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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
54/311

1-54 リンドの悪魔 2

「適材って?」


今はまだローデモング帝国にいる二人の人物、ケニー=ザリアードとヒース=ワーミールをミリーから勧められたアルベルトはその理由を聞き返す。

「ケニーは経済学方面に秀でていますから財務関連を任せる事が出来ます。ケニーには何度か会った事がありますがとても感じの良い男です。ヒースは地学や農作物、建築等の方面に秀でていますから治水や農業関連を任せる事が出来ますよ」

「なる程、それは助かるな。しかしそんな人物がどうしてマシーナの整備をやっているんだ?」

「世の中は技術者(テクノマイヤー)と言えば機械関係と思ってますからねぇ。技術者(テクノマイヤー)の分野が多岐にわたっていることを知らないのですよ」


 ここでフィリア姫が関心したように口を挟む。

「でもよくそんな個人の得意分野を覚えているわね。たまたま知っていたの?」

「いえ、第一世代(ファースト)継承者(サクセサー)の得意分野と所在、仕事内容は全てココに入っています。さらに言うならば、各国の軍事関係の要人の考え方、作戦傾向なども全てココに」

 そう言いながらミリーは人差し指の先で自分の頭をコンコンと叩いた。

 途方もない話にフィリア姫がどう反応すればいいか戸惑っていると、デバイスを相手にしていたマイケルが口を開く。


「グライゼから返信が来たぞ。ミリーに作戦立案及び指揮を一任したいとの事じゃ」

「では、どういう傾向の作戦をお好みか聞いてくれますか?何もせずにお帰りいただくのか、来たものを叩き潰すのか」

 マイケルがデバイスを操作した後、程なくして声ん上げる。

「おっ、返事が早いの。国民の目の前で徹底的に叩き潰したい、との事じゃ」


 ここまで鳩が豆鉄砲を食らったような顔でミリーとマイケルの会話を聞いていたフィリア姫であったが、ようやく言葉を口にする。

「ちょ、ちょっとどういう事なの?!あのグライゼがこんな話を信用するなんて!しかも作戦指揮立案まで任せるなんて!」

 フィリア姫の質問にマイケルが自慢げに答える。

「そりゃあ、ミリーのあの二つ名が効いて・・・」

「マイケル!!!!」

 突然ミリーが大声で怒鳴りマイケルの話を中断する。ミリーは動揺と怒りが混じったような顔でマイケルを睨み付け、マイケルはハッとした顔で言葉を濁した。

「まぁ、その、そういう事じゃ」

「どういう事よ!」

 条件反射でツッコミを入れてしまったフィリア姫だったが、下を向き身を硬くしたミリーを見てそれ以上の追及は止める事にした。どんな二つ名なのか、それが何を意味するのか大変気にはなったがミリーがこれほど嫌がるのだから追及すべきでないと考えたのである。

「まぁ、いいわ。で、ミリーどうするの?」

 ミリーはフィリア姫の気配りに感謝しつつ作戦を伝え始めた。




「だから止めようって言ったんですよ。悪評付きのクビだなんて、ばあちゃんに叱られる」

 ヒースはベッドの上でのたうち回りながら後悔の愚痴を吐きまくる。

「いいじゃないか。三食昼寝付きで暫くはゴロゴロしていられるんだ。解放されたら瀕死のこの国からオサラバさ」

 ケニーはもう一つのベッドで伸びをしながら答えた。


 ここは彼等が乗り込んだ軍本部の一角にある宿泊施設である。二人はその中の一室で監禁状態にあっていた。


 ヒースはベッドの上に腰掛けて、ケニーに不満をぶつけていた。

「大体、ケニーさんは『ミーア=リーア』を恐れ過ぎなんですよ。ケニーさんの師匠から一体どんな話を聞かされたんですか?私も師匠からとんでもない話を聞かされましたが本当かどうか怪しいもんだと思ってますよ。『ファウンディール』の者以外に話してはいけないと言われましたが、言っても誰も信じませんよ」

 ケニーはベッドから降りるとグラスに酒を注ぎながらヒースに尋ねる。

「お前が教えられた話を聞かせてくれないか?」

 ヒースも負けじとばかりにグラスに酒を注ぎながら答える。

「いいですよ。私が聞かされたのは・・・」




「細かい作戦は後で煮詰めるとして、取り敢えず迎撃体制から」

 ミリーは地図のバツ印の一つを指差す。

「まずはフォリターナ宮殿。返り討ちにしたいと言う事なので、20機の『ガーリー』を迎え撃つ事になります。従ってこちらもマシーナを揃えての戦いとなります。・・・アル様、こちらの総指揮をお願い出来ますか?」

 アルベルトは黙って頷く。

「同行するのは『シューティングスター』と『シャドウクレス』。リークとシオン、いいですか?」

 リークとシオンは「分かりました」と声を揃える。


「特に『シューティングスター』は『スナイパーモード』と『潜水モード』の準備調整をしておいて下さい」

 この依頼にマイケルが驚き異議を唱える。奥の手は出来るだけ隠しておきたいというのがマイケルの思惑なのだ。

「両方とも必要なのか?!海中ならば『A.O.U.』を使うのがよかろう?」

 しかしミリーはマイケルの主張を無碍に却下する。

「この前のローデモング帝国の特殊艦隊を葬ったのが『A.O.U.』だと知られた様で、『A.O.U.』の動向には注目が集まっているんですよ。ここで『A.O.U.』を動かせば敵の作戦が中止になるかもしれません。返り討ちと言う依頼ですのでそれは避けたいのですよ」

 残念と言わんばかりの表情をするマイケルを無視しミリーは話を続ける。


「シオンはアル様、フィリア姫と一緒に先にフォリターナ宮殿に向かって下さい。『シャドウクレス』が出るとなれば、フェルミール王国のルミエラ女王も『ヴァルキュリア騎士団』を大急ぎで出してくるでしょうから」

「それはどうして?」

 シオンの素朴な疑問にミリーが苦笑いをしながら答える。

「行って、ルミエラ女王とお話しして『ヴァルキュリア騎士団』の現状を見れば自ずと判りますよ。まぁ、悪い事ではないですから楽しみにとっておいて下さいな」

 シオンは(ミリーがこんな言い方をする時はろくでもない時だ)と不安を顔に出しながらも渋々納得した。


「フォリターナ宮殿の方は、フォルデベルグ王国の『レッドゴート』を中心とした『フォルン騎士団』、フェルミール王国の『ブリュンフィーダ』を中心とした『ヴァルキュリア騎士団』、そして我が国の『シューティングスター』と『シャドウクレス』。この布陣で戦います。」

 一同は頷き次の言葉を待つ。ミリーはお茶で喉を潤した後、次の話を切り出す。

「次に『ラーミザン基地』ですが・・・」




「・・・とまぁ、以上ですね」

 ヒースの話は終わり、ケニーが「ふむ」と言いながら腕を組む。

「お前にはそんな風に伝えられていたのか・・・なる程、事実とは相当異なるな」

 ケニーの言葉に、ヒースは我が意を得たとばかりに笑顔を見せる。

「でしょう。こんな話、誰も信じませんよ」

 しかし、ケニーの口からは、ヒースの思いとは真逆の事を告げられる。

「逆だよ、信じやすい方向に事実がねじ曲げられているんだ。今からお前に真実を聞かせてやる・・・」




「・・・『ラーミザン基地』ですが、かなり難しい作戦になります。工作員による占拠を失敗させ、なおかつ表向きには成功したように見せ掛ける必要があります。失敗したと判ったら奇襲が中止になりますからね。ですからこちらには・・・」

 ミリーは一呼吸おいてカップを手に取りお茶を飲む。皆が黙って見守る中、ミリーは口許にカップを留めたまま、薄ら笑いを浮かべてこう言った。

「私が行きます」


 この言葉に真っ先に反応したのは、アルベルト、マイケル、サモンの三人であり、三人とも真っ青な顔をして椅子を転ばしながら勢いよく立ち上がると、口々に叫んだ。

「大丈夫なのか?!」

「無茶はせぬよな?!」

 ミリーはニタァっと笑うとこう言うのだった。

「大丈夫ですよ。最善を尽くすだけですよ」

 そこへフィリア姫が心配そうな顔で口を挟む。

「大丈夫じゃないわ。そんな危険なところ。何かあったらどうするの?」

「『バリスタン』一機とクリムとジョンを連れて行きますよ。ああ見えても二人は生身でも騎士ですからね。いい?二人とも!」

 クリムとジョンは「は、はい!」と突然話を振られて慌てながらも返事をする。


「それでも心配だわ。ねぇ」

 フィリア姫はアルベルト、マイケル、サモンの三人に同意を求めるが三人は顔を見合わせるだけであった。

 三人は自分達がフィリア姫とは全く違う心配をしている事が判っていた。三人は一様にこう思っていたのだ。

(『ラーミザン基地』の連中は一体何人生き残れるのだろうか)

 そして三人が一様に心の中に思い描くのは、血に染まった『ラーミザン基地』に、切り刻まれた無数の死体が転がっている情景であった。




「滅茶苦茶じゃないですか!誰も信じませんよ、そんな話!ケニーさんともあろう人がよく信じますね」

 ケニーの話を聞き終わったヒースが声高に主張し言葉を続ける。

「あの数々のおぞましい二つ名には、そういう話が合うかもしれませんが、ケニーさんの話が真実だとしたら『ミーア=リーア』は人間じゃないですよ」

 ケニーはヒースの物言いに(大袈裟だな)と思いつつ返事を返す。

「『ミーア=リーア』はちゃんとした人間だよ」

 ヒースは話にならないとでも言いたげに頭に指を当て頭を左右に振った。


「私には信じれる理由が判りません。ケニーさんがその話を信じる理由を聞かせて貰えませんか?」

「他人の話を信じた訳じゃないのさ」

 ニヤっと笑って答えるケニーに、ヒースはどういう意味か掴みかねていたが、続く言葉でその意味を理解し愕然とした。

「私自身が立ち会っていたのさ。話に出てくるその有名な忌まわしい二つの戦いの時、俺は最初から最後まで、ずっと『ミーア=リーア』のそばについていたのさ」

 ケニーの思わぬ告白にヒースは動揺隠せない。

「そ、それは本当ですか?!『ミーア=リーア』とは一体どのような人物なのですか?!」

「そうだな・・・とても可哀想な少女だよ」

 そう言うケニーの心の中には、儚げな少女の顔が思い浮かぶのであった。


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