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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
65/311

1-65 リンドの悪魔 13

 倉庫の中で一カ所に集められ座らせられている職員達。彼等には既に何が起こっているのか判っていた。

 衛兵に尋ねるまでもない。彼等が見つめる死体と柱に拘束された者達の姿が全てを物語っていた。

 バレていたのだ。彼等の企てはとっくにバレていたのだ。そして、自分達も反逆の徒として処断されるのだ。


 ナーシャの婚約者であるトニーも座り込む人々の中にいた。今、彼の心の中はナーシャに申し訳ないという気持ちで一杯だった。

 そんなトニーに近づく人物があった。カイトである。


「俺達はどうなるんだ?カイト」

トニーは、そう情けない声を上げる。

「トニー。その事も含めてお前に言っておかなければならない事がある」

 カイトは辺りを気にしながら言葉を続ける。


「ミリーさんの正体の事だ。ミリーさんは『ミーア=リーア=シュタインロード』だったんだ」

 カイトの告白から、継承者(サクセサー)であるトニーは全てを理解し、その表情は驚愕と絶望が入り交じったものとなった。

「じゃあ、俺達は『首狩りの悪魔』の怒りに触れてしまった、という事なのか?俺達はあの『リンドの悪魔』に首を刎ねられるという事なのか?」

 カイトは無言で頷く。

「このままではそうなる。だが僅かに希望はある」


 トニーはすがるような眼差しをカイトに向け、カイトはせっつかれるように話を続ける。

「いいか。俺は今、ミリーさんに指名されて直下で動いている。だから直接に口を利ける立場にあるんだ。だから命だけでも助けてもらえないか陳情するつもりだ」

 カイトの思わぬ朗報にトニー僅かに笑みが戻った。

「上手くいくのか?お前の立場が悪くなったりしないか?」

「判らん。が、しかしそれにも大前提がある。それはお前たちが協力的である、と言う事だ。少しでも暴れたり抵抗したりすれば、二度とチャンスは廻って来ないと考えろ」


 トニーは何度も頷く。

「アソコに縛られている連中が、皆で行動を起こせば上手く行くと甘い言葉を掛けるかもしれん。しかし、相手はあの『リンドの悪魔』なのだ。どんな結末になるか判るよな」

 トニーはさらに何度も頷く。

「しかし、お前以外の連中は、あの実在する『リンドの悪魔』の恐ろしさを知らない。だから、お前が皆を抑えるんた。出来るな。俺は『リンドの悪魔』と交渉しなければいけないんだ。それと比べたら簡単だろ?」

 トニーは「やってみる」と決意に満ちた目で言い、カイトは深く頷く。


 カイトは少し心苦しかった。なぜならこのトニーへの指示はミリーと協議した作戦の一環だったのである。

 捕縛した協力者をどうやって作戦終了まで大人しくさせておくか、ミリーがカイトへの課題にしたのである。

 カイトは協力者に継承者(サクセサー)がいる事から、ミリーの名を使って脅す方法を思い付き、恐る恐るミリーの顔色を伺いながら提案してみたのである。

 すると、意外にもミリーがこの作戦をことのほか気に入り、

「そうそう。私の悪名はそうやって利用するものなのさ」

 と言ってニコニコご機嫌で快く了承したのだった。

 因みに、協力者の処遇についてもお伺いをたててみたのだが、こちらについては、

「私が手を下そうがくだすまいが、反逆者の扱い方に変わりはあるまい」

 と、バッサリであった。この事はトニーには言っていない。殺されるまでは交渉中と言い訳が立つからである。




 ミリーは司令棟の二階の会議室から眼下の第3格納庫を注視していた。この格納庫は陸戦部隊が使用している格納庫である。

 今回、敵を捕縛していく順番をカイトに決めさせた。その結果、この陸戦部隊の部署が一番最後になったのである。呼び出す効率を考えればこの順番は悪くはない。しかし、入り込んでいる工作員の力量を考えた場合、一番最初に潰しておきたい部署だった。

(まぁ、それが判らないのは仕方なしだな。私がフォローすべきところだ)

 そう考えて視線を格納庫の脇に移す。そこにはフィスリニアから持って来た『バリスタン』を載せたトレーラーとジョンが待機していた。クリムは第9倉庫の見張りを取り仕切っている。

「さて、ジョンが騎士として使い物になるかどうか・・・」

 ミリーは、そう独り言を呟いて、お茶を啜るのであった。




 ジョンは倉庫の側で待機しながら、さっきのミリーとの会話の事を考えていた。


「ジョン。『騎士』にとって大事な事は何だと思う?」

 突然話を振られたジョンは戸惑いながらも、そこは騎士の家系、小さい頃から言い聞かされてきた言葉が素直に口をつく。


「はい、それは、主君への忠誠、礼節、神に恥じる事のない行動、それから・・・」


「はん!」

 鼻で嗤い説明の腰を折るミリーにジョンはムッとしながら問い返した。

「な、何が可笑しいんですか?」

「いや、そう言えば最近、お前とクリムが新人に叩き込んでいる戦いの前の作法も『騎士道』と言うものの一環か?」

「はい。騎士の行動の基本です。基本はしっかりと教えて・・・」

「やめておけ」

「は?」

「そんな役に立たないものを教えるな。貴様が信じているそれは自己満足の産物に過ぎん。そんなものに陶酔している限り、貴様の主君になった者は死ぬだろうな」


 己が信じる騎士としての全てを否定されたジョンは、不快感を隠そうともせず表情に表す。ミリーはその事に反応するように微笑みながら言葉を続ける。

「まぁ、完全否定は言い過ぎだな。平常時や典礼時には必要かもな。しかし、このような有事の際には邪魔になるだけだ。いいか、騎士にとって一番大切な事は、主君を守りきる事、民を守りきる事だ。当たり前の事だが、騎士道とやらを尊ぶあまり、その当たり前の事が疎かになる騎士が多いのだ」

「いいか、主君を民を守るためには手段を選ぶな。何が正義かなどと考えるな。どんな手を使ってでも主君と民を守れ。必要な泥は進んで被れ、主君の代わりにな。どんな汚い泥でもだ」

 ジョンは素直に同意出来ずに黙り込む。

「まあいい、後でじっくり考えてみろ。考える時間があればだがな。判ったら行け。細かい事は無線で指示する」




 ジョンは、トレーラーの中で考える。

 やはり、ミリーさんの言う事には素直に承諾できない。

 父からも祖父からも『騎士道なくして王道はなし。高潔なる信念と行動があって初めて神から勝利という恩寵を与えて戴けるのだ』と言われ続けてきた。

 父も祖父も尊敬出来る立派な騎士なのだ。そのお二方が間違った事を言う筈がない。

よし、この作戦が終わったら、ミリーさんにしっかりと騎士道について聞いて貰おう。


 そう決意したジョンを尻目に事態は進んで行く。


 一人の職員が早足で第3格納庫に戻って来たのがジョンからもミリーからも確認できた。ジョンは特に気にしていなかったが、ミリーは眉間にしわを寄せて呟く。

「やはりそうなるか・・・」




 第3格納庫では外から戻って来た者も含めた4人が何事かを協議していた。

「間違いありません。面接が行われた部署の仲間と協力者は一人も帰って来ていません」

「どんな面接が行われているか聞いたか」

「はい。ですが戻って来た者達は口を揃えて言っています。面接などなかった。別の出口からそのまま帰された。と。これはまさか・・・」

 戻って来た男の話にリーダー格の男が腕組みをしながら考えをまとめる。

「信じ難い事だが、こちらの計画と人員が全てバレているとしか思えん。おい、部長はなんと言っていた?」

 報告をしていた男は戸惑いがちに答える。

「それが・・・部長も副部長も・・・見あたらないんです。店舗も準備しかけたままで・・・」


 リーダー格の男はこれ以上ない程に険しい表情で決断を告げる。

「敵が一体どれだけの規模か見当もつかん。しかしこのままやられる我々ではない。少々予定とは異なるが今から制圧作戦を行う!お前たち!至急格納庫の扉を一旦閉めろ!ザン!『タイニーゴート』に搭乗しろ!マシーナを使う予定は無かったが仕方あるまい!次に扉を開けたタイミングでマシーナのバズーカとナバームで一気に周辺施設を破壊し混乱を利用して仲間を救出、後は予定通り制圧する!敵もまさかマシーナで反撃されるとは思っていない筈だ!『リンドの悪魔』でもない限りはな!さぁ作戦開始だ!」




 第3格納庫の巨大な扉が左右から閉じていく様を見下ろしていたミリーが軽く溜め息を吐きながら呆れたように呟く。

「全くここまで解りやすいと面白みがないな。まぁ、こちらにもジョンという不安要素があるからいいか」


 そしてミリーはジョンに指示を与えるべく、無線機を手に取るのであった。

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