数のスリットが開けられていた。これは、銃身内の空気を移動しやすくする事で発射時の空気抵抗を減らそうという工夫である。
リークは目の前の紙に書かれた敵編隊の構成図の最後尾部分に印を付ける。真ん中辺りの、1番目、2番目と書かれた部分には既に印が付いていた。先頭には「撃っちゃダメ!」と書かれている。
何故この番号の敵を最初に墜とさなければならないのか、なぜ先頭の敵を墜としてはいけないのか、リークは聞いていないし聞くつもりもなかった。ミリーさんがそう言うのなら従うだけ、と割り切っているのである。
「次はどれにしようかな・・・」
後は好きに墜としていいと言われている。
リークは、射的の景品を決める感覚で、次の標的を選び始めるのだった。
狙撃者を見つけられないまま、さらにもう1機が撃墜される。
「隊長!市街地に逃げ込みましょう!」
隊員の声に奇襲部隊の隊長が考え込む。
(確かにこのままでは格好の的だ。しかし・・・)
と、殆ど人通りのない街路を眺める。
切れ者で知られる隊長はある結論に達した。
(これは罠だ。おそらくこの奇襲作戦はバレている。市街地に降りた途端に建物の陰から敵部隊が現れるという寸法だな。ふんっ!こんな小細工にかかるほど愚かではないぞ!)
「全機よく聞け!これより南の森の中に降下する。そして森を走破し、目的地のフォリターナ宮殿南側広場の目の前に出る!続け!」
隊長機が森へと転身すると、全機が隊列を乱すことなくこれに従う。
隊長は見事な連携行動を見ながら(全く何が幸いするか判らんな)と考える。
最初に狙撃された2人、奴らは部隊のお荷物だった。勝手な行動ばかりで命令無視などいつもの事だったのだ。それ故に、もし生きていたなら市街地に下りていたかもしれん。そうなれば不本意ながら市街地で包囲網を突破しながら目的地へ進軍せざるをえなかったところだ。
「降下する!その後『キャリアローター』は森林上空で待機!」
森の上空でホバリングする『キャリアローター』から切り離された『ガーリー』が次々と森の緑の中に吸い込まれていく。
彼等が降り立ったその場所は・・・『ヴァルキュリア騎士団』の包囲網の真っ只中であった。
「敵奇襲部隊は予測通りの座標に降下し、現在『ヴァルキュリア騎士団』と予定通り交戦中です。敵の行動は全てこちらの手のひらの上、全てがシナリオ通りです」
眼下の民衆にバルコニーから手を振る3人の王族に、側近が背後から報告する。
ランベルト王とルミエラ女王は思わず笑顔を引きつらせながらフィリア姫を見つめてしまう。
フィリア姫は驚いた様子もなくにこやかに手を振り続けていた。
「本当に、敵のとっさの行動まで予測するなんて・・・」
「何故これほどの人物が今まで噂にも上らず野に埋もれていたのだ?」
思わず呟くルミエラ女王とランベルト王に、フィリア姫は呟き返す。
「ミリーは絶対にあげませんよ」
「アルベルトさん。戦闘機モードで『キャリアローター』を叩きに行こうか?」
暇を持て余すリークにアルベルトが釘を刺す。
「お前にはこのあと重要な任務が待ってるだろ。万が一機体が損傷して任務に支障があっては困る。だから今は待機だ」
「へーーい」
リークは渋々承諾する。
「全機!応戦しながら目的地を目指せ!何故だ!何故こんな事になったんだ!」
奇襲部隊の隊長は愕然としながらも、隊長としての責務を果たそうとしていた。
奇襲部隊が降下した地点には、南側にシオンが率いる5機、北側に副長のアンリが率いる5機の『ヴァルキュリア騎士団』が展開しており、奇襲部隊は『ヴァルキュリア騎士団』に南北から囲むように挟まれる形になった。
『ヴァルキュリア騎士団』はサブマシンガンを掃射し、『ガーリー』にダメージを与えていく。
「仕留めようなどと欲張るな!ダメージを与え続けるつもりでかかれ!距離を取れ!動き回れ!」
シオンの注意が飛ぶ。『ヴァルキュリア騎士団』の少女達は指示に従い、木々の間を動き回り銃撃を加える。
奇襲部隊は足を止めない神出鬼没の相手に的を絞る事が出来ない。銃撃を盾で防ごうにもあらゆる方向から飛んでくる銃弾を防ぎきる事は出来ず、一機また一機とダメージ限界を超えた『ガーリー』が沈んでいった。
「何なんだ?!こいつらは!」
「こんなマシーナ同士の戦闘は聞いた事がねぇ!」
奇襲部隊の騎士が口々に叫ぶ。
業を煮やした1機の『ガーリー』が『ヴァルキュリア騎士団』の中の1機の『フェルヴォーリン』に絡みつこうと突進してくる。
「訓練通り釣り出します!」
目を付けられた『フェルヴォーリン』の少女は叫び、『ガーリー』が離れ過ぎない程度に後退を続ける。
追いかけて来た『ガーリー』は、引きずり出されていることに気付かず、突出した所で左右後方から2機の『フェルヴォーリン』に一気に間合いを詰められた。そして1機が近距離で銃撃を加えると『ガーリー』は慌ててその方を向き盾で防ごうとする。その隙を逃さずもう1機が後ろからコックピットに剣を突き立てた。
「やった!やりました!!」
トドメをさした少女が喜びの声を上げる。しかし、
「危ない!」
喜んでいた少女は仲間の声に我に返ると、別の『ガーリー』が既に間近に迫り剣を振るおうとしているのが目に映った。
数日前であれば身体が竦んで何も抵抗出来なかったに違いない。しかし今、少女は慌てながらも反射的に盾を構えて防御姿勢をとる。そして、これから被るであろう損傷を覚悟した。
が、次の瞬間『ガーリー』の剣を持つ腕は切り落とされコックピットから剣が突き出した。『ガーリー』の背後から出て来たのは副長アンリが操る『ブリュンフィーダ』だった。
「足を止めるな!敵を倒した後は足が止まりやすいと隊長に何度も注意されたでしょう!喜ぶのは最後!今は動く!」
「すみませんでした!」
アンリの叱責が飛び、少女達は速やかに戦列に復帰する。
その様子をモニターしていたシオンは満足げに微笑んだ。
「うん。これなら大丈夫だ」




