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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
66/311

1-66 リンドの悪魔 14

「ジョン聞こえているか?格納庫の扉が閉まったら『バリスタン』を起動。マシンガンを装備して扉の前に立て。中央にだぞ」

「剣では駄目なのですか?騎士としてはやはり剣で・・・」

「駄目だ。指示に従え。あと『タイニーゴート』のコックピットの位置を把握しておくよう言っておいた筈だが出来ているか?」

「はい。待機してすぐに確認しました」


 『タイニーゴート』は『レッドゴート』の廉価版であるが『レプリカ』というよりは『ディフューザ』と言ったほうがよい機体だった。

 この確認は、この場所に待機するよう言われた時に一緒に指示されたものだ。ジョンとしては何故そんな確認が必要なのか未だに解らないが、初めて見るマシーナであることから嬉々として真っ先に確認していたのである。


「よし。ならば、目の前の扉が開き始めてマシンガンの弾が通る程になったら、コックピットの位置にマシンガンをぶっ放せ」


「・・・え・・・」

「どうした?聞こえなかったか?」

「いえ、聞こえましたが・・・そんな卑怯な手ではなくもっと正々堂々と」

「貴様はさっきの話をちゃんと聞いていたのか?」

「はい。しかし・・・」

「言った筈だ。従わねば首を刎ねる、と」

「・・・判りました・・・」


 ミリーとの通信が終わってから、ジョンは直ぐにマシーナを起動させる。テキパキとした動作とは裏腹にジョンの気持ちは晴れない。

 こんな騙し討ちのような戦い、父や祖父に聞かれたら何と言われるだろう。一族の面汚しと叱責されるだろうか。このような非道な命令は無視してもよいのではないだろうか・・・しかし・・・。

 ジョンが後ろの司令棟を振り返ると、二階の窓際にミリーが立ってこちらを見ていた。


 ジョンはミリーに無線を繋げる。

「どうした?」

「一つだけ教えて下さい」

「ん、答えられるものならな」

「『正義が勝つ』のですか?『勝てば正義』なのですか?」

 ミリーは静かに優しい声で答える。

「戦いにはどこにも正義なんてないよ。あるのは主張の違いだけさ。だから大丈夫。気にするな」




 カイトは最後の部署である第3格納庫の陸戦部隊を引率に行った職員から、第3格納庫の扉が全て閉じられていて彼等が出て来ない、との報告を受けていた。

「くそぉ、ばれたのか」

 カイトは衛兵の半数を引き連れて第3格納庫に向かった。

「抵抗せずに今すぐ出てくるんだ!」

 第3格納庫の正面入り口で拡声器を使って呼びかけるカイト。何事だとばかりに周りの施設から何も知らない野次馬の職員達が集まり始めていた。


 その時だった。グィィーンガラガラと格納庫の大扉が開き始める音がし始めたのだ。

「あっちだ!急げ!」

 カイトは衛兵を引き連れて大扉に急ぎ向かう。


 ジョンはまだ迷っていた。父や祖父は正義が絶対だと言った。ミリーは正義などないと言った。どちらかが正しいのか、どちらも間違っているのか、どちらも正しいのか。

 運命の扉は開き始めた。『バリスタン』の足許にカイト達が集まってくる。もう迷っている時間はなかった。ジョンは・・・頭の中が真っ白になった。


 ガガガガガガ!!


 辺りに『バリスタン』が打ち放つマシンガンの轟音が響き渡る。弾は段々と広がる扉の隙間に確実に吸い込まれて行き、扉のすぐ後ろから何かが破壊される音と火花が確認できた。

 カイト達は何事かと驚いていたが、扉がある程度開くと状況が把握できた。

 扉のすぐ後ろに立っていた『タイニーゴート』はコックピットを完全に破壊され、ゆっくりと後ろに倒れていく。


 一番驚いたのは、作戦の強行を決めた工作員達だったろう。有り得ないと思っていた反撃を喰らったのだ。しかも奇襲という形で。

 リーダー格の男は銃を構えたまま呆然と倒れていく『タイニーゴート』を見つめていたが、『タイニーゴート』が倒れる大音響と振動に我を取り戻し、行動を開始しようとする。

 しかし、工作員達は、自分達の目の前の地面が轟音と共に吹き飛ぶ衝撃に身を竦ませた。『バリスタン』が彼等の足許をマシンガンで掃射したのだ。

「武器を捨てて手を挙げろ!」

 マシンガンを向けるジョンの警告に、工作員達は完全に戦意を喪失し、武器を捨て投降したのであった。




 工作員と協力者達がおとなしくカイト達に連行されて行った後、ジョンは倒した『タイニーゴート』に目をやる。

(やっぱり、バズーカとナバームだ)

 既製品であるため見慣れた武器だ。だからこそ、倒れていく『タイニーゴート』の両手にそれを認めた時にジョンは戦慄を憶え、『タイニーゴート』を倒した後、武器を手にした彼等を見た時に、反射的に彼等の足許を掃射してしまったのである。

 もし命令を無視して剣を取っていたら、もし主義を貫いて名乗りから始めようとしていたら、きっと辺り一面火の海になり背後の司令棟は破壊されていたに違いない。


 ジョンは無意識に後ろの司令棟を振り返る。

 すると二階の窓際に、ミリーがさっきと変わらぬ様子で立ってこちらを見ている事に驚いた。

(ミリーさん、どうして逃げていなかったんだ?俺が命令を無視するかもしれないと判っていたのに)

 そしてジョンは気付く。ミリーは自分の事を信頼してくれているのだと。命を賭けて信頼してくれたのだと。

「そう言えば、騎士の心得に『信頼には誠意を以て応えるべし』というのがあったな。騎士道なんて・・・矛盾だらけだ」

 そう呟いてジョンが溜め息を吐くと、ミリーから無線が入る。その声はとても優しかった。

「お疲れ様、ジョン。最後の判断は見事だった。これで安心してお前に姫を護らせる事が出来る」

 それは近衛騎士として最高の讃辞だと、ジョンは微笑むのであった。




「ミリーさん。全員拘束しました」

 カイトの報告を受けてミリーが動き始める。

「ご苦労。では所長を引っ立てて参るとするか」


 二人は所長室に出向き、これまでの経緯を所長のジョージに報告する。蚊帳の外に置かれて最初は憮然としていたジョージであったが、話が進むにつれて顔色をなくし、最後はうなだれて頭を抱えるのであった。「そ、そんな・・・工作員と協力者とは・・・しかも200人も・・・」

 ジョージの頭を今支配しているのは、自分の責任問題だった。もはや軽微な罰で済む筈がない。

「み、ミリー殿。私への罰は一体どんな・・・」

「そんな事より、ついて来て現実を視るんだな」

 そう言われたジョージは、大人しく後をついて行くしかなかった。




 第9倉庫に到着すると、ミリーはまずレミィに声をかける。

「レミィ、お疲れ様。ここはもう終わりだ。司令室戻っていいぞ。ただもう一つ仕事を頼まれてくれ。これより基地はA級臨戦体制に移る。戦闘機部隊は14時05分、攻撃機部隊及び爆撃機部隊は14時30分発進とする。司令部のみんなに発進準備の指揮を執らせてくれ」

「わ、判りました!」

 思わぬ展開にレミィは緊張を隠せない。

「あと、この第9倉庫には誰も近づかないように通達を出して。それから、司令室のみんなの拘束を解除する。どこへ行ってもいいし、誰と何を話そうが構わない。自由だ」

「は、はい!」

この朗報にレミィは満面の笑みを浮かべて返事をすると、大急ぎで司令室に戻って行くのであった。


「ミリーさん、攻撃機と爆撃機の発進時刻が遅いのでは?戦車部隊は国境を越えた所を叩くべきでは?」

 カイトの疑問にミリーは仕方ないと言うように首を振る。

「それじゃ逃げられる可能性もあるだろ。ソーン渓谷まで入り込ませて叩く。あそこなら逃げられない。・・・奴らは・・・皆殺しだ」

 ミリーはそう言うと、嬉しそうにゾッとするような笑みを浮かべる。そして、


「その前に、こちらの楽しいショーの始まりだ」


 そう言って大倉庫の入り口を開くのだった。


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